第61話 追い込まれて
「イースナー卿、ここはもう撤退だ!」
ブルティス王国軍の侵攻は、勢いを増していた。
なにせ、こちらの貴族が何人か裏切っていたからな。
だが、それもやむを得ない話だろう。
ブルティス側には、魔物を操っているやつらがいる。
オーガ20体が先行して、さらにその周りでオークたちが戦っている。
魔物であるため、調達も容易く使い捨てができる部隊となっている。
そんなのが先行し、戦場を荒らすのだ。
のちにやってくるブルティスの兵たちは、
戦場で疲れているわが軍を蹂躙していく。
こんなやり方で、わが軍が大敗をしていくとは……
すでに3つの領地が奪われている。
難民は、後方へと送られ、入れ替わりに軍の兵士が入ってくる。
しかし、戦況は、今も領都からの撤退を余儀なくされているように最悪だ。
本当なら、勇者たちを投入で来ていたのに、
人質をとれずに勇者の投入は無くなった。
これでわが軍は、勇者無しでブルティス軍を倒すか撤退させなければならない。
正直言って、この戦力差では無謀というものだ。
この先、王都まで4つの領地があるが、何人の貴族が裏切るか……
私も、王国軍の隊長でしかないが、投げ出したい気分だ。
最前線から1つ領地が離れた領都に、拠点が設けられ
ここから指揮を出していた。
「報告! アーブロ領地陥落、我が軍は撤退中!」
ホルガナ将軍は、静かに目を瞑り考えている。
これは負け戦ではないのかと。
「報告ご苦労、下がれ!」
「はっ!」
報告に来た兵士が部屋を出ていく。
出ていったと同時に、会議室の中には溜息がそこかしこから漏れ出した。
将軍をはじめ、貴族や騎士団から何人かの幹部クラスが10人ほどいるこの場には、
景気の悪い顔しかなかった。
「これで落ちた領地は3つ。
王都まであと4つの領地しかございませんぞ……」
「どうにか、この辺りで反撃できませんかな?」
「今の我が軍の戦力では、あの魔物を操る部隊に勝てません」
「そうだ! 冒険者の部隊はどうなっているのだ?
魔物には、冒険者達であろう」
「冒険者の部隊も頑張っているようですが、何せ数が多く手が足りていません」
「ならば、もっと募集をかけろ!
高ランクの冒険者には、指名依頼でもすれば受けてくれよう!」
「それが、魔族との戦いで、かなりの高ランク冒険者が出払っています。
しかも、各町などに残るのは、魔物被害が起きた時のためだとかで……」
「この戦いも、一種の魔物被害だろうが!」
対策会議は、全く進まなかった。
ブルティス軍はあの魔物の部隊がなくとも強く、ボルニア軍は撤退を続けている。
何か打開策はないか、会議は紛糾する。
「……勇者の一部は、こちらに来られないのか?」
「現在、魔族領にて進軍を開始し、2つの砦を落とし領地を広げております」
「くっ、向こうは快進撃だのう……」
「そのため、こちらに回せる勇者はいないと……」
「王国自体が落ちれば、終わりだろうに!」
「それが……」
「ん? どうかしたのか?」
「勇者に追従している貴族たちが言うには、
王国が落ちたら、落とした国に従うまでだと。
勇者たちは人々のために戦うのであって、国のために戦うにあらず! と」
「ふ、ふざけるなっ!!」
貴族の1人が、激高しテーブルを勢い良く叩く。
テーブルの上に載っているグラスが揺れるが、倒れることはなかった。
「もうよい、落ち着けヒーブル卿。
ここで勇者たちに怒鳴っても仕方なかろう。
それに、その貴族の言うことも一理ある。
勇者たちには、これからも人々のために戦ってもらおう……」
「ホルナガ将軍……」
「これは極秘事項だが、国王陛下は、もう一度勇者召喚をするつもりだ」
「そっ、それは……」
「将軍、そんなことをして大丈夫なのですか?」
「教会の連中が、聖教国の連中が黙ってないでしょう?」
「そこは内密におこなうと言ってきた。
そして、何としても1年もたせろともな……」
会議室の全員が顔をゆがませる。
「陛下も無理難題を仰る……」
「今の状況で、戦力で1年は無謀としか………」
「私に策がある、これで1年、なんとか持たせる。
そして、勇者導入後、反撃といくぞ!」
「「「おうっ!」」」
▽ ▽ ▽ ▽
ハーガスト王国のどこかの町の冒険者ギルドで、
俺たちは辺境伯からの手紙を受け取る。
これは、定期的な報告の手紙だな。
しかし、ボルニア王国もそうだけど、このハーガスト王国も大きいな。
馬車での旅ながら、3ヶ月もかかるとは思わなかった。
まあその間、いろんな町や村を見学できてよかったんだが……
そういえば、村長のヴィニアさんに聞いたところ、
この世界の大きさは地球の5倍だそうだ。
さらに、この世界にあるいろんな場所を説明してくれたんだが、
俺や馬場の琴線に触れた土地は、浮遊島だったな。
……それはそうと、辺境伯の報告だが、とんでもないことが書かれていたな……
「王様が、再び勇者召喚をするそうだ……」
「相沢君、それ本当に?」
「まずいですね松尾先生、勇者召喚の後は迷い人が増えますよ」
今、馬車に乗っているのは、俺と松尾先生と山本だ。
箱庭とこの馬車を行き来すれば、夜営も怖くないし交代も簡単だ。
「しかし、そんなに何度も勇者召喚ってできるんですね……」
「山本さん、みんなを集めて会議をしないと、
召喚された勇者は、おそらく戦争投入のためでしょうから……」
「はい、すぐに知らせてきます」
そういうと、すぐに箱庭へ通じるドアを潜っていった。
「相沢君、これからどう行動するか、考えておきましょう」
「ですね……」
そして、どう召喚された勇者と接触するか、頭が痛いな……
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




