第54話 メイドがしゃべる
朝になり、目が覚めるとそこは全く知らない部屋だった。
『……ここって、どこなの? 確か、森の中で……』
魔族の女の子は、昨日の出来事を思い出し一気に目が覚めた。
そして、すぐにベッドから飛び起きた。
そして周りを見渡すと、すぐそばにメイド型のゴーレムが2体頭を下げている。
そのゴーレムは、完全な女性の体をしていて、
着ている服はメイドのものだ。
そのメイドゴーレムには、顔があり、表情がある。
しかし、何故か、明らかに人族や他の種族には見えなかった。
『おはようございます、お嬢様』
ゴーレムが、しゃべった。
そのことで、女の子の頭は混乱した。
頭の中が真っ白になった女の子は、完全に動けなくなっていた。
『あ……あ……え?』
『お嬢様、ご主人様が、お食事をご用意してお待ちですので、
食堂へご案内いたします』
『え……あ……はい……』
何を言っていいのか、何をすればいいのか分からず、
メイドゴーレムに案内されるまま、食堂へ移動していた。
メイドゴーレムに案内されて、食堂に入ると、そこには昨日の人族がいた。
そこで、一気に意識が戻り、昨日の出来事がよみがえる。
『お前は!!』
グウウゥゥゥゥ~……
鳴り響くお腹の虫に、ヒロキと女の子は気まずい雰囲気になる。
さらに、女の子の顔は真っ赤になり、プルプルと震えている。
「あ~、まずは朝食を食べないか?」
女の子は、ヒロキに聞こえる小さな声で、
『……いただくわ…』
と言うと、席について、テーブルの上に用意されていた朝食を食べ始める。
女の子はまず、暖かい野菜スープを口にする。
『……美味しい』
さらに、柔らかいパンにバターを塗り、食べると、頬を涙がつたっていた。
ヒロキは、そんな女の子を見て、何かの思いが出たのだろうと、
見ないふりをして食事を続ける。
女の子も、涙を拭うと、無言で食事を続けた。
朝食が終わり、メイドゴーレムが食器を片付けている時に、
女の子が、ようやくしゃべり始めた。
『……あなたの名前は?』
「名前を言ってなかったな、ヒロキ・アイザワだ。 よろしくな」
『……ミネリアよ』
ヒロキは、メイドゴーレムが出してくれた紅茶を一口飲むと質問する。
「ミネリア、いくつか聞いていいか?」
『……本当は呼び捨てなんて許さないんだけど、いいわよ、何?』
「まず、何であんな森の奥にいたんだ?」
『……町に入る手段を探していたのよ。
でも、なかなか入り込めないから、あそこで別の手を考えていたの』
「次に、姉様というのは?」
『……私の姉よ、名前はルビニア。
ある事情で奴隷になってしまったのよ、でも、ようやく居場所を見つけたわ』
「姉を助けるために、町に入りたかったのか……無茶するね~
では、次に、昨日としゃべり方が違うのはなぜ?」
ミネリアは、プイっと横を向くと、少し赤い顔で、
『き、気分が高まると、ああいう喋り方になるのよ……』
なるほど、これが伝説の『厨二病』か…
『つ、次は私からの質問よ!』
「ああ、どうぞ」
『まず、あなたはなぜあの森にいたのよ』
「トレント狩りをしていてな、狩りに夢中になって森で迷子になっていた。
ミネリアと出会ったのは、偶然だな」
『あなたはゴーレム使いよね?』
「今は、ゴーレムマスターだ。
だから、いろんなゴーレムを作っているよ」
『……昨日の私と戦ったゴーレムも気になるけど、
今は、あのメイドのゴーレムが気になるわ!
なに、あの喋るゴーレムは! どうなっているのよ!』
興奮して、身を乗り出してくるミネリア。
それもそのはず、喋るゴーレムなど、前代未聞だ。
魔物の中でも、ゴーレムは喋ることはない。
動きは何か仕掛けがあるとしても、知能がないに等しいゴーレムが、
喋ることなどないし、あるはずがない。
しかし、ミネリアの後ろに控えているメイドゴーレムは、確かに喋った。
しかも、自分の言葉でしゃべったように聞こえたのだ。
誰かが吹き込んだ言葉ではなく、自らが考えて喋ったように……
知りたい、喋るゴーレムの秘密が、ミネリアは知りたかった。
「ん~、ゴーレムを作るには何が必要か分かるか?」
『……体を作る材料と核でしょ? 何? 教えないの?』
「いやいや、そんなつもりはないよ。
ゴーレムの核は、いわば生き物の心臓や脳と一緒だ。
だが、容量が足りない。 だから、ゴーレムに命令して動かす。
ここまではいいか?」
『ええ……』
「では、核の容量を、刻み込める魔法陣を増やしたらどうなるか」
『そんなの、核の劣化を招き、寿命があっという間になくなって崩壊するわよ』
「そう、ゴーレム核の容量を増やすことはできないと、
それが常識だったわけだ、今までは…」
『……まさか、増やせたの?!』
「ああ、新型ゴーレム核を作ったら容量が跳ね上がったね」
ヒロキは、空間収納から、メイドゴーレムに使われている核を取り出し
ミネリアに見せた。
それは、ゴーレムの核というよりアクセサリーのようだった。
中心にある青い宝石に、黄色い宝石が2つと赤い宝石が1つ繋がっている。
『……この核と核を繋げている糸みたいなのは?』
「それは、金とミスリルの合金だよ」
『ご、合金?!』
ミネリアは、それ以上言葉が出なかった。
金属と金属を合わせるやり方はいくつかあるし、
いろんな武器や防具にも応用されている。
なおかつ、ドワーフが合金のやり方を、世間に発表しているのだから、
知っていて当然だ。
しかし、ミスリルの合金はいまだ成功例がないのが世間の常識。
なのに、ここにミスリルと金の合金とは……
「この合金のおかげで、核と核の間の連携とでもいうのかな、
それがうまくいって、容量が今までの100倍にすることができた」
『………』
ミネリアは、もう言葉がなかった。
そして、ここに常識もない事を悟ったのだ。
さらに、このヒロキの正体も気づいてしまった。
こいつは、異世界人だと……
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




