第63話 ある陰謀に対抗する
乱れた髪を治しながら、馬車へ乗り込み、街道を進んでいく。
気絶させた騎士や兵士はその場に放置して、とりあえず進む。
しばらく進むと、戦闘のあった場所に到着。
そこには、兵士の死体がいくつかと、馬車を守っていた兵士の死体がいくつか、
さらに御者や役人みたいな人の死体まであった。
俺はその場で馬車を止めて、兵士ゴーレム5体を呼び出すと、
死体を街道脇にまとめて、穴を作り、その中へ埋葬することにした。
30分ほどで作業を終えて、馬のいなくなった馬車を空間収納でしまうと、
俺たちの馬車に乗り込み、先へ進みだす。
「さて、では、改めて事情を聴きましょうか」
女性2人は、緊張した面持ちで俺を見てくる。
「は、はい。
まずは、私たちを助けてくれてありがとうございました。
私の名は、アルフィア・ブレナードと申します。
こちらは、私の護衛兼お付きのリシアです」
リシアは、アルフィアに紹介されると、頭を下げる。
「実は、私たちは兵士に捕まり護送中でした。
先ほどの馬車で私たちは、この先にある『キブルー』の町へ行き、
奴隷になるつもりだったのです」
俺と馬場は、いろいろと突っ込みたいところを我慢して話を聞く。
「私の家は、この辺りを納めるブレナード子爵家でしたが、
子供が私しかおらず、父は子爵の位を返上し平民に戻ろうとしました。
もともと、私の父は平民でしたが、ある功績で子爵にまでなったそうです。
そのため、父を認めない貴族家も多く、疎まれていたそうです。
陛下も、功績を評価して子爵にしたものの、その後の父の様子に、
申し訳なさがあったのでしょう、平民に戻ると言われた父に、
謝罪されておりました。
ところが、父が平民になろうとしているのを止めようとした人物がいました。
それが、ギュリー男爵です。
ギュリー男爵は、自分の次男を私の婿にと強引に薦めてきましたが、
父は娘が望まない婚姻などありえないと、突っぱねたのです。
それでも、ギュリー男爵はあきらめず、父に次男を薦めてきました。
そして、首を縦に振らない父に、ギュリー男爵は繋がりのある貴族にお願いして、
父に、強引に私と男爵の次男との婚姻を認めさせたのです。
ほとんど無理やりに婚姻を決めたことに、父は悔やんでいたそうです」
そう言うアルフィアの手は、力をこめて握りしめられている。
「お嬢様……」
リシアが、アルフィアの手を取り、両手で包み込むと、
アルフィアの顔に、少しだけ笑みが漏れた。
「無理やりの婚姻を、位の高い貴族を使ってね……」
馬場が、珍しく真剣に話を聞いていた。
「アルフィアさんのお父さんはその後……」
「はい、殺されました。
婚姻を決められた日の翌日には……」
アルフィアを横から抱きしめて、リシアがさらに付け加えてくれる。
「旦那様は、領地への返り、盗賊に扮した兵士たちに襲われ、亡くなられました。
その場に居合わせて、生き残ることができたたった1人の執事の方の証言です」
「ということは、どう見てもその襲った兵士って男爵の?」
「おそらくは……」
ん~、男爵の次男が子爵の婿になり、いろいろと便利を図っていく。
てことは……
「アルフィアさんのお父上は、何かしていたのかな?」
「えっと、父は領地に金鉱山をいくつか持っています。
ブレナード子爵家の領地には、山が多く、
そこからいろいろな鉱物が取れるとかで、有名なんです」
なるほど、男爵と協力者の貴族の狙いはそこか……
「子爵から平民になったら、その領地はどうなるの?」
「はい、王家の直轄領となります。
鉱物資源が多いので、直轄地にと、父が陛下に打診していました」
「それじゃあ、奴隷になろうとしたのは?」
「貴族が奴隷に落ちると、
そこで子爵ではなくなりブレナード家は断絶となります。
そして、ブレナード家が持っていた領地は王家預かりとなり、
その後、父との取り決め通りに、王家の直轄地へとなります。
ですが、ギュリー男爵の次男との婚姻が正式に国に認められると、
ブレナード家所有の領地は、男爵の次男が好きにできますので……」
「で、アルフィアさんは、活かさず殺さずの軟禁生活か……」
「おそらくは……」
「それで、秘かに奴隷商へ行こうとして男爵家に感ずかれ、あの戦いですか……」
これは、正式に奴隷落ちするか、
男爵家と協力貴族によって奪還されるかの戦いだな。
「それで、奴隷落ちした後のことは考えているのか?」
「はい、奴隷になったら、私がお嬢様の主人となる予定です。
そして、お嬢様が奴隷落ちしたことを国に報告して、子爵を返上します」
そこまで考えているのか……
しかし、このままだといろいろと邪魔が入りそうだし、
奴隷商も信用できるか分からないな。
「ヒロキ、俺はこの件、助けたいんだけど?」
「奇遇だな、俺もそう考えていたところだ」
俺たちの意見に、顔がほころぶアルフィアとリシア。
「しかし、この先の町で、信頼できる奴隷商があるのか?」
「はい、『トルーナ奴隷商』は、父の時から懇意にしていました。
このリシアも、その奴隷商で見つけたんです」
俺と馬場の目線が、アルフィアの隣のリシアに向けられる。
リシアは少し照れながら、
「はい、今はもう解放してもらいましたが、その奴隷商出身は、
周りに多ございます」
リシアの説明によると、その奴隷商は就職あっせんを主にしていて、
就職先になれると、わずかな料金で奴隷から解放していたそうだ。
また、普通の奴隷も売っていたが、
奴隷への扱いが丁寧で、奴隷からの信頼が厚いとのこと。
職に困ったら、この奴隷商を訪ねればいいとまで噂されるそうだ。
「そんな奴隷商があるんだな~」
馬場は、しきりに感心していた。
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