第67話 巻き込まれて
ハーガスト王国の王都で、奴隷商巡りをして、7軒目でようやく見つける。
探していた『トルーナ奴隷商』は確かにあった。
確かにあった、3日前までは……
しかし、今では、黒焦げた石でできた建物に、屋根の無い状態だ。
俺は、近くにある建物に入り、何があったのか聞いてみると、
やはり、3日前に火事があったそうだ。
夜中深夜の時間帯で、みんなが寝静まった時だったそうで、
発見した時は手の施しようがなかった。
しかも、オーナー一家と、奴隷20人が火事に巻き込まれ亡くなったそうだ。
巡回兵士たちによる見解では、放火の疑いもあるとか。
また難を逃れた奴隷も何人かいたが、他の奴隷商が預かっている時に、
まとめて買われていったそうだ。
「ん~、これは警告……かな?」
「手口から、そうだろうな……」
「まいったな、この問題、動いている連中が容赦ないな……」
「しかし、燃える展開だろ!」
なんか馬場が、すごいやる気を出しているな。
でも、こういう時って必ず……
「君たち、ここで何を調べているんだ?」
やっぱり、兵士に声をかけられたか。
しかも3人か……
「いえ、ここの火事が気になったもので、
どんなことが起きたのかなって、聞いていたんです。 野次馬ってやつですよ」
「そうか、ところで、君たち2人だけかね?」
「はい、俺たちだけですが……どうかしましたか?」
「いや、女連れではないのかと思ってね」
俺と馬場はお互いを見ると、兵士たちに向き合い、
「俺たちって、女を連れて歩けるような男に見えます?」
「あのな、答えづらいことを言わせるな!」
「それは、答えを言ってるようなものでしょ」
兵士は苦笑いをしながら、
「とにかく、火災現場をウロウロしないようにな!」
「「は~い」」
兵士たちは、俺たちの返事を聞くと、その場を去っていった。
「あれ、巡回兵士じゃないな……」
「ああ、鎧が違っているから、例の件にかかわっている貴族のお抱えだろう」
「……彼女たちを奴隷にするのは、この国以外でした方がよさそうだ」
「空間魔法ドアの出番だな」
「確か、辺境伯の貸してくれた屋敷と繋がっているドアがあったよな」
「ああ、勇者関連で必要だから残しておいた奴な」
「それで、町の奴隷商でお願いした方がよさそうだ」
「……でも、その前にみんなに相談しないとな」
「宿に帰ったら、箱庭へ行くか……」
俺たちは宿に戻り、宿近くの裏路地で馬場を先に箱庭に戻すと、
宿の部屋に帰ってから、ファに再び留守番をしてもらい箱庭へ入っていった。
箱庭の村長の家にある会議室で、みんなそろっていた。
「お待たせ、時間がないからさっそく始めよう」
「では、アルフィアたちについてだが、辺境伯のジルーナの町の
奴隷商を使って奴隷になる方が安全みたいだ」
会議に参加しているアルフィアとリシアは、
自分たちが言っていた奴隷商ではだめなのかと質問してみると、
ヒロキの口から、トルーナ奴隷商のなれの果ての話を聞くことになった。
「そ、そんな……」
「お嬢様」
リシアは、今にも崩れ落ちそうなアルフィアを横から支える。
みんなのアルフィアを見る視線は同情的だ。
「……私が、私がわがままを言ったばかりに……」
「それは違うぞ、アルフィア。
君の所為でここまで来たわけじゃない。
男爵やその背後にいる貴族たちの思惑の所為で、奴隷商は犠牲になったんだ。
アルフィアが心を痛めることはない。
寧ろ、男爵たちの思惑をつぶさないといけないんだ」
「ババさん……」
カッコいいこと言うね~馬場の奴。
目をつぶって余韻に浸っている場合じゃないぞ馬場、話を進めろ!
「あ~、とにかく、アルフィアたちはジルーナの町で奴隷になってから、
王様に直接会いに行かないといけないな」
「王様に会うのは、ヒロキ君だけで……行けるか?」
「ん~、夜の城に乗り込んで王様に会いにか?」
「そうだな、貴族に邪魔されないとなればそれしかないな……」
夜のお城に乗り込む……
シノビゴーレムを使えば大丈夫かな?
くノ一ゴーレムも確かあったな、それも使ってみるか……
「たぶん行けると思う」
「なら、アルフィアさん、今のうちに王様に手紙を書いてください。
今回の事件の概要と、自分が奴隷落ちした経緯を詳細に書いて。
ヒロキ君は、アルフィアさんたちが奴隷になったのを確認して、
夜を待ってお城に忍び込み、王様に直接会うように。
その時、手紙と空間魔法ドアで、
奴隷落ちしたアルフィアさんたちを王様の前に連れていくこと」
「がんばれよヒロキ、松尾先生の言うとおりにできれば、この意見は解決だ」
「でもさ、アルフィアさんたちが王様の前に行って、
子爵領のことだと分かるのか? 王様が」
ケンジの奴、なかなか鋭い質問だな。
確かに、王様に打診していたブレナード子爵なら分からないでもないが、
その娘のアルフィアお嬢様のこととなるとどうなんだろうな……
「それなら、心配はいりません。
私の父と、陛下は学園での友達だったそうです。 それも悪が付くとかの。
それに私も陛下には何度か、父を通してお会いしていますから……」
「悪友ね~」
木下先生が、俺とケンジと馬場を見ながらニヤニヤしている。
なんか、イラっときた。
「なら、問題ないな。
ブレナード子爵が何度も打診していたなら、アルフィアさんが王様に会えば、
どういうことか分かってくれるし、今後どうするかもわかるだろう」
俺たちは解散し、会議室を出ると、すぐにアルフィアたちを連れて、
ジルーナの町へ向かった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。
ご心配をかけましたが、風邪はだいぶ良くなりました。
注射と点滴はよく効きますね~




