一酒:栄光のカクテル
作者が贔屓にしているジャズBARの名前をそのまま使わせて頂きました。(もちろん許可は頂きました!!)
そこで飲む(週に一、二回ほど)カクテルの話などを聞いて物語にしております。
そのため不定期に近い更新なので、ご了承ください。
小さくてクラッシックな印象を持つBARで一人の青年がカウンターで酒を煽っていた。
BARの中ではショパンの夜想曲、第一番が流れていて夜との相性を抜群にさせ店の雰囲気にも合っていた。
「どうしよう。明日のプレゼン・・・・・・大丈夫かな」
「明日がどうかしましたか?お客様」
青年の独り言を寸胴型のグラス、ロック・グラスを白い布で磨きながら壮年のバーテンダーが訊いた。
179cmほどの身長に白いシャツと黒いベストが似合っていて綺麗に整えられた顎髭も魅力的に見える。
男は、BARノットゥルノのマスターで店を一人で切り盛りしている。
「実は、明日が大事なプレゼンなんです」
明日の出来で自分の昇進が決まると言う青年。
「でも失敗したら、会社を首にされてしまうと思うと・・・・・・・・・」
青年は暗い表情のまま頼んだ、ベルモットを飲む。
それを見てマスターは小さく苦笑した。
「若いのにネガティブな思考は似合いませんよ」
「だけど、どうしても不安なんです」
マスターの励ましも青年には不安という焼石には水でしかなく落ち込んだままだった。
「では、私が明日のプレゼンを前にした貴方の為に取っておきのカクテルを差し上げましょう」
青年が何をと?と言う前にマスターはカクテルを作り始めた。
タンカージンをカクテルシェーカーに40mlほど注ぎ続いてレモンジュースを10ml継ぎ足す。
グランマニエ 5ml、モナンローズシロップ 5ml、ガリアーノ 1tspに氷を入れてカクテルシェーカーの蓋を閉じた。
次にブラウンシュガーとホワイトシュガーを混ぜて逆三角形で底が少し深めのカクテルグラスのふちを白く染めた。
シェーカーを振り終わると白く濁ったカクテルグラスに振ったばかりのシャーカーの中身を注いで青年に差し出した。
「Glorious Martiniです」
「グロリアスマティーニ?」
「別名を“栄光のマティーニ”と呼ばれているマティーニです。明日のプレゼンは上手く行きます。そして貴方は栄光の階段を昇ります」
青年はマスターの優しい励ましを素直に受け取る事にした。
口を付けると鼻に薫り高い香りが刺激してきて不安な気持ちを吹き消してくれた気を青年は感じた。
甘く優しい味が口の中に広がった。
少しずつ栄光のマティーニを飲む青年をマスターは優しい瞳で見つめた。
最後まで飲み終えた青年の顔は不安な表情ではなく自信に満ち溢れた表情へと変化していてマスターは満足そうに微笑んだ。
「明日のプレゼン、頑張って下さい」
金を払いBARを出ようとした青年の背中にマスターは小さく呟いた。
青年は礼を言ってBARを出て行った。
それから青年は見事にプレゼンを成功させて出世への階段を駆け上って行った事を風の噂で聞いたマスターは、おめでとうと一人呟いた。
壮年のマスターが一人で切り盛りしているBARの名前はノットゥルノ。
そこに行けば最高のカクテルを一夜だけ味わう事が出来る。
カクテルの作り方も書きますが店や人によって違いがあるので、そこら辺は勘弁して下さい。