第9話 至れり尽くせり!
冒険者ギルドから出てきた俺たちを迎えてくれたのは、
この町まで一緒に来た御者のおじさんと、護衛のおじさんの2人。
「それでは、登録も済ませれましたので、今日から、
皆様に使ってもらうお屋敷にご案内させてもらいます」
そういうと、俺たちを馬車に乗せて出発した。
「そういえばヒロキは、村に住みたいって言っていたよな?」
ケンジの奴が思い出したように言ってくる。
「ああ、でも今はこの辺境領にどんな村があるのか調べたいから
しばらくこの町で暮らしていくよ」
そういうと木下先生が心配そうにする。
「相沢君、どうしてそんなに村にこだわるの?」
「先生、こだわりじゃなくて土魔法を生かす職業って
農業しか思い浮かばなかっただけですよ」
すると、木下先生は安堵した表情を見せて
「それなら、相沢君にもできる職種を見つけましょう」
「そうだな、いろんな事やって見つけようぜ~」
「ケンジもな!」
そうやって馬車の中で今後を話していると、屋敷に到着した。
「皆様、ここが今日から皆様が使うお屋敷になります」
そこは豪邸だった。
正面の門を入る前から分かる豪邸。
皆の最初の感想は、『大きい』の言葉しかなかった。
馬車ごと正門から入ることができ、正門から屋敷の玄関まで約20メートル。
馬車を降りて、玄関に向かうと玄関も大きい!
俺たちが横に3人並んでも、まだ余裕があるほどの大きさだ。
御者さんが下りてきて、玄関の鍵を開けてくれると
その玄関の扉をスライドさせて開けてくれた。
「スライド式とは珍しいですね」
「はい、この屋敷はある貴族が有名な建築家に作らせたものらしいのですが
その貴族がこことは別の領地をもらい、引っ越したため売りに出していたものを
ゴージナ辺境領主が購入されたものだそうです」
「領主の持ち家ですか…」
「ですが、領主様はあのお城に住んでいますから
ここは誰も住んでいなかったのです。
しかし、遊ばせておくのももったいないということで売りに出そうかという時に
皆様の話を騎士団長様から受けて、ここを使ってくれと提供されました」
「それは、なんか申し訳ございません…」
「いえ、将来的には買い取ってくれることを期待されているみたいでしたよ」
御者さん、いい笑顔ですごいことを言うな~
「御者さん、ところでお名前を聞いてもよろしいですか?」
「はい、私、ゴージナ辺境伯様に仕える執事の1人セルナーと申します」
「やはり、ゴージナ辺境伯様の関係者でしたか…」
こうして、御者さんの正体もわかり話をしている時、
みんなは屋敷の中を見て開いた口がふさがらなかったそうだ。
「それでは皆様、ここが1階玄関ホールでございます。
左手の扉の奥がキッチンとなっており、右の扉の奥は使用人の部屋となります。
正面の扉の奥は食堂になっており、キッチンとはつながっておりますので
温かい食事を直接運べるようになっております。
それから、皆様のお部屋ですが、両脇にある階段の登った2階が
皆様個別のお部屋となります。
どのお部屋にするかは、話し合ってお決めになられるとよろしいかと思います。
それと、おトイレは階段を上がって2階のすぐの所に2つ。
後は1階の階段そばに2つの計4つございます。
あとお風呂がございまして…」
お風呂の存在には、全員が食いついた。
「セルナーさん、この屋敷にはお風呂があるんですか?」
「はい、ございます。
建築家がどうしてもつけたいとおっしゃったようで、作っております。
場所は、食堂を抜けてキッチンの隣側になります。
また、設置されているお風呂はかなり大きいものですので
複数で入ることもできると思います」
「…王都のお城で入ったお風呂にまたは入れる…」
藤倉ってきれい好きだったからな~
ここ何日かの野営は堪えたんだろうな…
「後、この屋敷にはお庭もございますので活用してください。
以上でお屋敷の大まかなご案内でしたが、よろしかったでしょうか?」
「はい、案内ありがとうございます。
それと、ここまで私たちを連れてきてくれて本当にありがとうございました」
「「「ありがとうございました!」」」
セルナーさんたちは、満面の笑みで馬車に乗り込み出ていった。
俺たちはそれを、感謝の気持ちとともに見送った。
そして屋敷に戻った俺たちがまずすること、それは部屋割りだ。
屋敷の部屋、使用人の部屋を除いて数えたら12部屋あった。
そこで、2部屋を客室として後の10部屋をそれぞれに割り当てる。
まず男性陣が右側へ、女性陣が左側へ別れて自分の部屋を決める。
そして、男子と女子の部屋の間2部屋が客室となった。
俺の部屋は階段を上ってすぐの部屋となり
右隣はトイレ、左隣は客室になった。
さて、次は夕食作りだ。
しかし、ここで問題が発覚する。
実はこの10人の中で、料理スキルを持っているのが俺と松尾先生の2人だけだった。
「何で、料理スキルを持っていないんだ? 特に木下先生…」
「えっと、あのね相沢君、最近は料理できなくても生きていけるのよ?」
俺がみんなに視線を向けると、男性陣は苦笑い、女性陣は目をそらした。
「……まあ、できる人がやればいいか」
みんな頷いている…
「なら、お風呂にお湯を入れて、皆、順番に入ってくださいね。
その間に夕食作っておきますので…」
みんな渋々、食堂を通ってお風呂場へ向かった。
たぶん、どうやってお風呂を入れるのか相談するのだろう。
「じゃあ先生、俺たちはキッチンで夕食を作りましょう」
「そうね。ところで食材はあるの?」
「セルナーさんが、キッチンの食糧庫に1週間分の食料を用意してあるそうです。
それを使って下さいと言ってましたよ」
「至れり尽くせりね…」
「それだけ、俺たちに同情したのかもしれませんね」
「だといいけど、こんなに用意がいいと後が怖いわね…」
俺たちは、少し心配になりながらも夕食作りを始める…
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。