逆さまになった本の謎 3
彼等はミステリ好きだった。
それが高じて探偵部なるものを作ったはいいものの、どちらもホームズ役を譲らなかったらしい。
それで、二人とも名探偵を名乗っているというわけだ。
男の方は、名を車六啓。
女の方は、自分から法水エリカと名乗った。
二人の名探偵。
あるいは迷探偵。
どちらにせよ、ここまで来た以上、私は二人に事情を話すことにした。
逆さまになった本の謎を。
※※※※※※※※
二人とも、予想外の食いつきだった。
私の発言を一字一句逃さぬかのように聞いている。
「最初に事件に気がついたのは、私と一諸に図書委員を務めている神田くんでした。」
放課後にも、図書委員には本の整頓など若干の仕事がある。
その仕事をやろうとした矢先、先に図書室に入っていた神田くんが血相を変えて話してきたのだ。
曰く、おススメの書架本が全て、逆さまになっている、と。
気味が悪かったが、その日は取りあえず本を二人で元通りにした。
冊数が多く、結構重労働だったのを覚えている。
そして次の日の朝、気持ち悪いから念の為に図書室を確認してから教室に行こうと、神田くんと決めていたのだ。
それが今朝のこと。
そして案の定、戻したはずの本は全て逆さまにひっくり返っていた。
私の話を落ち着いてきいていた二人。
だが話終えると矢継ぎ早に質問をしてきた。
曰く、図書委員の仕事はいつからいつまでなのか。
図書室にはいつも人がいるのか。
いるとしたら何時台が一番多いのか。
その他諸々、関係ないようなことまで。
一通り答え終わった後、二人の表情をうかがうと、車六にしろ法水にしろ、どちらも満足したようだった。
それから二人で顔を見合わせると
「あなたは?」
「お前のほうこそ、どうなんだ?」
「もちろん、分かったわ」
「奇遇だな、俺もだ」
「あたしから言っても?」
「どうぞどうぞ」
車六は丁重に腕を差し出す。
法水はきらりと輝く目をこちらに向けた。
「あのねえ、和戸さん」
「はい。」
私は緊張して答える。
「それは、暗号だと思うの。」
彼女は自信満々に告げたのだった。