第43話 奴隷たちを選ぶ 3
グラーバル奴隷商内で、いろいろと案内されている俺たち。
俺のわがままで、家族奴隷の部屋を見ることになった。
「こちらが、お客様が仰られていた家族奴隷の部屋です。
こちらには、お客様が購入予定の家族奴隷も一緒にいますので、
お確かめください」
そう言われて、俺たちは、一部屋一部屋確かめていく。
「この辺は、私たちが購入する予定の家族奴隷になるのね…」
「何か、不安そうにしているな」
「それは、これからどうなるかとか、
どんな扱いを受けるのかとか、心配しているからでしょう」
「俺たちは無碍に扱う気もないし、今は我慢してもらおう」
さらに進んでいくと、雰囲気の違う家族奴隷たちが並んでいる。
「ここの家族奴隷たちは、今までの奴隷と違いますね」
「ええ、ここからは、親が冒険者をしていた家族奴隷になります。
部位欠損で、怪我の悪化で、両親のどちらかをなくして奴隷になった者たちです」
確かに、父親のたくましさ、力強さが違うな。
また、母親のたくましさも違うな。 脳筋たちが多いようだ。
「お客様たちも、冒険者をしていらっしゃるのならお分かりと思いますが、
冒険者の依頼の中には、
失敗すると高額の違約金を支払わなければならないものもございます。
特に、貴族からの依頼は違約金が発生するものが多いようです。
冒険者は、確実に達成できる依頼ばかりを受けるのではありませんから、
どうしても、こういう借金により奴隷落ちする者たちが出てくるわけです。
ただ、借金奴隷は普通は本人のみなのですが、
違約金が高額過ぎると、家族を巻き込んで奴隷落ちする者がいるようです」
「それが、ここにいる人たちというわけですか……」
「まあ、中には違う人もおりますがね」
「というと?」
オーナーさんが、俺たちを連れていくように前を進み、
ある家族奴隷の窓の前で止まった。
「こちらの親子は、貴族の依頼を無理やり受けさせられて、奴隷落ちしたそうです」
「無理やり? 依頼を無理やり受けることがあるんですか?」
「ええ、緊急指名依頼という特別な依頼方法があるらしいですが、
ある貴族が、信頼を置いていてその緊急依頼を出したそうです。
それで、そこの冒険者が依頼を受けたのですが、時間がなく依頼は失敗。
それによって貴族は大損したそうで、違約金が発生し冒険者は、
家族ともども借金奴隷となって、私どもの商会に売られてきました」
俺は、窓の中の冒険者親子を見つめる。
中には、父親と娘の2人だけが見えていた。
うなだれて椅子に座っている父親の冒険者。
その父親に、背中合わせで何かを語りかけている16歳ぐらいの娘の姿が、
切ない感じがした。
「貴族の出した依頼が、もう少し早ければ、
彼も、失敗することはなかったんですがね……」
さらにオーナーさんに案内されていると、不思議な家族奴隷を見つける。
「オーナーさん、この部屋の家族奴隷は、父親がいないんですか?」
「確かに、大人が女性一人であとは10歳ぐらいの子供が3人だな…」
「あそこの家族奴隷は、冒険者の父親を亡くしましてね、
父親の残した借金を家族が支払うために、奴隷落ちしたんですよ」
「それは、依頼の失敗で?」
「いいえ、賭け事の借金です。
博打好きの父親でね、死んでからも家族に迷惑をかけるとは……」
木下先生も俺も、馬場でさえあの親子に同情してしまった。
次々に冒険者の奴隷家族を見せられるが、どこも借金奴隷が多かった。
依頼失敗がほとんどで、依頼中の怪我で失敗ってところが冒険者だな。
「ここまでが、冒険者の家族奴隷でした。
次は、商店や宿屋などの経営不振での借金奴隷になります」
そして、初めに見たのは宿屋を経営していたが、
失敗して借金奴隷になった家族だ。
窓から見ると、部屋の中には父親と母親、息子が1人と娘が3人。
子供たちは何れも幼く、5歳から10歳といったところだろう。
父親と母親に寄り掛かるように、眠っていた。
「……寝顔が、かわいいですね~」
木下先生は、子供の寝顔に夢中だ。
「この家族は、この町で宿屋を経営していたんですが、
ある時を境に評判が落ちたんですよ。
そのため、経営していた宿屋に泊まる客が減り、借金だけが膨らみ、
こうして、奴隷落ちしてしまいました。
ですが、後でわかったことなんですが、宿の評判は意図的に落とされたそうです。
今はその親子が経営していた宿はつぶれて、大きな商会が経営する宿屋が
入っているそうですよ」
「……もしかして、その大きな商会が?」
「かもしれませんね、再起を図ろうにも、借金が返せないことには……」
なるほど、嵌められたってことか…
商売って、難しいね~
そして、最後の部屋に案内されると、そこには姉妹の2人がいるだけだった。
「あの、オーナーさん、あの2人が親子なんですか?」
「いえ、あの2人は姉妹です。
実は、あの姉妹の父親は、今朝亡くなりましてね……
冒険者で、借金奴隷だったんですが、急に体調が悪くなりまして、
医者に見せたんですが、原因が分からないとかで……」
窓の中で、姉妹はお互いに抱きしめ合いながら泣いているようだった。
「彼女たちは、これからどうなるんですか?」
「借金奴隷として、女奴隷の部屋に移されてそれぞれで売ることになります」
「そうなんですか……」
馬場が、同情しているな。
木下先生も気の毒に、思っているようだ。
これは、俺たちで引き取った方がいいかもしれんな……
「どうですか? 購入を考えてもらえた家族奴隷はいましたか?」
「ええ、全て決めました」
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




