第64話 町への入り口で
俺たちは、この先の町にいるアルフィアたちの信頼できる奴隷商を目指す。
しかし、問題はいつでも持ち上がってくるものだ。
「奴隷商を目指すとして、
アルフィアさんたちをどうやって町に入れるかだよな」
「何言ってんだよヒロキ、普通に入ればいいだろう?」
「町に入るには、しなきゃいけないことがあるだろ?」
「ん~、何かすること……」
「門兵の罪人チェックだよ」
「「「あ!」」」
「……みんな忘れていたのか……」
驚いたな~、アルフィアたちも忘れているとは……
でも、当たり前すぎて、忘れてしまったのかな?
「でも、心配いらないだろ?
アルフィアさんたちが罪人ってわけでもないんだから」
「確かに罪人というわけではないけど、あそこには、兵士がいる。
兵士がいるってことは、男爵家の兵士が混ざっていても……」
「……わからないですね」
「これは、盲点でした」
「でも、男爵家の兵士って言っても、そんな大勢じゃないだろ?」
「たぶん、1人か2人だな」
「なら、心配いらないんじゃないか?」
「でも、滞在している仲間に応援は呼べるよな。
おそらく、向こうはアルフィアたちが何をしようとしているのか
理解しているわけだし」
「……箱庭に匿うのはどうだ?」
「それしかなさそうだな……
それに、奴隷になれたとしても、王様に知らせることもしないとな」
「陛下に、私が奴隷になったことをですか?」
「そう、奴隷になり、子爵領を王国預かりにするには、
直接知らせないと、どこで情報が握りつぶされるか分からないだろ?」
「何だが、すごい大事になっているんですね……」
「それだけ、子爵領に魅力があるってことだよ」
「男爵たちも、その子爵領を使って貴族たちの間で金をばらまく気だろうね」
「そして出世、ですか……」
とりあえず、アルフィアたちは箱庭で預かることになり、
馬場が、箱庭へ案内していった。
馬場のドアから、箱庭へ入っていったアルフィアたちの驚く声が聞こえたが、
それは箱庭へ初めて行ったものがあげる声だ。
この後、町に入り、目的の奴隷商に着いたら知らせると言って、
アルフィアたちには、箱庭の中でくつろいでもらうこととした。
あと、馬場には、アルフィアたちのことを、
木下先生たちにも知らせるようにお願いしておいた。
こういう話で隠し事をしておくと、後で怒られるんだよな……
馬車に、俺とファ、以外いなくなり、馬車を走らせて旅を続けると、
2時間ほどで、次の町の外壁が見えた。
『ご主人様、町の外壁が見えてまいりました』
町をぐるりと囲み、城塞都市のような堅牢さがあるものの、
外壁の外側にも建物があり、人が住んでいることがうかがえる。
あそこに住む人たちは、魔物被害はないのかな?
「大きな町のようだな……
とりあえず、あの門から続く列に並ばないといけないようだな……」
『そのようですね』
俺たちの馬車も、門の中に入るため20台ほど続く馬車の列に並ぶ。
馬車から降りて、門の方に目を向けると、
何かを探している兵士たちが、馬車を念入りに調べているようだった。
あれは、アルフィアたちを探しているんだろうな……
馬車を調べている兵士は3人、通常の応対をしている兵士は2人。
ならば、あの3人が男爵の息のかかった兵士かな……
それから1時間ほどして、俺たちの馬車の番となった。
兵士の指示の下、門の下に馬車を止める。
「馬車に乗っているのは、2人で間違いないか?」
「はい、俺たちだけです」
「では、改めさせてもらう」
そういうと、兵士3人が、馬車のいろんな所を調べ始める。
そこへ、門から2人の兵士が近づいてきた。
「すまんな、不快な思いをさせてしまって」
この兵士たちは、申し訳なさそうに俺たちに声をかけてくれる。
どうやら、この2人と、馬車を調べている3人は違うみたいだな。
「何か、あったんですか?」
「それが、私たちにも知らされていないんだよ。
今朝、急に町に入ってくる馬車を調べるとか言ってな……」
「すまんが、好きにやらせておいてくれ。
それより、身分証の提示をお願いできるか?」
「あ、はい」
俺が冒険者カードを提出すると、それを少し確認して返してくれる。
「確認した、そっちはあんたのメイドでいいんだな?」
「はい、そうです」
「よし、ならば、ようこそ『レバリー』の町へ!」
「すまんが、ちょっといいか?」
歓迎してくれた兵士とは別の兵士が、質問してくる。
「はい、なんですか?」
「荷物が少ないように思えるんだが、いいのか?」
「あ、俺アイテムボックス持ちなので、ほとんどの私物はそっちなんです」
「ほ~、それは羨ましいな。
アイテムボックス持ちは商人の間じゃ、重宝されるから冒険者をやめたら
商業ギルドを訪ねるといいぞ?」
「はい、ありがとうございます」
そこへ、馬車を調べ終わった兵士3人が機嫌悪そうに来た。
「おい、馬車を調べ終わった、もう行っていいぞ!」
「はい、どうもご苦労様です」
そう兵士たちに言って、俺たちは馬車を走らせる。
俺たちが門を抜けると、次に並んでいた馬車が俺たちのいた場所に入ってきた。
そして、調べが始まる。
ん~、あの3人の兵士も大変だろうな……
少しだけ、兵士に同情して、俺たちの馬車は奴隷商へ向かった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




