第62話 ある日の街道にて
『ご主人様、500m先で戦闘が起きているようです、どうされますか?』
退屈な馬車の旅を続けていると、こういうことはよくある。
大抵が盗賊や山賊なんだが、今回は違うようだ。
「盗賊か、山賊の襲撃かな?」
『いえ、騎士や兵士の戦闘のようです。
間に入りますと、面倒なことになる確率100パーセントです』
「よし、一旦停止! 嵐が過ぎるのを待とう」
『了解しました、お昼になさいますか?』
「そうだね、今日はファと俺だけだし」
ファは、馬車を街道の端に寄せ、停止すると昼食の用意を始める。
箱庭へ行って昼食ということもできるのだが、今回は天気もいいので、
ピクニック気分で昼食とした。
「うん、サンドイッチが美味しいね」
『セラの自信作ですから、家に帰ったら褒めてあげてください』
「わかったよ」
ほんの30分ほどで昼食を終えて、ティータイム。
のんびりとお茶を飲んでいると、ファが忠告してきた。
『ご主人様、2人ほど森の中から近づいてきます。
どうやら急いでいる様子です』
それを聞き、急いでティータイムを終わらせ後片付けをし馬車へ。
俺が馬車へ乗ったと同時に、森の中から2人の女性が飛び出してきた。
1人は軽装で見るからにどこかのお嬢様だ。
金髪、青い目、そして胸が大きい。
これは、厄介ごとの予感がする……
さらに側にいる護衛らしき女性の冒険者?
いや、多分、女性騎士か兵士だろう。
ショートの髪、水色の髪、青い目、そして胸が大きい。
……ダメだ、これは逃れられないな。
そんな考え通りに、2人の女性は近づいてきて俺にお願いをする。
「すまん! 隠れさせてくれ!」
そういうと、俺の了承もなしに馬車に乗り込み、幌の影に隠れる。
『ご主人様、さらに森から来ます』
ファの忠告通り、森の中から5人の兵士と1人の騎士が現れた。
さらに、俺を見つけるなり、兵士が2人、襲いかかってくる。
問答無用か?!
しかし、兵士2人の攻撃は、素早く俺と兵士の間に入ったファが防いでくれた。
メイドに攻撃を防がれた兵士は驚きの表情だったが、騎士がさらに命令する。
「お前ら、やめろ! 攻撃中止! 攻撃中止!!」
騎士の命令が伝わったのか、兵士2人が後退する。
後退するへしの代わりに、騎士が俺の前に出てきて謝罪してくれた。
「いきなり申し訳ない、人を追っていてな。
君たちは旅のものみたいだが、見てないか? 女2人なんだが……」
「……さっき、森から出てきた女性達ですか?」
「見たのか?! ど、どこにいる?」
……この騎士、さっきから馬車を見ているな。
俺たちが匿ったと思っているのだろう。
「あの女性達が、何かしたんですか?」
俺の質問には、騎士じゃなくて、
俺たちを遠巻きに警戒していた兵士が答えてくれた。
「お前たちには関係のない悪人だ! どこにいるのか言えばいいんだよ!」
……これは、だいぶ気が立っているな……
俺は、どうこたえようか迷っていると、馬車の中から悲鳴が聞こえる。
「「きゃあぁぁぁ!!」」
そして、匿っていた女性2人が飛び出してきた。
「! いたぞ!」
「し、しまった……」
女性2人を包囲しようと兵士が走り出すが、女性と兵士の間にファが割り込む。
2人の女性をかばうように、ファが立ちふさがり、兵士たちをけん制している。
俺と話していた騎士は、俺に怒気を混ぜた言葉で質問してくる。
「これはどういうことですかな?」
俺が答えようとすると、馬車の中から馬場が申し訳なさそうに出てくる。
「あ~、なんかタイミングが悪かったみたいだな……」
「……最悪だよ、馬場」
騎士は、声をかけてきた馬場を睨む。
俺はその隙をついて、武者ゴーレムを2体、俺の側に呼びだす。
「な、なんだ! どこから湧いてきた!!」
騎士が剣に手をかけると同時に、武者ゴーレムが刀を抜き、居合で騎士を峰打ち。
くぐもった声を出すと、騎士はその場に倒れる。
「バスロー様!」
兵士の間に動揺が見えると、俺は武者ゴーレムに命令した。
「兵士たちも、同じように!」
すぐに駆け出していく武者ゴーレム、それに応戦しようとするが、
武者ゴーレムの動きについていけず、あっけなく5人の兵士は、
その場に崩れ落ちた。
「……殺したのか?」
「峰打ちだよ、馬場。 気を失っただけだ」
「そうか、それはよかった。
で、そこの2人の美人とは、どういう関係なんだ?」
武者ゴーレムが、兵士と騎士を集めている時に、
俺の側で女性たちを見ながら聞いてくる馬場。
女性達は、まだ先ほどのやり取りが理解できないのかボーっとしていた。
「まだ名前も知らない関係、かな」
「ふむふむ、美人な2人、傷だらけ、乱れた髪、そして、追手の登場。
ヒロキ、見事なまでに、厄介ごとの匂いがプンプンだな!」
「わかっているなら、察しろよ。
ファ、その2人を連れてきてくれる?」
『畏まりました、ご主人様』
ファに促され、女性2人は、俺たちに近づき頭を下げた。
「助けて下さり、ありがとうございました」
「助けてくれて、ありがとう」
頭を上げると、女性2人は、馬場を見て警戒しだす。
「あれ? 俺、警戒されてる?」
馬場が俺に聞いてくるが、おそらく、隠れていた女性たちの側に箱庭から
いきなり出てきたんだろう。
それで、驚かしてしまい、警戒しているってところだ。
「あ~、こいつは俺の仲間の1人だ。
こいつの登場のしかたは、スキルの一種でな、そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ?」
女性達は俺の言葉で、少し警戒を解く。
「それで、お二人はこれからどうしますか?」
俺のその言葉に、女性2人は顔を見合わせ、俺のことを見て、
「お願いします、私たちを助けてください!」
ですよね~
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




