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6.愚かな皇女のプライド

その後、まんじりともしないまま夜が明け、レオンハルトがセルビスに帰る日となった。

昨日までのエリザベートは彼が帰ってしまうことが寂しくて仕方なかったけれど、真実を知った今となってはそんな感情は欠片もない。むしろ一刻も早く視界から消えて欲しいと願うほどだ。


そんなエリザベートの感情を知りもしないレオンハルトは何事もなかったように別れの挨拶を交わしに部屋を訪れたが、侍女に命じて追い払った。

昨夜の会話を聞かれていたなんて思いもしないレオンハルトは全くいつも通りで、対応させた侍女を通して大仰にエリザベートへの想いを伝えてきたけれど、それが演技だと知っているだけに悔しくて憎らしくて仕方なかった。


本来なら婚約者であるレオンハルトを見送るべきだとわかっていたけれど、彼と顔を合わせて平静でいられる気がしなかったし、何より彼の顔など見たくもなかった。


エリザベートにとって、レオンハルトは特別だった。

結婚相手など臣下の一人としか思っていなかったというのに、レオンハルトの演技に騙され、いつしか彼が側にいるのが自然だと思うようになっていた。親しげに話しかけられたり、手の甲に唇を寄せられたり、そういったことをするのが当たり前の関係だと勘違いしてしまったのだ。


愚かしいとしか言いようがない。どうしてレオンハルトだけが特別だなんて思ったのだろう。

求婚のときにエリザベートの条件を当然のように呑んだからとか、まるで絶世の美女であるかのように持て囃され愛の言葉を囁かれたからとか、そんなことでレオンハルトが好きだと思ったなんて。

自分で自分の見た目のことなんてわかっているのに、レオンハルトが褒めそやすから、彼の目には自分が絶世の美女に映っているんだと勘違いして。彼が一生愛して大切にしてくれると思ったなんて。


レオンハルトが愛しているのはエリザベートではなく、祖国セルビス公国とシャーロットという女。

それを知った今ですら、レオンハルトが愛する祖国の為なら醜いと嫌悪する女に求婚し心底愛している振りができる男だったなんて信じがたくて。まるで役者のようだと思う。


そんな演技に騙された自分が愚かで悔しい。レオンハルトの本心を知っていたら、婚約なんてしなかったのに。今だって、できることなら婚約なんて破棄してやりたい。

婚約破棄どころかセルビスなんて滅ぼしてやりたい。レオンハルトが何より大切だと言ったセルビスも、愛しているというシャーロットとかいう女も、ズタズタに傷付けてやりたい。

レオンハルトの大切なもの全て、踏みにじってやりたかった。そうされたって文句が言えないことを、レオンハルトはしたのだ。


それをしないのは、エリザベートのプライドが許さなかったから。レオンハルトの無礼を公にしたならば、報復としてセルビスに宣戦布告をして滅ぼしてやることもできる。実際、今までの求婚者の何人かにはそうしてきたし、今回だってエリザベートが望むならそうすることは難しくない。

レオンハルトに同じようにできないのはエリザベートの気持ちの問題だった。これまで求婚者の無礼を声高に訴えることができたのは、彼らは有象無象に過ぎず、貶されたって何とも思わなかったから。むしろ他国を攻め滅ぼすいい口実とさえ思っていた。

だけど今回は。婚約は成立してしまっているし、2人の仲睦まじい様子は帝国貴族にはある程度知られている。昨日の婚約披露パーティでは仲睦まじい様子を貴族らに見せつけたし、それまでだってレオンハルトのエリザベートへの献身的な愛は皇城内で有名だった。

それなのに急に婚約破棄を申し出るなら、理由を問われるのは必定。昨夜のことは誰にも言いたくない以上、このままレオンハルトと結婚するほかない。


だから出立前のレオンハルトに会わなかったのは、せめてもの意地だ。

プライドの為にこのまま結婚はするけれど、レオンハルトに帝国での居場所はやらない。セルビスにだって何一つ便宜を図ってやるものか。

国の為に醜い女と結婚するのに、その見返りが何もないのだと知って絶望すればいい。


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