プロローグ
連載再開しました。ご要望にお応え、二部です。
また1~2か月ほどお付き合いくださいませ。
その青年は夜空を見上げていた。
暗い静かな自室に明かりを灯すことなく、頬には月光を滑らせ、瞳は星の光を映していた。
なにも考えてはいなかった。けれど、王位を継ぐはずだった一番上の兄がいなくなってから、胸の中にはもやのようなわだかまりが常にあった。
その不快な感触を夜の暗闇に溶かすように、彼はこうやってたまに起きては吸い込まれそうな藍を見つめるのだ。
太陽の神々しいまでの明るさは一番目の兄のよう。
宵闇の中に浮かぶ、冴え冴えとした月は二番目の兄のよう。
それならば、自分はなんなのだろう。
そう、青年は考える。
太陽にも月にもなれなかった自分は、ただただ太陽の代用品でしかないのだろうか。それならば、もういっそのこと多くの星に慕われる月になりたかった。
無能と蔑まれようとも、生まれを笑われようとも、城の中で軽んじられようとも。他の何物でもない自分になりたかった。
二人の兄は彼にとっての憧れであり、妬みの対象だった。
「ルトラス様」
その声に振り向く。すると、部屋の中に先ほどまでいなかった影がこちらをじっと見据えていた。手には緑色に輝く石が見える。
恐怖はなかった。正確には恐れるところまでいかなかった。
自室に誰かがいることにただただ驚いてしまって、声さえも出なかった。
男の手にある石がほのかに輝き始める。それと同時に自分の心が深く誰かに浸食されていくような気がした。
「恨むのなら、かの王を……」
意識と記憶が混濁する寸前、ルトラスは確かにその声を聞いた。




