閑話2 勇者一行の旅路2
7人の勇者たちと旅に出て、ようやく魔族領に最も近い町を落とした。
この町が魔族に襲われて30年がたつが、
今だに魔族以外が暮らしているとは、思わなかった。
そのため、私たち勇者部隊と敵対し戦った者たちの中に、
人族がいたのは流石に驚いたよ。
昨日、この町から魔族軍の撤退を確認して町に入り、
今日は、朝から町の見回りをおこなっている。
後方の砦に連絡を入れていくつかの部隊を送ってもらえるように
手配もしている。
いろいろやることは山積していて、大変なのだ。
それでも、ここのところ戦いばっかりだったし、そろそろ休みがほしいかも。
「ナナカ殿、ここにおられましたか」
今声をかけたのは、勇者部隊の副隊長をしているコーベルさん。
縁の下の力持ちな人で、私たち勇者や異世界人が戦い易いように、
雑務全般をしてくれる人だ。
「コーベルさん、私に何か用?」
「はい、実はこの町のスラム街で、
変わった服を着た女2人をとらえたのですが、言葉が通じず困っていました。
それで、シズク殿に会わせましたところあなたを、
ナナカ殿を呼んでほしいと…」
「私? ん~、なんだろうね~」
私は、コーベルさんと一緒に町の中心近くに建つ、大きな建物に入っていく。
構造からして、これは冒険者ギルドだったのだろう。
中は荒れていて、長年使ってない事が分かる。
そんな1階の奥の部屋を使えるように掃除したようだ。
そこに勇者の1人の雫と、勇者隊の兵士2人。
そして、縛られている女性2人がいた。
とりあえず、開いているドアをノックすると、
中にいる人たちが、こちらを確認するように見る。
「雫ちゃん、私を呼んでるって聞いたけど?」
「ええ七夏、あなたの意見が聞きたかったから呼んだの。
私1人では、判断がつかなかったからね」
部屋の中に入り、縛られている女性2人を見た時、ある事が頭をよぎった。
「コーベルさん、そこの兵士の2人もちょっと席を外してもらえますか?」
兵士の2人は互いに顔を見合わせて驚いている。
「あの席をはずして、大丈夫なのでしょうか?」
「先ほども、そこの女2人が襲い掛かってこられたようでしたが…」
私は、少し驚いて雫に確認する。
「そうなの? 雫ちゃん」
「私みたいな女性を見てびっくりしたんでしょうね、私は大丈夫よ。
これでも『刀の勇者』ですから』
「私も『雷の勇者』ですから、問題ありませんよ」
コーベルさんは少し考えた後、了承してくれた。
「わかりました、私たちは席を外します。
建物の入り口に待機していますので、何かあればお呼びください」
そういうと、コーベルさんと兵士2人は部屋を出ていく。
入り口のドアを閉めると、部屋に浄化魔法『クリーン』をかける。
さらに、女性たちの縄を解いて2人にも『クリーン』をかけると、
2人とも泣き出しちゃった。
「2人は地球人でしょ?」
雫ちゃんが、右の女性の肩に手を置きながら質問する。
「はい……はい…日本人……です…」
嗚咽をもらしながら、シズクの質問に答えていく女性2人。
右の女性が、片岡菜々美。 左の女性が、岡崎咲奈。
2人とも中学3年生だ、なんか大人びているから年上だと思ったけど、
年下じゃない。 彼女たちも私たちの歳を聞いて驚いていた。
彼女たちがこの町に来たのは、1年前。
まだ魔族に支配されているころだね。今までどうしていたのか聞いたら、
スラムにある空き家で、身を潜めて生きてきたそうだ。
食べ物や飲み物は、必死の思いで調達したと泣きながら話してくれる。
言葉も通じない、力もない、魔法も使えないで、生きるのに必死で、
ここがどこかなんて考える余裕がなかったとのこと。
私たちと魔族の戦いのときも、家の床の下に身を隠していたそうだ。
そして、辺りが静かになって雫の日本語が聞こえて、
思わず飛びついてしまったと。
私と雫は、お互い顔を寄せて話し合う。
「七夏、これって松尾先生からもらった手紙に書いてあった…」
「そう、迷い人に間違いないね」
何の力ももらえず、異世界へ来てしまった現代人。
過酷な環境では、生きることもままならず、大半が奴隷になってしまうとのこと。
そのため、見つけたら保護してほしいと先生たちから頼まれている。
私は、どうしようかと考えているといい考えが浮かんだ。
これを利用して、休みがもらえるかもしれない。
「ねぇ、雫ちゃん。
彼女たちを松尾先生のもとに送って行かない?」
「え? 送って、行く?」
「そう、彼女たちを松尾先生のいる町まで、送って行こうって」
雫は考える、そして、にっこり笑うと私の考えが分かったようだ。
「いいわね、他の勇者や部隊のみんなに了承をとれれば、行ってみましょう」
こうして私たちは、最前線で戦う疲れを癒すため、
彼女たち迷い人を送り届けるために、戦線を離れる承諾を得るために、
勇者部隊のみんなに話す。
「いいよ、安藤さんと飯島さんで、送って来なよ」
勇者のリーダー、西島君があっさりと了承してくれた。
「……ずいぶんあっさりと、オッケーが出たわね」
「まあ、これから半年はこの町を拠点に動くことになるからね」
「この町を拠点に?」
「そう、ここは魔族領の端。
だから、この町の周りを取り戻して、後方部隊との連携をとりたいんだよ」
「物資の行き来もお願いしたいんだよね~」
「だから、少しこの町を動けないんだ。
で、動けない今だから、その人たちを送ることを許可したの」
勇者たちにあっさりと許可をもらった雫と私は、彼女たち2人を連れて、
松尾先生たちが活動している、
ボルニア王国のゴージナ辺境領のジルーナの町を目指す。
しかし、4人だけで旅立とうとしたんだけど、
護衛ということで女性兵士が2人ついてくることになった。
まあ、馬車の操縦とか野営の時の料理とかあるからいいかな……
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




