第56話 敵対する魔王の正体
箱庭の俺の家の玄関で、2人の魔族の女性が抱き合っている。
1人は17歳ぐらいの女性、もう1人は10歳ぐらいの少女だ。
見た目はその年だが、魔族はエルフと同じく長命種だ。
見た目に騙されてはいけないが、今はこの2人の再会を喜ぼう。
しかし、二人とも泣いているのに、
声を押し殺して泣いているのは何故だろうか?
『失礼しました、ご主人様。
妹のミネリアと会わせてもらい、ありがとうございます』
姉のルビニアは、俺の前に跪いてお礼を言ってくる。
それを見て、妹のミネリアが、複雑そうな顔をしている。
『姉様……』
その時、玄関扉をノックする音が聞こえたと思いドアを見ると、
扉が開いて、馬場が入ってくる。
「ヒロキ~……お………邪魔?」
馬場は、俺を見て、跪いているルビニアを見て、最後にミネリアを見る。
そして、もう一度俺を見ると、何故か泣いていた。
「……ずるいぞ」
「落ち着け馬場、彼女たちは魔族だ。 それに、少し、話を聞きたかったんだよ」
「……話?」
俺は頷き、みんなをリビングへ案内した。
リビングで、ルビニアが、ソファに座ることをためらっていたが、
俺の命令ということで座ってもらった。
ソファには、俺の正面に馬場が座り、俺の右側に姉妹が座った。
それを馬場が、羨ましそうな目で見ていたが、俺はあえてスルーする。
「それで、聞いてみたいことってなんだよ」
馬場が急かしてくるが、それよりも聞いておかなければならないことがある。
「その前に、馬場の用事は何だよ」
「俺の?」
俺が頷き、隣の姉妹も頷く。
馬場は、腕を組んで考えて、思い出したようだ。
「ん~、そうそう、松尾先生が『翻訳の指環』がほしいって言っていたぞ?」
「翻訳の指環を? そういえば昨日、制服を着た女の子を見たな。
多分、あの子たちのだろう」
「……また迷い人かな?」
「安藤と飯島が来ていたから、多分そうだろうな」
「勇者の安藤と飯島が来ているなら、安藤たちにも箱庭へのドアを作るのか?」
「多分そうなるだろう、で、それをクラスメイトの所に持っていって、
何時でも、箱庭へ来れるようにするんだろうな~」
「そう言えば、この箱庭を、休息所にしようとか言っていたな……」
俺と馬場がいろいろ雑談をしていると、ミネリアが俺に声をかけてくる。
『ちょっと、何時まで私たちに分からない話をしているのよ』
『こ、こら、ミネリア、ご主人様たちのお話の邪魔をしたら……』
『だ、だって姉様……』
その時、馬場が俺を睨んできた。
「……ヒロキ、ご主人様って呼ばせているのか?」
「ん、ああ、そうだな、そう呼んでいるな……」
「もげろっ!」
「何でだよ!」
「なんて羨ましいやつなんだ! 美女奴隷にご主人様……
やっぱり、もげろっ!」
「……馬場も、美人奴隷がいたはずだが?」
「う、うう、う……」
俺が馬場の女性奴隷たちのことを言うと、何故か静かに泣き出した。
いったい、どうしたんだ?
「コホン! とにかく、ルビニア、俺の質問に答えてくれ」
『は、はい、わかりましたご主人様』
「まずは、魔族について教えてくれるか?」
『はい、どのようなことが知りたいのですか?』
「まずは、魔族の生息地は?」
『はい、魔族の生息地はこの大陸の北側と、東にある大陸の北側に
多数生息しています。
7人の魔王様を頂点に…』
「ちょっと待って、魔王が7人?」
『そうよ? 魔族の頂点にいる魔王様は7人いらっしゃるわよ?』
え、頂点なのに7人?
いや、そこじゃなくて、魔王って7人もいるのか?
なら、人族と敵対していない魔王もいるってことだな、ミネリアが言っていたとおり。
俺が考え込み始めたところを見て、
ルビニアが不安そうに、訪ねてくる。
『あの、ご主人様?』
「ああ、続けてくれ。 7人の魔王ってところから」
『はい、7人の魔王様を頂点に、それぞれで領土を持ち、
私たち一般の魔族は、それぞれの領土で生きてきました』
『また、魔王様の中には、人族の国のような形態をとる方もいらっしゃり、
その領土の中では、貴族の魔族もいらっしゃいます』
『私と姉様は、ちょうどその領土で貴族だったのよ』
ミネリアが、胸を張って威張っている。
それを見ている馬場の目が、少し怪しいが、まあ、いいだろう。
「それなら、国のような領土もあり、なにもしていない領土もあるわけか?」
『はい、人族などの生息地に近い領土が、国のような体制をとっていますね』
「ん? じゃあ、今魔王軍に攻め込まれているのって?」
馬場の質問に、ルビニアは、分かった、納得したような顔で答える。
『それは、人族たちの生息地に一番近い、魔王ロードブル様の支配領土ですね。
魔王様は、支配する領土の大きさで、優劣を競っていますから』
「なあ、魔王ロードブルって強いのか?」
『強いわよ? 私が聞いていた話だと、
7人の魔王様の中で2番目に領土が大きいらしいから』
『ええ、魔王の強さは、支配している領土の大きさで決まります。
領土が大きいということは、多くの魔族を従えているということですから』
「ルビニア、ミネリア、今いる魔王の名前、全部言えるか?」
『えっと、はい、大丈夫だと思います』
『私も、言えるわよ?』
「すまんが、俺たちに教えてくれるか? 特徴も交えて」
『はい、まずは、一番領土をお持ちの魔王「ガルネデル」様。
このお方は、最も大きな領土を持っていますが国としての形態はとっていません。
2番目が、先ほども言いました魔王「ロードブル」様。
3番目が、魔王「ルフェリア」様。
このかたも国としての形態はしていませんが、たくさんの町を作っておいでです。
他の領土にいる魔族たちと、貿易もおこなっているそうで。
4番目と5番目の魔王様は、姉妹になります。
妹の「ニーベル」様が4番目で、姉の「クローベル」様が5番目ですね。
姉妹ともに仲がいいのですが、
たまに意見がかみ合わずケンカをなさいます。
そのケンカが本気の戦いで、領土が大きいのはそのためだろうと噂されるほどです。
6番目が、魔王「センチネル」様。
実は、このセンチネル様は、今はいらっしゃるのか分かっていません。
何でも、ここ400年ほど姿を見ていないそうです。
そして、7番目が、魔王「グルネス」様です。
この方は、ロードブル様の影響と
人族たちの生息域に近いため、国の形態をとっておられます。
以上が、私の知る、魔王様の7人です』
……勇者やクラスメイトが戦っているのが、2番目に強い魔王かよ!
…………大丈夫かな? 帰れるかな、地球に…
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




