第59話 バカばっかり
ブルティス王国の侵攻が始まり、俺たちを召喚した王国が混乱した。
まあそれは無理もない。
俺たちを保護してくれている辺境伯の使いの人によると、
ブルティス王国は、俺たちのいる王国の南東側に隣接していて、
さらにブルティスの東が海になっているらしく、進軍をするなら、
俺たちのいる王国か、帝国と同盟を結んでいるハーガスト王国しかない。
となれば、ハーガストに攻め込んで、帝国を怒らせるよりかは、
勇者の出払っている、ボルニア王国に攻めてきたみたいだ。
それで、ボルニアは勇者たちの一部を帰国させろとか、
王国中から兵を出せとか、貴族会議や国王を交えた会議も紛糾していた。
勿論、そんな会議をしている間もブルティス王国軍は進軍しているし、
隣接している領地では、戦いが繰り広げられていた。
そして、ようやく会議で防衛やら軍の投入やらが決まったのが2週間後、
そのころには、隣接している貴族の領地のほとんどが占領され、
残すは領都のみだったらしい。
……ほんと、対応が遅いよな。
こんな緊急時こそ、迅速な対応が必要なんだけどな~
さらに、辺境伯の使いの人が教えてくれたことには、
俺たちのこともあった。
どうやら、今回の戦争に勇者の一部を、参加させるつもりらしい。
しかも、俺たちも参加させて、勇者参加の人質とするそうだ。
……無能と分かっているから、勇者に命令するための人質か~
それで、王国側から、俺たちをとらえる部隊が王都を出発したんだとか。
だから、この町を出て国境を越えて逃げなさいと。
うん、辺境伯はいい人だよね~
勿論、情報源はあの騎士団長さんだ。
この王国を見捨てたくないのは、そんないい人がまだいるからなんだけど、
今回ばかりはそうも言ってられないよな。
だから、今回は逃げることにした。
安藤と飯島が最前線に帰ってから、1ヶ月ほどで、クラスメイト全員が、
箱庭へ足を運んでくれた。
そこでの話し合いで、何かあった時は箱庭へ避難することと、
迷い人たちの保護なんかを話し合っている。
だから、戦争参加が嫌なら、箱庭へ逃げてくるだろうし、
俺たちも、これを機に、ダンジョンへ向かうことにして旅だった。
……ただ、ダンジョンへの旅は、みんなそろってとはいかなかった。
なにせ、箱庭での生活が始まっており、いろいろとやることがあったからだ。
そのため、ダンジョンのある都市へは、
俺と馬場、ケンジの3人で向かうことになった。
勿論、途中で交代はしてくれる。
空間魔法を付与した魔道具のドアは、使い方次第でほんと便利だな!
「では、明日にでも出発しますので、屋敷のこと、お願いしますね」
「それは、お任せください。
辺境伯様からも、皆様の好きにしてもらうように言われてますので、
屋敷のことなども、きちんとしておきますよ」
辺境伯の使いの人と別れてから、旅の準備を始めて、
次の日には、俺たち3人で旅立っていった。
誰も見送りに来てないので、旅立つ人数を不審に思う者はいない。
辺境伯との連絡は、冒険者ギルドを介して行われる。
勿論、王国を出るまでは連絡を取り合うこともないんだけど、
国境を越えたら、行く先々の町でその後の出来事などを教えてもらう予定だ。
「しかし、王国も俺たちを人質とは、何考えているんだ?」
「何も考えていないんだよ、馬場。
王国は勇者という力を使って、圧倒的戦力で勝利することしか考えてないって」
「ホント、バカだよな~」
「クラスメイトのいる最前線にも、通達が行くのか?」
「いや、使いの人の話だと、俺たちを捕まえてから出すそうだ」
「はあ、最前線には王女たちもいるのにな~」
「いい恥だな」
「魔王封印をお願いしておきながら、人質とって戦争に参加とは」
「今頃、俺たちを捕まえる部隊が町に入ったころかな?」
「いや、速攻部隊じゃないらしいから、後2・3日かかるみたいだぞ」
「でも、戦争って、ヒロキ一人で戦えそうだよな」
「ん~、いやいや、俺一人は流石に無理だろう」
「そんなことないって。 ねぇ、メイドさん!」
ケンジが、御者に座っているメイドゴーレムに話しかける。
『はい、ご主人様ならば、可能かと思います』
「ほら、メイドさんのお墨付きだ」
俺は苦笑いだ。
「……しっかし、このメイドゴーレム、よくできているよな~」
「ああ、何かのアニメのフィギアの女の子みたいで、かわいいし」
「何より、自分で考えて喋るところが、画期的だよな」
「まあ、苦労したからな」
「ヒロキは、本物のゴーレムマスターになったんだな~」
馬場が、じっとゴーレムメイドを見ながら考え込んでいる。
あ、これ、ダメな黙り方だ。
「なあ、ちょっと気になったんだが……柔らかいのか?」
「「はぁ?」」
俺とケンジは、聞き返した。
「だから、こう、柔らかいのか?」
両手を胸に持っていき、何かを揉むようなしぐさをする馬場。
「おいおいおいおい!」
「ああ、柔らかいぞ」
「お前も、答えるな!」
御者席に座り、ゴーレム馬を操るゴーレムメイドが照れたような気がした。
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