1章 07 暗示
朝が来た。
こんなにも嫌な朝は久しぶりだ。だけどここでやらなきゃ殺られるってことを知っている。
「しょうがない、しょうがない。」
自分に言い聞かせるために何度も呟く。
少し呟いてからまず顔を洗う。鏡に映る自分の顔は歪んで見えた気がした。そんなことはすぐに頭から消し、急いで朝ごはんを食べようとした。だが、不思議なことに準備をし終わった時には食欲が無くなっていた。
「材料、無駄になっちゃった。」
俺は少しため息をつきとりあえずラップを掛けて冷蔵庫に入れておいた。帰って来た時に食欲は無いだろうが、一応のために入れて置く。
さて、朝食を食わずに終えて、時計を見て、驚いた。予定の時間があと5分ほどだった。別に少し遅れたほうがいいのだが、予定には朝食を食べて着替えて終わっていたはずだ。きっとこれは、学校に行きたくないみたいな感情のせいなのかもしれない。
体がだるい。
動きたくない。
でも、やらなきゃいけない。
俺は、急いで着替えた。とりあえず予定よりは遅いがちょうどいいくらいだ。俺はなるべくポジティブに考えるようにした。そうしなくては、耐えられない。
楽しい雰囲気をだしながら適当なことでも考えていたら、着いてしまった。高倉さんの家に。
一瞬で背筋が凍りついた。自分がこれから何をするのかが明確に分かってしまう。周りには誰もいない。今のうちに入ってしまおう。俺は裏口にまわった、やはり鍵は閉まっていなかった。
「第一関門突破ってとこかな。」
冷や汗がたれてきた。自分は今人の家に勝手に入ってしまった。そして今から空き巣になるということが、胸を締め付けた。
「しょうがない、しょうがない。」
俺はひたすらに呟いた。その暗示さえ今はほとんど意味が無くなっていた。
俺はとにかく大事そうな場所のみ探した。あまり荒らすとばれてしまうかもしれないからな。そしていかにも重要そうな金庫があった。鍵はかかっていなかった。