第52話 ダンジョンの存在
箱庭の存在を知り、松尾先生たちの今を知って、
驚くばかりの安藤と飯島。
そして、最も驚いた空間魔法の存在。
確かに、自分たちもこの空間魔法が付与されたドアを持つことで、
箱庭へ自由に出入りができる。
さらに、迷い人を発見、保護した際もすぐに、松尾先生の所へ連れていける。
こんな便利なものはないなと感心し、作ってもらうことに決めたようだ。
安藤と飯島の、箱庭への出入りドアはヒロキが帰ってきてからとし、
もう一つの件を済ませることにした。
それは、2人の中学生の迷い人のことだ。
「それじゃあ、安藤さん、飯島さん、
この二人の迷い人のこと、聞かせてくれる?」
「はい、まずこちらの少女が……」
『は、初めまして、片岡 菜々美です。
咲ちゃんと一緒に、学校からの帰りにこの世界に来たみたいです……』
喋っていると、だんだん沈んでいく片岡の表情。
それを何とかなだめている安藤。
松尾先生は、この子たちも被害者なんだなと、悲しい気持ちになった。
「そして、この子がもう1人の……」
『……初めまして、岡崎 咲奈です。
学校の帰りに、いきなり後ろから、押されたと思ったら、あの町にいて……
怖かったです、景色がいきなり変わるのが……』
こちらは、飯島が横について慰めている。
松尾先生は、この子は冷静に状況を見ているわねと、感心する。
「ん~、二人は中学生? それとも高校生?」
『あの、中学生です……』
うんうんと、先生は優しい笑顔で、彼女たち迷い人の応対をする。
いろいろ質問をしたりして、彼女たちのことを聞いていると、
片岡が、質問しだした。
『あの、私たちは、元の世界へ、帰れるのでしょうか?』
迷い人ならば、この質問が最も大切だろう。
だが、現実は厳しい……
「残念だけど、迷い人が元の世界へ帰ったという記録はないの……
方法はあるかもしれないけど、期待はしない方がいいと思うわ」
『……そ、そうですか……』
「ごめんなさいね、力になれなくて。
でも、神様に会うことができれば、帰れる方法があるかもしれないわね……」
『神、様、ですか?』
安藤と飯島は、この先生、何言ってんの?という顔をする。
「……安藤さんも飯島さんも、その顔は先生に対して失礼よ?
あのね片岡さん、この世界には神様や女神様といった方々が実在するの。
ここは、地球とは別の異世界。
実際に、女神さまに会って力を授かった人も存在しているわ。
勿論、簡単に会える方々ではないことは、分かっておいて」
片岡と岡崎は、真剣な表情で頷く。
「私たちを召喚した『勇者召喚陣』だって、この世界の女神様が、
ある人族の願いを聞いて、授けたということらしいし、
もしかすると、迷い人を元の世界へ帰す方法もあるかもしれないわね」
安藤と飯島は考え込む。
確かに、勇者、魔王、魔法、魔物、地球では考えられない現象や物があるこの世界、
神様がいてもおかしくはない………のか?
でも、片岡と岡崎の期待している表情を見ていると、
信じて、行動してみるのもいいかなと考えてしまう。
『でも、神様に会うって、どうすればいいんでしょうか?』
「問題はそこなのよね~
この世界に来て、いろんな書物とかを読むことがあるんだけど、
神様や女神さまのことが書かれている書物は少ないの。
ただ、ある書物に女神にあったという記述があったわ」
松尾先生が、岡崎の質問に答えると、全員が期待した目で見てくる。
「そ、それは、どこで?」
安藤の質問に、他の3人が頷いて松尾先生を見つめる。
「ダンジョンよ。
その書物には、ダンジョンの最奥で女神に出会ったとあったわ」
「「『『ダンジョン……』』」」
飯島が確か、と思い出す。
「確か、ダンジョンのことは聞いたことがあります。
私たち勇者が戦っている魔族領とは真逆の、大陸の端にダンジョンがあり、
そこは迷宮都市として栄えているとか」
『『ダンジョン……』』
安藤は、言葉をつぶやく2人の中学生をそっと抱き寄せた。
安藤には分かっている、ダンジョンといえば、
小説などでは、魔物がわんさかいて、一定の実力がないと戦えないと。
この2人は迷い人、力をもたずにこの世界に来た普通の人だ。
ダンジョンなどにいけば、すぐに死んでしまうのではないかと。
『松尾先生、私たちでも、鍛えればダンジョンに挑戦できますか?』
だが、二人の中学生は、安藤の心配をよそにダンジョンに挑戦したいようだ。
それほど、元の世界へ帰りたいのだろう。
「先生、彼女たちでは……」
松尾先生は考える、どんなことでも可能性があれば挑戦する価値はある。
迷い人が過去、強くなった話は村長のエルフから聞いたことがない。
というか、質問してもいなかったな……
「わかったわ、でも、少し待ってね。
ちょっと調べてから、片岡さんと岡崎さんの訓練を聞いてみるから」
『『はい』』
安藤と飯島は、複雑な表情だ。
力がないとのことで、自分たちがここまで送ったのに、
強くなりたいとは……
「先生、いいんですか?
彼女たちがもし、強くなることが出来たら、他の迷い人だって……」
「鍛えたいっていうかもしれないわね……」
松尾先生は、苦笑いを浮かべていた。
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。
明日の更新は、遅くなります。




