第53話 迷った森での出会い
箱庭で、勇者と松尾先生が迷い人のことで話している時、
俺事、相沢ヒロキは、絶賛森の中で迷子になっていた。
空間魔法の箱庭への出入り口は、固定されており、
箱庭へ入ってきたときにいた場所に、出るとき出てしまう。
そのため、この迷って森の中で箱庭へ避難して、
森の外へというわけにはいかないのだ。
便利なようで不便なことも、たまにあるのが魔法だな。
箱庭の自分の家に、あるものをとりに帰って戻ってから、
何時間か経過したようだ。
正確に時間が分からないのは、上を見上げればすぐにわかる。
森の木々によって、空が覆い隠されているからな……
「ん~、レベルが上がって体力だけはあるから、歩き続けるしかないか……」
俺は、森の中を歩きさまよう。
途中で、武闘家ゴーレムだけでは不安になり、武者ゴーレム3体を召喚。
合計6隊のゴーレムに守られながら、森の中を進んでいく。
「これは、完全に迷ったな……
空間把握も、気配察知にも何体か魔物が引っ掛かるけど、
森の出口は、分からないな……」
とにかく俺は、歩き続ける。
本当は、箱庭で休息をとりながら歩いたり、みんなに力を借りれば
よかったんだけど、この時の俺は一人で頑張ったんだよな……
そして、さらに時間が経過して、森の中にある川にたどり着いた。
「……森の中にも、川が流れているんだな」
俺が川に近づいていくと、視界に女の子が現れた。
川のすぐ近くでうずくまっている女の子、傍目には人族の女の子だが、
よく見ると、体育座りで覗いている頭に黒い角が見えた。
「……魔族か?」
俺の声に、ハッと顔を上げる女の子。
そして、俺の顔を見ると、すぐに立ち上がり戦闘態勢をとる。
銀色の髪がたなびき、赤い目が、暗い森の中で不気味に光る。
『人族か……』
俺の種族が分かると、女の子はニヤリと嗤う。
『ちょうどいい、貴様を我の僕にして人族の町を探ってやる……
フフッ、喜べ、我の僕になれるのだ!』
一人でしゃべると、女の子の体が赤くぼんやりと光る。
おそらく身体強化系の魔法を使ったのだろう。
そして、ものすごい速さで、俺に襲い掛かってきた。
しかし、女の子の攻撃は、武闘家ゴーレムによって阻止される。
『貴様、ゴーレム使いか!
……ゴーレムなどという鈍足の盾など、我の前では紙グズ同然だ!』
そこから、一層激しく、限界以上の力を出し襲いかかってくる。
しかし、武闘家ゴーレム3体は、攻撃をいなして威力をなくし、
難なく対処をしていく。
しかも、武闘家ゴーレムは鈍足というほど遅くなく、
身体強化した女の子の速さに、難なくついていき、
壊されることなく健在だ。
『バカな! バカな!! バカな!!!
ゴーレムが、ゴーレムが、我の動きに、ついてこれるなど!!!』
女の子は、信じられないとさらに加速していく。
どれだけの時間が経過しただろうか?
俺の感覚では、1時間ぐらいに思えるのだが正確には把握していない。
しかし、長時間戦い続けていることはわかる。
何せ、女の子の攻撃が鈍くなってきたみたいだからだ。
続く女の子の攻撃、傷つくことなく対処していく武闘家ゴーレム。
魔族の女の子の戦いを、少し離れてみている俺は、少し不思議に思った。
何故、あの女の子は魔法を使わず肉弾戦で戦おうとするのかと。
確かに、身体強化系の魔法は使っているのだろうが、
属性魔法を放つことができないのか?
……魔族なのに、放出系の魔法が使えないのか?
そんな疑問を考えていた時、戦闘が止まった。
女の子の目の前に、立ちふさがる武闘家ゴーレム3体。
女の子は、赤いぼんやりとした纏っていた光が消え、肩で息をしている。
『ハァ、ハァ、そ、そんな、ばかな……ハァ、ハァ』
女の子は、武闘家ゴーレムを睨み、その後ろにいる俺を睨んでくる。
『姉様を…姉様を、奪った貴様らを……』
魔族の女の子は、そのまま倒れ、気を失ってしまった。
「……これは、厄介ごとに巻き込まれたか?」
その問いに、俺の周りのゴーレムは答えてくれなかった。
武闘家ゴーレムの1体に、魔族の女の子をお姫様抱っこしてもらい、
さらに森の中を進んでいく。
それから1時間ほど、歩き続けてようやく森を抜けることができた。
そこは、どこかの街道、空は満天の星空だった。
「……星がきれいだな~」
星空を見上げて、一時現実逃避してから、周りを見て町の方向を調べた。
幸い、町からの明かりが幽かではあるが見える場所に出て来たらしく、
その明かりの方向へ歩いていく。
しかし、町の姿が確認できた辺りで、女の子のことを思い出した。
俺は、武闘家ゴーレムにお姫様抱っこされている魔族の女の子を見て、
「この子を連れて、町には入れないな……」
俺はすぐに武者ゴーレムを、宝石に戻して回収。
その後、空間魔法を使い箱庭へ武闘家ゴーレムと入っていった。
「とりあえず、俺の家に寝かせておくか」
俺は自分の家に連れていくと、ベッドの置いてある部屋に寝かし、
メイドゴーレム2体を召喚して、女の子の見張りと、
目が覚めて暴れた時の対処を任せて、自分の部屋で眠りについた。
武闘家ゴーレムは、リビングに待機させておくことを忘れない。
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




