第65話 少し疑問だった黒い箱
城塞都市レバリーの町中をいろいろと調べた結果、目的の奴隷商はなかった。
いや、なかったというよりも引っ越していた。
アルフィアたちから聞いていた場所には、奴隷商ではなく、
普通の商会があったし、
そこで話を聞くと、商売がうまくいきすぎて、
別の町への引っ越しを余儀なくされたのだとか。
「この町には他にも奴隷商がありますが、あの奴隷商ほど、
商売がうまくいってなかったので、やっかみでしょうな」
そう言っていたのは、引っ越した奴隷商の後の土地に商会を構えた、
商会長の話だ。
そして、引っ越し先を聞くと、今は王都で奴隷商をしているとのこと。
俺は、話を聞いた商会長にお礼を言って、王都に向かうことにした。
勿論、あるフィリアたちにも、この話はしておいた。
少し残念な表情を浮かべたが、王都で店を構えているだろうということで、
安心していて、再び王都まで箱庭内で過ごすことになった。
俺は、レバリーの町を出発する前に、冒険者ギルドへ顔を出した。
ギルド内は、お昼過ぎという時間帯もあり、冒険者の数は少なかったが、
何人かはいる。
俺はギルドに入り、すぐに受付へと向かった。
受付で、ギルドカードを出して、
「すみません、俺あてに手紙は来ていませんか?」
というと、ギルドカードを受け取った受付嬢は、
「少しお待ちください」
と言って、受付横にある黒い箱に、カードを差し込みボタンを押す。
すると、ピッという電子音とともにカードが出てきて、
黒い箱の下の引き出しから、手紙が出てきた。
「本当に、何時見ても不思議な箱だな……」
受付嬢は、ギルドカードと手紙を差し出すと、
「この魔道具の不思議さは、冒険者ギルドの謎の1つですね。
何人もの魔道具の技師たちが調べようとしたみたいですけど、
分からなかったみたいですよ」
「やっぱり、ギルド職員の人でも、不思議に思っていたんですね?」
「それはそうですよ~
でも、使い勝手がいいから使っているんですよね。
何でもこの箱は、冒険者ギルドの創設者の知り合いの異世界人が開発したとか。
『ゆうびんじぎょう』なるものを、すれば冒険者ギルドも儲かると言って
始められたそうですけどね」
「で、儲かっていると?」
「ええ、おかげさまで、登録者は増えましたし、
これを利用して手紙のやり取りを円滑にしているとか」
「確かに、手紙のやり取りは身分証明のカードがあれば受け取れますからね」
「そうなんです。 でも、そこを国のために利用されそうになったんですが、
いくら調べても分からないことだらけみたいだったようで、
結局、真似できない魔道具ということで冒険者ギルド専用となったようです」
やはり国も真似をしようとしたのか……
それと、『郵便事業』とは、すごいな異世界人は。
「でも、注意はされましたね」
「注意?」
「はい、この魔道具には今は幻となっている『空間魔法』が使われていると。
修理、修復はできないから、もしこれからも使いたかったら、
空間魔法の使い手を探しておけと……」
「『空間魔法』ですか?」
「ええ、何のことか分かりませんが、えらい魔道具技師の忠告だからと、
冒険者ギルドでは、空間魔法の使い手を探しています。
それらしい情報があればお知らせください」
「わかりました」
「では、こちらのカードとお手紙をお渡ししておきます」
「ありがとうございます」
俺はカードと手紙を受け取ると、ギルドを出ていった。
冒険者ギルドを出て、待たせておいた馬車に乗ると、
「ファ、王都に向けて出発しよう」
『畏まりました、ご主人様』
という会話の後、馬車は王都に向けて出発する。
空間魔法………郵便事業………
「なるほど、箱庭の特徴を利用したものだったのか。
だから、空間魔法使いが必要というわけだ」
『ご主人様? どうかなさいましたか?』
ファが、不思議そうに俺の顔を見ている。
「いや、冒険者ギルドがしている手紙のやり取りの正体を考えていたんだ」
『それで、お分かりになったと?』
「ああ、こういうことだろうなということはね」
『さすが、ご主人様です』
「ありがとう」
笑顔で褒めてくれるメイドゴーレムのファに、笑顔でお礼を言う。
しかし、この郵便事業は、冒険者ギルドが浸透すると同時に、
世界中へというわけか。
俺の箱庭へのドアを、黒い箱の魔道具に変えて、冒険者ギルドへ。
ギルドカードの読み取りや、仕組みはわからないけど、
箱庭が郵便局と考えれば、大体はわかった。
けど、真似できるかといえば無理だろうな。
この仕組みを考えた異世界人は、空間魔法だけじゃなくて魔道具製作も、
チートスキルでもらっていたに違いない。
今も昔も、召喚異世界人は、すごい人が多いな……
王都へ向けて出発した俺の馬車だったが、
町を出るときも、馬車を調べる兵士がいてうんざりした。
さらに、街道から出ても何時間か置きに、馬に乗った兵士が巡回していた。
そこまでするのか……
それだけ、子爵領にある鉱山には、すごいものが出るのだろうか?
それとも、アルフィアを?
よくわからない男爵たちのしつこさを感じる王都への旅となった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




