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会社でかくれんぼ  作者: 青山えむ
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第1話

 島田(しまだ)七瀬(ななせ)は常に不満を抱えていた。国立大学を卒業して入社した地元の会社は思ったほどの企業ではなかった。本社は東京にあり、世界中に工場を持っている有名企業だった。

 しかし島田七瀬が入社した地元の会社はあくまでも、その子会社。本社と同じ名前を(かん)しているが、結局は田舎にある工場だった。


 同じ年に入社した同期はエリート課へ配属された。技術部門や設計部門、人事課など。

 入社当時はそこがエリート課だとは知らなかった。日々仕事をしているうちに、そこの課がエリートだと知った。

 自分が配属された生産管理課がエリートには分類されないと知ったのはいつだったか。

 生産管理課。名前はちょっと偉そうだが、先輩社員を見ると「現場と管理課の板挟(いたばさ)み」が仕事のようだとも思った。


 管理課はとにかく「ノルマを達成しろ」の一点張り。

 生産現場は「精一杯やっているが現実的に達成出来る数ではない」の一点張りだった。

 管理課に対しては「はい」としか言えず、生産現場には「そこをなんとか」の繰り返しだった。

 どこの課も、自分が所属する課以外の仕事を経験したことはない。経験もない相手の立場を考えていると利益は上げられない。全社員共通の目的は、利益を上げることのはずだ。


 しかし生産現場の声を、形だけでも受け止める会社は珍しいらしい。

 友人が勤めた会社では「ノーと言えない」()しき伝統が残っているらしく、上の立場の人間には都合のよい報告しかしない。

 よって品質データの(かい)ざんやサービス残業が当たり前になっていた。

 そうしているうちに不良品のクレームが増えて、犯人捜しで作業者が悪者にされる。

 あまりにひどい現状に、労働基準監督署に訴えようと思ったが「名前がバレる」という理由で尻込みする人が多数だった。

 そこで一人の若者がマスコミに告発文書を送りつけてスキャンダルになった。そこの会社は現在大変らしいが、おかげでここの会社含めて周りの会社はブラック就業習慣が減った。



「まあ、楽できるなら楽したいよね」

 島田七瀬は、いつも仕事中にトイレに行ってスマホを見ている社員が羨ましいと思っていた。

 その社員はあまり能力をあてにされてはいないのだろうが、トラブルが起きた時には活躍する仕事に()いている。トラブルが起きない普段はそんなに忙しくないのだと思った。

 私にはまだそこまでのキャリアはなかった。どこで手を抜いていいのか、まだ分からなかった。今は新しい仕事を覚えることで精一杯だった。

 

 変わりたいと思っている。自分も、生活リズムも。こんな風に根が真面目だと損をする、いつも思っていた。

 仕事が出来る人、を装ってどんどん出世する人間はなかなかテキトーな人が多かった。なんだ、それでいいんだ。けれども私は小心者なので大それたことはできない。この繰り返しだった。


 そこで見つけた方法が「おまじない」だった。おまじないの本は子どもの頃に買っていた。大人になってからは「まじない」と言うことを知った。まじないを漢字で書くと「(まじな)い」になるということを知ったのは偶然だったのだろうか。

 ネットに「おまじない」の方法が書いてあった。

 紙に魔法円を描いて呪文を唱えて、強く強く願いそのまま就寝する。すぐにでも出来る方法だったので実行した。


 次の日起きた時に特に変わった様子はなかった。なんだ、なにも起こるわけがない。それでも「呪い」を実行したことで少しは心が晴れていた。


 今日もつまらない仕事の始まりだ。始業時間ぎりぎりに居室(きょしつ)に入る。

 始業の鐘と同時に朝礼が始まる。本日の仕事の確認や報告などを十五分もかけて行う。

 誰かが手を挙げて、昨日の研修会の報告をしようとした時だった。

 居室の照明が突然、消えた。一瞬にしてざわつきが起こる。みんなスマホを取り出してスマホのランプを()ける。


「ザー……ピー……」


 スピーカーから音がする。放送がかかる直前の音だった。


「生産管理課のみなさん、今からかくれんぼを行います。もちろん強制参加です。断った時点で命はありません」

 低いような高いような、不穏な空気を含んだ声がする。誰かが廊下に出ようとしたが、ドアは開かなかった。




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