第69話 決着
ハーガスト王国の王都から馬車で出て、半日の街道で呼び止められる。
しかも、呼び止めた者たちは、いかにもな貴族とその兵士たち。
「そこの馬車、止まれ!」
俺たちは、馬車を止めて御者のファを残し、俺と馬場は馬車の外に出る。
相手は貴族だ、めんどくさい相手ではあるがこうした方がいいのだろう。
現に、相手の貴族は馬に乗ったままで、満足そうな顔をしている。
「あの、私たちに何かご用でしょうか?」
俺が、馬車を止めた理由を聞くと、後ろの兵士達の隊長らしき人が、
前に出てきて、説明してくれた。
「こちらのお方は、ギュリー男爵の次男、ナバト様だ。
お前たちが攫った、フィリア様を救いに来られたのだ!」
……え~と、この人は何を言っているんだ?
俺と馬場は、お互いの顔を見ると再び兵士の隊長さんの顔を見る。
その後で、馬に乗っている男爵の次男のナバトの顔を見る。
ナバトの顔は、俺たちを見下し、少し笑っていた。
「えっと、何のことか分からないのですが……」
「惚けても無駄だ! お前たちがフィリア様をさらったのは調べがついている。
その馬車から、フィリア様を解放し、おとなしく捕まれ!」
………どうも、話が通じない。
仕方ないので、俺と馬場、そしてファは馬車から少し離れて、
馬車を調べてもらった。
10分ほど兵士たちで馬車を調べるも、何も見つからなかった。
「隊長、馬車には何もありませんでした!」
「よく探したのか? 馬車の下とか」
「はい! 何もありませんでした!」
俺たちの馬車は、ゴーレム馬でひかせてはいるもののどこにでもあるものだ。
特別何か仕掛けがしてあるわけでもない。
そのため、馬の上で男爵の次男の顔が険しくなっていく。
「どうなっている! 情報では、そこの平民が知っているのではなかったのか?!」
男爵の次男の怒りの言葉に、すぐに跪いて頭を下げる兵士たち。
「申し訳ございません、ナバト様。
こうなれば、そこの2人を捕らえてフィリア様のことをはかせてみせます」
「それでフィリアは、見つけることができるのか?」
「お任せください、必ずや!」
「……いいだろう、少しだけ待ってやる」
「はっ! おい、そこの男たちを捕らえて拷問にかけろ!
フィリア様のことをはかせるのだ!」
「「「はっ!」」」
隊長さんの命令で、すぐに俺たちは兵士たちに囲まれる。
「あの、フィリアって…」
「貴様! 様をつけろ! 貴様のような平民が呼び捨てにしていいお方ではない!」
「……そのフィリア様とは、どんなご関係で?」
俺の質問に答えたのは、隊長さんではなく馬に乗ったままの男爵次男だった。
「フィリアは、俺の婚約者だ。
俺たちは相思相愛でな、将来を誓い合っていたのだ」
……そうだったか?
フィリアの話だと、無理やり結婚させられそうになったとか言ってなかったか?
俺が混乱している間も、男爵の次男はいかにフィリアのこと想っているか
熱く語っている。
……なんか気持ち悪い。 これが痛い奴とかいう人なのか?
「……というわけだ、分かったらさっさとフィリアの居場所を言え!」
再び、兵士たちが武器を構えて俺たちを囲ってくる。
俺はすぐにゴーレム核を3つ足元に投げると、武者ゴーレムが3体召喚された。
「な、なんだそれはっ!」
武者ゴーレムは、腰の刀を抜くと俺たちを取り囲む兵士たちを峰内にしていく。
1分かからずに、俺たちを囲っていた兵士は、
呻き声をあげながら、その場に崩れ落ちていた。
「おのれ!」
隊長さんが剣を抜き、俺たちに襲い掛かってくるが、
武者ゴーレムに阻まれ、峰内を食らい他の兵士と同じくその場に崩れ落ちた。
「き、貴様、こんなことをして………」
そう捨て台詞を残して気を失った。
男爵の次男は、馬に乗ったまま、口をパクパクさせている。
どうやら、あまりの出来事についていけてないようだ。
「あの、フィリアはあなたとは結婚しないと思いますよ?」
俺のその言葉に、我に返り、顔を真っ赤にして怒りだす。
「ふざけるな! 貴様のような平民に何が分かる!
私とフィリアは相思相愛なのだ! 結婚してともに子爵領を繁栄……」
「子爵領なら、王族預かりになったみたいですけど?」
「な、なんだと……?」
「冒険者ギルドなどの掲示板で、そう発表されてましたけど……」
「そ、そんなばかなっ!!
あの子爵領は私のものだ! フィリアも! 子爵領も、すべて私のものだっ!」
……馬の上でなんか叫び出したぞ?
あ、いきなりの叫びで馬が驚いて暴れ出した……
「なっ、この、い、いきなり、なっ!」
あ、落ちた。
「なあ、あいつ、落馬して動かなくなったぞ?」
「ん~、気絶したんじゃないか?」
『ご主人様、あのアホは気を失っていますね。
今のうちに、馬車に乗って移動しませんか?』
俺たちは、ファの提案を受け入れて、馬車に乗り込みその場を後にした。
その後、ハーガスト王国を出る前の町の冒険者ギルドで、
国内の貴族に国からの監査が入り、何家かの貴族が排斥されたそうだ。
その中には、フィリアを狙っていた男爵家も入っていて、
貴族から平民へとされたうえ、男爵だったころに犯した犯罪を償わせるため、
奴隷落ちしたものが出たとか。
勿論、その中には次男も入っているとか。
「ある意味、間抜けな事件解決だけど、もうちょっと何かあってもよかったな」
とは、馬場のセリフだ。
俺は、面倒ごとは嫌だから、これでいいと思うがな……
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。
だいぶ間が空きましたが、ようやく更新できました。




