第6話 期待と現実は違う!
馬車を襲っていた狼は、皆のおかげで倒すことができた。
『フォレストウルフ』というらしいが、全部で13頭もいたが
すべて、ゴーレム武者に一刀のもとに倒された。
倒した狼の死体を、ゴーレム武者に運ばせて一か所に集めていると
襲われた馬車から2人の女性が下りて、こちらに歩いてくる。
馬場がすぐさま馬車を降りると、女性たちを迎えるべく歩いていく。
「…ねぇ、馬場君はどうしちゃったの?」
木下先生が、呆れるように俺に聞いてきたのだが
「さ、さぁ…」
俺は明確な答えを言えなかった。
「と、とりあえず、先生たちも一応行った方がいいと思います」
「そ、そうね、なんだか馬場君、行動がおかしいし…」
そういうと、木下先生と松尾先生も馬車を降りて馬場の元へ歩いていった。
俺は先生たちを見送ると、安西に小突かれる。
「ちょっと、もっとはっきりと
馬場の行動を言ってあげた方がいいんじゃないの?」
「どう言えっていうんだよ、テンプレ期待して向かったっていうのか?」
「…テンプレって何?って質問されそうね…」
「俺も、先生2人にこの状況のテンプレなんて説明したくない」
安西も嫌そうな顔をしている。
どうやら、この状況のテンプレをご存じなのだろう。
助けた馬車に高貴な女性が乗っていて…
その先は言わなくても想像できるだろう。
つまり、それを夢じゃなくて、妄想して馬場は先走ったのだが…
女性たちは馬場の前まで来ると、頭を下げてお礼を言った。
「このたびは、助けていただきありがとうございます」
「私どもの主人が、くれぐれもお礼を申しておりました」
馬場は少し自分の想像と違ったため、あたふたしてしまう。
「い、いえ、無事で何よりでした…」
「「では、失礼いたします」」
声をそろえて言うと、そのまま馬車へ戻ろうとする。
「あの…」
「はい、何か?」
女性の1人が振り返り、もう1人の女性は気にせず馬車へ戻る。
「あの、主人って、どのような方で…」
応対している女性が少し警戒して、
「私どもの主人は、高貴な方です。
ですので、直接礼を言えず私どもを使いに寄こしましたが、何か問題でも?」
馬場は、その迫力に押されたようで
「いえ、何でもないです…」
「では、失礼いたします」
女性はそのまま、振り返りもせずに馬車へと戻っていった。
そして、女性が乗り込むとそのまま馬車は走っていってしまった。
その馬車の後姿を呆然と見送った馬場は、落ち込んでいた。
馬場のもとに駆けつけて行った先生2人は、馬場たちのやり取りに入っていけず
少し離れた場所で見守っていたのだが、
肩を落として帰ってきた馬場に、声をかけれなかったようだ。
馬場はそのまま馬車に戻り、荷台の隅に座り込んでしまった。
俺がそれに気づいたのは、狼の死体を回収して
ゴーレム武者を土へと返し、核の宝石5つを回収して馬車へ乗り込んだ時だ。
みんなが声をかけづらそうにしているので、俺が声をかけた。
「馬場、テンプレになったか?」
馬場は座って落ち込んだ姿勢のまま、
「現実って、こんなもんなんだよな……」
「でも、あの2人の女性の首、確認したか?」
馬場は、バッと顔を上げると俺を見る。
「首って、もしかしてあの女性たちって……」
「ああ、奴隷みたいだぞ?」
そこへ安西が声をかける。
「よく分かったわね、あんた…」
「さっき、御者さんに聞いたんだよ」
「そういえば、狼の死体を回収してた時、御者さんと話してわね」
「ああ、あの狼、フォレストウルフっていうそうだけど
町の冒険者ギルドへもっていけば、買い取ってくれるそうだ」
「それで、回収してアイテムボックスに…」
俺は、馬場に顔を向けて
「後、あの馬車に乗っていたのは、ジルーナに住む貴族だってよ」
「そうか…貴族か…」
「でも、奴隷購入が夢でも妄想でもなくなったな」
馬場は、ハッとしてだんだんと機嫌が回復していく。
「そう、だよな……あんな美人の奴隷が買えるなら……」
あ、まずい、馬場の妄想が始まった…
それと同時に、女性陣全員からの視線が痛い……
馬場よ、強く生きろよ…
狼の騒動を終えて、馬車は再び街道を走っていく。
あれから何ごともなく、夜営をして1泊し
次の日のお昼頃、ゴージナ辺境領の領都『ジルーナ』に到着した。
「皆様、あれが『ジルーナ』の町でございます。
皆様には、あの町で身分証明のために冒険者ギルドへの登録をしてもらいます。
それが終わりましたら、今日泊まる場所へご案内いたしますので…」
領都『ジルーナ』
10m以上の城壁に囲まれた城塞都市、辺境にある都市ということで
あの城壁の内側に町の機能のすべてが収まっているそうだ。
家や商店など人が住んでいる建物をはじめ、領主の城や貴族の住む屋敷
さらに貧民街なども入っているらしい。
ただ、食料などはこのジルーナを中心にして点在する村から運んできているらしい。
また、そんな村へ赴く行商人も多く、ジルーナと村との交通も活発とのこと。
そのため、護衛の依頼は常にあるらしく、
この町では、冒険者は食いっぱぐれない職業になっている。
「あの、俺たちって身分証明がなかったんですか?」
俺は気になったことを御者さんに聞いてみると
「はい、本来でしたら勇者様たちとともに登録されるはずでしたが
皆様は勇者様たちとは別の道を選ばれたため、登録を後回しにされたのでしょう。
ですので、安全なあの町で冒険者登録をしておきましょう」
安全か…
とりあえず身分証明のために登録して、今後を考えないとな…
そして、俺たちはジルーナの町へと入っていった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。