第7話 テンプレ、再び!
ゴージナ辺境領の中心都市『ジルーナ』の東門を抜けると
そこは草原だった!
「あれ?町がない?!」
俺たちは全員が同じような感想を思っていたら、御者さんが説明してくれる。
「フフフ、やはり皆様同じようなことを仰います」
「では、他の地域から来た人たちも?」
「はい、どうやらこの辺境領の特徴といったところでしょう」
松尾先生の質問に、御者さんは丁寧に答えてくれる。
「この辺境では、魔物が多ございます。
そのため、魔物同士の縄張り争いが絶えません。
そのたびにおきるのが、スタンピード、魔物たちの暴走です。
強い魔物たちの争いから逃れようと弱い魔物は逃げ出し、そして暴走が起きる。
そのスタンピードは、村々を襲います。
そのスタンピードから逃れてきた村人たちを、このジルーナで匿いますが
その時問題になるのが土地でございます」
「そうか! 避難してきた人は引っ越ししてきた人じゃないんだから
お金とか持っているはずがない…」
「はい、着の身着のまま逃げてこられた方を受け入れるには
空いている土地が必要になりますから…」
「それでこのような草原があるんですね~」
木下先生と松尾先生は、納得した顔で草原を見つめる。
しかし、そんなことまで考えてこの城塞都市はできていたのか…
すごいなゴジーナ辺境伯、領民のことを思っている素晴らしい領主かもな。
「ただ、このような土地、普段から遊ばせておくのはもったいないと
一部ではありますが、最近は酪農を始めたようで
それで採れるものはこのジルーナの名物となっております」
おっと、領主が一気にちゃっかりしている領主になったぞ。
でも、そんな領主でないと辺境は治められないんだろうな…
東門からしばらく馬車で進むと、ようやく家々が見えてきた。
この町の中心には、領主の住むお城がそびえたち、
その周りに、貴族たちが住む屋敷が点在し、
貴族の住む場所と民の暮らす場所の間に、城壁が建ち住み分けしている。
「皆様、もうすぐ『冒険者ギルド』に到着いたします。
私たちは馬車で待っていますので、中に入り受付で登録を済ませてください」
「わかりました」
何故か返事をしたのは、ワクワクしているのが周りからもわかる馬場だ。
「馬場、なんかワクワクしているな」
「わかるか? これから始まる一大イベントを楽しみにしているんだよ」
…なんか、分かってしまったぞ、その一大イベント…
どうやら、他の男子たちも理解したみたいだ。
女性陣は、安西以外は、頭にハテナが浮かんでいる。
「…で、その一大イベントってなんだよ」
「ヒロキ、そんなの決まっているだろう?
酔った先輩冒険者たちの、理不尽なからみだよ!
俺たちが冒険者ギルドで登録をしようとすると、併設してある酒場から
酔っぱらった先輩冒険者が、からんでくるんだよ。
『ここは女子供の来るところじゃねぇ!』とか言ってさぁ。
そしてその冒険者ともめるが、俺たちが倒してしまうんだよ。
そしたら、ギルドマスターが来て俺たちは
ギルドマスターの部屋に呼ばれるわけよ~」
なんかすごい饒舌に語っているけど、ツッコミどころ満載の話だな!
みんなもう馬場の話を聞いてないし!
俺ももういいかな…
馬車が止まると、馬場の話も止まった。
「皆様、こちらが冒険者ギルドになります。
私たちは馬車置き場で待っていますので、登録を済ませてお戻りください。
この後は、皆様が過ごされる屋敷へのご案内となります」
「いざ、出陣だ!」
馬場よ、どこへ向かっているんだ?
俺も、もうついて行けないぞ?
そんな意気込む馬場を先頭に、俺たちは冒険者ギルドへ入っていく。
ギルドの入り口は、両扉になっているが常に開けっ放しにしていて入りやすい。
3,4人が横に並んで入ることもできるぐらいの広さだ。
ギルド内に入ると、まず目に入るのが7人の受付嬢が並ぶカウンター。
みんな忙しそうに何かしている。
馬場の話やテンプレだと、酒場が併設してあるみたいだが
周りを見渡してみても、そんな施設はなかった。
入り口から左側には、上へ上がるための階段があり
右側には、依頼書がたくさん貼られている掲示板がある。
中には、お知らせの掲示板もあった。
全体的にきれいにしているようで、安心感があるな。
…馬場がショックを受けているようだな。
まあ、この状況じゃあテンプレもないか…
ショックを受けている馬場を連れて、俺たちはカウンターの1つへ。
そこの受付嬢は俺たちを見ると、
「ようこそ冒険者ギルドへ、ご依頼ですか? 買取ですか?」
「あの、登録をお願いします」
「はい、そちらの方全員の登録でよろしいですか?」
「はい、俺たち10人の登録をお願いします」
受付嬢は、カウンターの下にあるであろう棚から10枚の紙を取り出し
「では、こちらに記入をお願いします。
分からない、もしくは記入したくないところは空白でお願いします。
ただ、名前と年齢は必ず記入してください。
それから、記入するときは後ろにある机をご利用ください。
ここは常に何かしらの受付がありますので」
俺たちは、それぞれ記入用紙を受け取ると机に向かい記入を始める。
しかし、この紙、俺たちの世界の紙に近いものだな…
おそらく、俺たちのような異世界人による知識なのかな。
そんなことを考えながら、用紙に記入していく。
名前、年齢、出身地、得意武器、得意魔法、『アイテムボックス』のあるなし
俺は出身地と得意武器以外は、律義に回答しておいた。
他のみんなも出身地、得意武器、得意魔法その辺りを隠しておくみたいだ。
書き終えて受付を見ると、依頼者らしき人が受付で手続きをしている。
なるほど、確かに人の出入りはあるようだな…
少し待ち、開いたカウンターへ用紙を持っていくと
「はい、では後ろのソファで少しお待ちください」
…なんか銀行に来ているみたいな応対だな…
そしてソファに座り、しばらく待っていると
入り口から騒がしい冒険者たちが入ってきた。
革鎧を着た筋肉ムキムキの男たち3人に、白いコートを着た女性、
そして、長い杖を持った魔法使いらしい格好の少女。
その一団が受付へ。
すると、今まで静かだった馬場が再び息を吹き返した。
「お、おい、見てみろよあの少女。
ネコミミだぞ! ネコミミ、可愛いな~」
小声で話す馬場は、ワクワクが止まらないらしい。
変な所に食いついたな…
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。