第70話 新しい召喚者
フィリアの事件が解決して、俺たちがハーガスト王国を出る少し前、
ゴージナ辺境伯に用意してもらった屋敷に、新たに召喚された勇者で、
戦力外を言い渡された2人の異世界人が、今日、到着した。
俺たちは、久しぶりに10人全員そろって屋敷の食堂で、
その2人を迎えたんだけど……
俺たちは、木下先生と松尾先生に挟まれて座っている2人を見て、
驚くとともに、戸惑っていた。
「……伊藤 鈴音と言います。 22歳の大学生です」
「妹の、寧々です。 12歳の中学1年です」
……何時までも、ジロジロと2人を見ているわけにもいかず、
俺が最初に質問してみる。
「あ~、相沢 弘樹です。 質問なんですが、
今回王国側が召喚した人たちって、何歳ぐらいの人がいるか分かりますか?」
「えっと、全員の年齢ですか?
私の見たところだと、下は妹の12歳、上は千田さんの60歳だと思います」
「「「60?!」」」
みんな、高い年齢に驚いているな……
俺も何を隠そう、驚きっぱなしだ。
しかし、60歳で前線送りとは、どれだけ優秀なスキルを持っていたのだろうか?
藤倉さんが、少し手をあげる。
「藤倉 美咲です。 私も質問いいですか?
今回の召喚で何人、召喚されましたか?」
「えっと、全部で10人です」
妹の寧々ちゃんが答えてくれる。
その後も、自己紹介を兼ねた質疑応答が繰り返される。
彼女たちへの質問で、今回の召喚に関することが少しわかった。
まず、召喚者は10人で、年齢はバラバラ。
また職業もバラバラで、召喚される前にいた場所が電車の中ということが分かった。
それに、電車に乗っていた時間帯が午後2時ごろで、
平日ということも分かった。
平日で、何故寧々ちゃんがいるのか疑問だったが、
どうやら、病院の帰りだったそうだ。
それなら、納得だな。
あと、残った召喚者たちも、すぐに前線へ送られるわけではなくて、
王国側から、簡単な現状説明と訓練を受けて前線へ赴くそうだ。
前線は膠着状態を作っているから、召喚者の訓練は十分間に合うだろう。
それから、今回の召喚者の中に『勇者』の称号を持つものは、
誰一人、いなかったそうだ。
そのため、即戦力になるかどうかで召喚者たちを分けたとのこと。
俺たちのもとに送られた、この姉妹はある意味運がいいのかもしれないな。
全員で昼食を食べた後、鈴音さんと寧々ちゃんは、木下先生に預けられ、
『箱庭』へ案内されるそうだ。
まあ、箱庭は、召喚者たちのために造った空間だから、初めは驚くけど、
早くなれて、寛いでほしいな。
また、他の俺と馬場を除くメンバーも、それぞれでやりたいことをするみたい。
で、俺と馬場は、ファと一緒に再び馬車の旅に戻っていった。
ゴーレム馬の曳く馬車に乗り込み、街道を迷宮都市へ向けて走らせていく。
焦らず、のんびり旅をするように街道を進んでいると、
御者を務めてくれるメイドゴーレムのファが、話しかけてくる。
『ご主人様、先ほどハーガスト王国の国境を通過しました』
「ようやくハーガストを抜けたか……」
馬場は、怠そうに国境越えの感想を口にする。
「まあ、この世界は地球より大きいらしいし、王国の大きさもあったからな」
「まったく、領地が大きいのに人口が少ないのって、魔物の影響か?」
「だろうな、各町や村の人数だって1万を超えるところは王都以外、見ないしな」
「それで、今いるのは、どこの国なんだ?」
俺は、空間収納から簡易の地図を取り出すと、
「えっと、ロビード王国ってところらしい……」
「ロービードか、どんな国なんだ?」
「馬場、ロービードじゃなくてロビードな。
どんな国かは分からないから、今日泊まるあそこの村で聞いてみよう」
俺が指さす先に、村の入り口が見えていた。
周りはすでに日が傾いていて、夕刻特有の日差しとなっている。
「いつの間にか、もうこんな時間だったんだな……」
「ファ、少し急いで村に向かってくれ」
『畏まりました、ご主人様』
ゴーレム馬に魔力を送り込み、少し速度を上げて村を目指した。
日が沈むギリギリで村に入ると、俺たちはすぐに宿を探した。
村の入り口には誰もいなかったので、
その辺を、歩いている村人を見つけて宿の場所を聞いた。
この村の宿屋は1軒だけで、村の中央にあった。
「……なあヒロキ、何でこの宿屋、村の中心に建っているんだ?」
「さあ、宿の主人にでも聞いてみるか」
「そうだな」
俺と馬場とファは、馬車を降りて宿の中へ入っていく。
勿論、その前にゴーレム馬を送還し、馬車を空間収納にしまうことは忘れない。
「すみません、泊まりたいんですが、部屋ありますか?」
馬場の問いに答えてくれたのが、宿の受付にいた男だ。
「おう、空いてるぜ。 全員一緒か? それとも別々か?」
「じゃあ、2人部屋を1つと、1人部屋を1つお願いします」
「はいよ、2人部屋が、2階の最初の通路を右に行った場所の203だ。
1人部屋は、2階に上がって奥に進んだ先にある通路を右に行った211だ。
で、これが鍵だ。
外に出るときは、ここで鍵を返してから出かけてくれ。
食堂は、この受付の右にある其処だ。
食事は、夕食と朝食の2回だけ。
夕食はどうする? 今、食堂に行けば出せるけど」
俺が返事をする前に、馬場が食べることを了承する。
また、遅れて俺も了承すると、
「なら、食堂で適当に座っていてくれ」
そう言って、宿帳を取り出し、
「ようこそ、ベルセン村へ」
といい笑顔で、迎えられた。
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。
ここ最近忙しくて更新できませんでした、すみません。




