愛さえあれば異世界だってなんとかなる!たぶん!
「俺の叔父さんがさ、ついに番を見つけたって手紙をよこしたんだ」
「本当か!?お前の叔父さん番のためにいままで独身を貫いたんだろ?
すげぇよな。俺だったらきっと諦めちまうよ」
「俺は叔父さんに似て諦められないタイプだから、いつまででも待つつもりだ。
でも待っている間に番が別の男を選ぶかもしれないと思うと、な」
「まぁ、無い話ではないな」
「はぁ。どこかに落ちてないかなぁ。俺の番…」
「そんな落とし物じゃあるまいし」
「!っいったーい!!
何ここ?森?ちょっと、どこに連れてきたのよあの自称カミサマが!
説明不足にも程があるでしょ!」
それは突然現れた。
歩いてきた道の先で、蒼い髪の少女が道に座り込んで悪態をついていたのだ。
「…」
「…」
「…えっと」
「…見つけた」
「ん?」
「俺の、番だ」
「はぁぁぁぁぁ!」
※※※※※
「俺の番、やっと会えた。なんて美しい蒼い髪と瞳なんだ。
その色を見間違えるはずがない。俺の運命、結婚してくれないか」
「ごめんなさい!」
「なっ」
唐突に跪いてプロポーズかましてきたのは、驚くほど綺麗な顔をした男性だった。
正直言って、すっごくタイプなのよ。
理想を絵に描いたってこういうことかな。
男性なのに、美人って言葉が本当似合うの。
一目惚れ?しかも双方同時に?柄にもなく本当に運命だわって思ってしまったよ。
彼が口を開くまではね。
美人さんは即答に驚いたのか、口を半開きにして固まってしまった。
その姿すら絵になるからタチが悪い。
ますます惚れちゃうじゃん。
そう、プロポーズは嬉しいのよ。
理想の男に告られるなんてシチュエーション。
最高のタイミングでモテ期きたー!!ってね。
でも、ごめんなさい。
あなたが運命感じてる、蒼い髪と瞳は偽物なんです。
ネイビーブルーのウィッグにカラコンね。
コスプレイベントに参加中の、強制お呼び出しだったのでやむなしだ。
だから貴方のように、天然素材ではありません。
美人さんは本物の蒼い髪と瞳を持っていた。
背にかかる長めの髪は深い青。光を透してさらりと流れる。偽物のそれではない。
いや、もしウィッグだったら譲って欲しいくらいの出来栄えだけどね。
瞳もカラコンではない。
プロポーズされる直前にガン見したので間違いない。
こぼれ落ちそうなサファイアの瞳が私を見つめていたのだ。
「ごめんね。私は貴方みたいに本物の蒼ではないので」
期待させて、そして自分も期待してしまって本当に申し訳ない。
自分に呆れてため息をついた。
だいぶときめかせてもらったが、今はそれより状況把握だ。
自称カミサマがコスプレ会場からヲタクなOLをピックアップして、異世界に投げた理由を探らなければならない。でも「しばらく会えないよ、自分の役目を頑張れ」的なこと言ってたな。
その辺ちゃんとはっきりしろや。
何が役目だ、無知なOLに世界は救えないぞ。チートよこせ。
思考の海に逃げていると、美人さんはスッと立ち上がった。
あ。いい体格だな。衣装作ってあげたい。
いわゆる庶民的な服装だけど、騎士みたいな服着て欲しいとレイヤー魂が叫んでいる。
美人さんはサファイアの瞳に偽物の蒼を写したまま、私の手を取った。
うぁ美人さんに触れられると何かがHP削られてる気がする。
私のダメージに気づかないようで、美人さんは潤んだ瞳で語りかけてきた。
「あなたは本物だ。魂がそう叫んでいる。
どうか俺を捨てないでくれ。俺の唯一」
「いやいや、ですからこの髪も目も本当は黒で」
「黒髪に黒目か!神秘的だ!」
いやいやいや。取り繕わなくていいっす。珍しくないでしょう多分。
お隣のご友人さん?も何言ってんのって顔してますよ。
「後から勘違いとか言われてもしょっぱいので、やっぱごめんなさい」
「勘違いなどない!お願いだ、俺と結婚して」
「あ。すみません。近いです。キュンキュンするのでちょっと離れてください」
「そんなに俺の顔が嫌いか?」
えええええ。ちょっやばっ。至近距離で覗き込むの反則。
嫌いなわけない、好きに決まってるじゃないか!
「なんか、急展開だなぁ」
美人さんの友達らしき人(ちなみに赤髪のイケメン)は、他人事感たっぷりに呟いている。
そちらに目を向けると美人さんはさらに手を強く握ってきたが、私も見つめ合うのが限界だ。
「お嬢さん、すごい登場でこちらも驚いてるところなんだけどさ。
とりあえず言えるのは、そいつ、本気だから」
「本気?」
「本当に、あなたのことが唯一の存在ってこと」
髪の色なんて言い訳にすぎない。
心が番だと叫ぶのなら、そこに間違いはないのだ。
ってお友達さんの説明中でさえ、美人さんのプロポーズタイムは続くから話半分入ってこないのだが。
しかし、私も根っからのヲタク。こういう設定の小説は腐るほど読んだ。
その偏った知識から察するに、彼らには遺伝子レベルで「番を愛する」種族なのだろう。
個人の性格云々の以前に、その存在を理由なく愛する。
ある意味ロマンチックだが、生理的に無理みたいな相手だったら地獄だ。
自称カミサマ、とんでもない世界に私を放り投げてくれたな。
だが幸運?不幸中の幸い?なことに、私のお相手は大当たりだったというわけだ。
「ねぇ、美人さん」
「俺のこと?愛しい人」
「さっきも言った通り、この姿は作り物なの。
あと自分でもよくわかってないけど、私は世界から来たみたい。
だから何も持ってない。この身ひとつしかないの」
「異世界の落とし子か。だから突然現れたのだな。
まぁ、珍しいが時々あるというからな」
「あるの!?」
自称カミサマ、私だけじゃないのですか。別にいいけどさ!
「この目で見たのは初めてた。
…噂ではあるが、その、異世界の落とし子は元の世界に帰れないと聞いたことがある」
「帰れない」
……驚いた。思ったよりショックじゃないってことに。
正直、帰れないだろうなとは思っていた。自称カミサマはやんわりと濁したが、
こんな宇宙人みたいな誘拐のされ方をして、無事帰れるとは思えなかった。
帰ったとして浦島太郎みたいになるのも嫌だ。
もともと自分を待っている家族がいないというのも、ショック少ない一因だろう。
友達とか仕事も未練があるほどではない。
どちらかといえば、頑張って貯めた貯金が消えるとか、来月のオンリーイベントに行けないとか、
作った衣装が無駄になったとか、そういう事のほうがショックが大きい。
薄情だなぁ私。
「その、異世界に残してきたものの代わりにはならないと思う。
でも俺はこの身全てであなたを守る。だから、俺をそばに置いてくれ」
美人さんは未だ私に縋るように手を握って、まっすぐ見つめている。
サファイアの瞳。私とは違う、本物の瞳。
美人さんはそれほど私がいいのか。私でいいのか。
それならば答えは決まった。
「やめてください」
「!!俺ではダメなのか?」
「私に言わせて?
あなたが私を番だというなら信じてみたい。
きっと迷惑をかけるけど、どうか、私をそばに置いてください」
「!!
番いにプロポーズされるなんて!!!
ああ、夢のようだ。俺は世界一幸せ者だ!!」
美人さんは私を抱きしめ全身で好意を伝えてくれる。
まぁ、プロポーズのつもりはないんだけどね。
でもこんなに愛されるなんて、元の世界ではありえない。
恋愛経験値の低い私が、一生分の愛をぶつけられたら降参するしかないのだ。
「急展開すぎてついてけないが、まぁ上手くいってよかったな」
お友達さんの呆れを含んだ祝福に思わず笑ってしまった。
ほんと、急展開。
異世界の落とし子とか自称神様とか、理解を超えたことが山積みなのに、
出会った瞬間に結婚しましょう。なんてね。
これから話ことはたくさんある。
きっと、今着てるコスプレ衣装についても弁明しないと誤解されてるだろうし。
この露出、私服じゃないからね!
でもまずはここから。
「あなたの名前をおしえて?
私の名前はね…」
異世界で新婚生活に悩んだり、旦那様のために衣装作ったり。
思い出したように自称カミサマのお願いをきいてみたり。
そんなキャパオーバーの日々が続く、というのはのちのお話。