最強の男の娘。~勘違いされて女子だけの有望パーティーにスカウトされました~
「え、どうしてボクがクビなんですか!?」
「いや、そのだな。申し訳ない……」
「理由を聞かせてください!」
ある日のことだった。
ボク――ニア・リードはパーティーリーダーからクビを言い渡された。
しかし、おかしい。なぜならボクには、一つも落ち度はないのだから。リーダーに詰め寄ると、彼はなぜか頬を赤らめて視線を逸らした。
「お願いです、理由を――」
このままではダメだ、納得がいかない。
そう思ってボクが声を上げようとした時だった。
「可愛すぎるんだよ! お前を見てると、胸がドキドキするんだ!!」
「へ……?」
強面のリーダーが、女の子のように顔を顔を隠して叫んだのは。
「あの、それってどういう――」
「どうもこうもねぇよ!! みんな、お前を見てるとこう――気持ちが変な方向に燃え上がっちまうんだよ! 自覚してくれよ、自分が可愛いってことに!!」
「えー……?」
他のメンバーを見てみると、みんなモジモジとしていた。
どういうわけか前かがみになっている。
「でも、それはいくらなんでも……」
「うるせぇ! このままじゃ、俺たちは一線を越えかねないんだ!! 理性を保てているうちに出て行ってくれ、お前のためでもあるんだ!!」
「え、あ、はい……」
そうして、ボクはクビになった。
◆
「一人になっちゃったけど、どうしよう……」
翌日になって。
ボクはパーティーメンバー募集をかけて、ギルドの前で立ち尽くしていた。
理由が理由だけに、どう説明したらいいのか分からない。そんなわけだから、クビになったという文言だけが先行して、ボクは無能の烙印を押されていた。
「人、こないなぁ……」
空を眺める。
鳥が数羽、追いかけっこをしていた。
「ちょっと、アンタ?」
「へ、ボク……?」
「そうよ、アンタよ。ふーん、募集か……」
そんな長閑な光景を眺めていた時である。
声をかけてきたのは、一人の女の子だった。肩ほどで切り揃えられた金の髪に、蒼い瞳。背丈はボクと大差なく、装備から見るにクラスは剣士だろうか。
腰にあるのはその身の丈半はあろうかという剣だったが、器用にボクのことを色んな角度から確認している。そして、少し考えてから頷くのだ。
「よし、まずは合格! ――アンタ、名前は?」
「え、ボクはニア……だけど」
「アタシはリーシャ! ニア、アンタにはこれから――」
少女――リーシャは、背丈のわりに豊かな胸を張ってこう言った。
「アタシのパーティーに入れるか、テストを受けてもらうわ!」
◆◇◆
――ダンジョン中階層。
薄暗いそこには、ある程度の魔力が充満していた。
ボクとリーシャは黙々と奥へと進み、手ごろな魔物を探す。
「アタシのパーティーではいま、前衛をできる人材を探していてね? なんでもできる、っていうニアの言葉を信じるわ」
「う、うん! 合格できるように頑張るよ!」
ボクはリーシャのパーティーに入るため、テストを受けることにした。
お荷物扱いをされていたこちらとしては願ってもない展開。是が非でもここは合格を勝ち取って、冒険者としての生活を続けなければ。
そう思って彼女についてきたのだが、何やら周囲がおかしい。
「あれ、なんだか魔力が濃く――」
「しっ! 静かに! ……これは、少しマズいかもね」
そのことに、リーシャも気づいたようだった。
こちらに制止をかけて、周囲に注意を払う。
「本当はもっと弱い魔物で試そうと思っていたけど、そうはいかなくなったらしいわ。ニア? アンタは無理をしなくてもいいから、ダメなら逃げてね」
「え、それって――」
「きたわ!」
そして、彼女がそう言った瞬間だった。
『シャアァァァァァァァァァァァァァ!!』
薄闇の中から、大きな魔物が姿を現したのは。
身の丈はボクらよりも遥かに大きく、十メイル弱といったところ。長い首に、背中には翼が生えている――間違いない、アレは【ドラゴン】だった。
本来ならより下層にいる魔物のはずだが、異様に濃い魔力。それによって、この階層まで登ってきたのかもしれない。
「ちっ! しかも、一匹じゃないわね……!?」
「……たぶん、五体はいるよ」
ボクは冷静に周囲の魔力反応を探った。
すると、同等の反応がさらに四つ。こちらを取り囲むようにして、現れた。
「ニア、悪いわね。もしかしたら――」
「リーシャは下がってて。ここはボクがどうにかする」
「――え、ちょっと!?」
ボクは腰から短剣を引き抜いて、駆け出した。
背中に少女の困惑した声を受けながら。
◆◇◆
――その少年は、まさしく光だった。
そう見紛う速さで、ドラゴンを屠っていく。短剣に魔力を流し込み、その強度を遥かに上昇させる。そのことによって、並大抵の剣では切り裂けないドラゴンの鱗を、ケーキを切るより簡単に……。
「嘘みたい。なんなの? ――いったい、ニアは何者?」
リーシャはその戦いを、ただただ唖然と見守っていた。
自分一人では到底かなわない、そんな強さの魔物を、ニアは単独で次々と倒していく。最終的に、ドラゴンの叫びによって集まった他の魔物も加え――合計で、十四体。明らかに高ランクの魔物もいたのに、ニアはいともたやすく……。
「ねぇ、リーシャ?」
そんな規格外の戦いを演じてみせた人物は、笑顔で彼女を見た。
そして、こう言うのだ。
「ボク、合格かな……?」――と。
◆◇◆
「合格出来て良かったよ。これで一安心だ」
「合格も合格、大合格よ? まさかこんな可愛い顔をした子が、こんなに強いとは思わなかったわ……」
「あはは、よく言われるよ」
ボクはリーシャの後について歩く。
テストに合格したので、仲間に会わせてくれるらしい。そんなわけだから、ひとまず彼女が泊っている宿へと向かっていた。
「それにしても、こんなに強い【女の子】がいるなんて。聞いたことがなかったわ」
「…………ん?」
あれ、でも今――なにか、おかしな言葉が聞こえたぞ?
ボクが首を傾げていると、どうやら宿についたらしい。リーシャはこちらの様子には気づかずに、どんどん中へと入っていった。
慌てて追いかけると、エントランスには二人の冒険者の姿。
両者ともに、女性だった。
「ニア、紹介するわ。魔法使いのナオに、治癒師のマーズよ」
「え、あの……」
嫌な予感がした。
そして、それの正体をリーシャに確認しようとした時だった。
「ようこそ【ファントム・レディース】へ!」
彼女が、こう名乗りを上げたのは。
「このパーティーは、女性による女性のため、そして女性だけで構成される。男子禁制の清廉なチームよ!!」――と。
ボクは、しばし硬直して。
「ええええええええええええええええええええええええっ!?」
そう、叫ぶのだった。
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