その人のドラマ1
同内容の小説の、スタイルを少し変えたものに文章の編集を行っています。前の話との繋がりがずれますので、お読みになる方にはご迷惑をおかけします。
〜面接〜
「高羽田さん、体調はいかがですか?」
「まぁ、少し落ち着きました」
「事情は林さんから伺いました。大変でしたね」
予想とは裏腹に、女性のことを思い出したらしい高羽田さんの表情は、急に穏やかになった。
「みんなは、なんなかんやと騒ぎ立てましたがね、あたくしはそういう風には思ってないんですわ。まぁ、病気になったんで困ったことにはなりましたがね。金には困ってない訳だし。
あぁ、ここの支払いは年金が入ってからでも大丈夫でしょうか」
「もちろん、大丈夫ですよ」
林さんと同じ言葉が出たことで、彼女がいかに親身に支援していたかがうかがえる。
「すみませんねぇ。林さんも、色々ご迷惑をおかけします」
先程、林さんから聞いた高羽田さんの気持ちというのは、僕が想像する以上に愛情が込められていたように思う。
「あの人はね、体力がなくなってスーパーまで買い物行くのも大変な私を知っていたんですよ。
こうなるまでは、お金を預けてもちゃんと買い物して帰ってきてくれたし、洗濯、掃除、料理、なんでもしてくれた。あたくしが手を出すと座ってなさいと怒られたもんです。
きっと、何か理由があったに違いない。
妻に先立たれて、もう何年にもなる。ちょっと浮かれたっていいだろうと思ったが、そんな邪心なんて知ってか知らずか、彼女は本当によくしてくれたんですわ」
「わかりました。悪い方ではないと感じておられたんですね。当院の支払いは月末請求ですから、その時また対応しますね。それからご病気のことですが、元々肺が悪かったのですか?」
「まぁ、渕が裏に軍港があった時に船の仕事をしてたから、そんなこともあるかと思ってたんですがね、今までは何もなかったんですわ。まぁ、ここまで長生きしましたし、辛い治療は、あまりしたくないんですがねぇ。それにあたくしは独り者でしょ。こまったことになりました」
「林さんからは、弟さんがおられると伺いましたが、あまり連絡はされないんですか?」
「あぁ、奴も脳出血だったかをして杖をついておりましてね。年賀状はやりとりしますが、東京におりますもので行き来はありませんねぇ」
「そうでしたか。ただ、今回は入院になっておられますし、お許しいただけるのであれば弟さんに連絡させていただきたいのですが・・・よろしいでしょうか?」
高羽田さんは、はぁとため息をつくと、
「まぁ、そうですね。ただ事じゃないですし仕方ないですな。他に親族というのはおりません」
「お電話してみて、ご協力頂けるようなら相談させてください」
「わかりました・・・まぁ、あまり頼りにはならんかもしれません」
「他にご兄弟やお子さんは・・・」
「いや、子供はありませんで。兄弟も、もう末の弟だけです。姉や兄はもうなくなりました」
「そうでしたか。すみません」
「いやいや、歳も歳ですからいいんですよ」
「色々伺ってすみません」
ここまで話したところで看護師が顔を出した。
「お話中すみませんが、点滴があって、いいですか?」
他には銀の盆と点滴のセットがあった。
「では、私はここで失礼します。また、弟さんとお話しできたらご報告しますね」
高羽田さんは、また優しく、
「ご迷惑をおかけします」と言われた。
席を外した僕に、民生委員の林さんもまた、よろしくお願いします、荷物の片付けをしたら私も帰りますね。と、高羽田さんに声をかけていた。




