第31話 アジト、襲撃
2人の小さな眼差しを一身に受ける2体の暴徒鎮圧用ゴーレム。
この世界だと、見たこともない装備でめずらしいのだろう。
「わぁ~…」
「すごい…」
その間に、気絶している盗賊を冒険者たちに手伝ってもらい、
一か所に集め終えた時、倒れた馬車から1人の女性が、ようやく抜け出してきた。
「お、お嬢様~、あ、あ、あぶのう、ございます……」
馬車から出て、ゴーレムを見てるお嬢様2人の下に行くまでに、
体力を使い切って、息を切らせて女の子2人に声をかけている。
「ニール、危なくなんてないわ~」
「うん、見てよこのゴーレム、見たこともない姿じゃないの~」
恐る恐る顔を上げ、ゴーレムを見ると、
メイドのニールは、今まで見たこともないゴーレムが、そこ場に鎮座していた。
動かないとはいえ、頼もしくも見え、怖くも見えた。
「た、確かに、珍しいゴーレムみたいですけど…」
メイドのニールと、幼いお嬢様2人がゴーレムに夢中になっているころ、
少し離れた場所では、冒険者による盗賊たちへの尋問が始まっていた。
俺たちは、ケンジと一緒に倒れてしまった馬車の修理を行う。
完全に横倒しになった馬車を、まず起こして、点検を始める。
こういう時、鍛冶魔法を持つケンジが役に立つ。
鍛冶魔法には、状態点検の魔法があり、どう直していくいいのかが分かる。
便利な魔法もあったものだ。
「ケンジ、どうだ? まだ使えそうか?」
「う~ん、横倒しになってこの状態は奇跡だな…
車軸も、車輪も、問題なしだな。 走ることに問題なしだな」
俺をはじめ、周りにいた全員がホッと胸をなでおろした。
「でも、馬車を引っ張る、馬がいないんですよね…」
木下先生が、馬がいるはずの場所を見るが、そこには馬はいない。
「馬車が横転した時に、馬の拘束が外れて逃げてしまったそうですよ」
青島が、冒険者と話をしていたのは、そのことを聞いていたからか。
「相沢君、ゴーレム馬を貸してあげることはできる?」
「できないこともないですけど、最大で6日ですね。
今の俺の魔力では、その辺りが限界ですね」
この世界にスキルレベルは存在しないらしい。
まあ、まだ発見されていないのかもしれないし、神様が必要と感じれば、
創り出してしまうのかもしれないが…
何せ、神様はこの世界では存在している。
俺たちが、馬車の側であーだこーだと話し合っていると、
冒険者の1人が、盗賊の自白によってアジトの場所が判明したので、
これから襲撃をするそうだ。
そこで、俺たちの中から戦力を出してくれとお願いしてきた。
「戦力ですか?」
「そうだ、君たちの戦力のゴーレムを貸してほしいんだよ。
残念ながら、今の俺たちだけではアジトの襲撃は難しいからな」
「…なら、俺がついて行きますよ。
ゴーレム使いの俺がついて行けば、戦力としては問題ないと思いますし」
「おお、それは助かる! では、準備が出来たらすぐに来てくれ」
そういうと冒険者は嬉々として、仲間の元に戻った。
「木下先生たちは、あの女の子たちをお願いします」
「わかったわ、くれぐれも気を付けてね?」
「はい」
俺は、皆と別れて、冒険者たちと一緒に盗賊のアジトを目指す。
襲撃場所から、森へ入って10分の距離の場所に盗賊たちがアジトにしている
古い砦が存在していた。
それは、何百年も前にこの辺りであった戦争で使われていたものらしいが、
今の俺をはじめ、冒険者たちも知らないだろう。
盗賊たちは、その砦をアジトにしているようで、見張りが3人いた。
「見張りが3人か、裏口はどうだった?」
「いや、裏口はなかったぞ。 この建物、だいぶ古いみたいで、
外から見ても、あちこちが崩れているようだったな…」
冒険者たちは、少し襲撃方法を話し合っている。
襲撃中に、建物の崩壊は避けたいんだろうな…
でも、中に人が捕らえられているなんてあるのかな…
「ヒロキ君、決まった。
ゴーレムを何体か出してくれ、アジト入り口で騒ぎを起こして、
中にいる盗賊を全員、あぶりだす!」
「わかりました」
俺は、空間収納から宝石を5つ取り出すと、そばの地面に投げて、
暴徒鎮圧用ゴーレムを5体作りだす。
「では、ゴーレムに入り口で倒すように命令しますね」
「ああ、お願いする。 俺たちは大声で中にいる盗賊を誘い出すから」
俺は、1体のゴーレムだけを入り口へ向かわせ見張りの3人と戦わせた。
「鎮圧開始!」
鎮圧用ゴーレムが、木の影から姿を現し見張りの1人を倒してしまう。
「な、なんだ! 魔物か!?」
驚く見張り、そして一人の見張りが中へ大声で叫ぶ。
「敵襲! 敵襲!」
その叫び声と同時に、冒険者たちが見張りへ襲撃を仕掛けた。
「何! 冒険者どもだと!」
アジトの中から、武装した盗賊たちが次から次へと姿を現していく。
俺はこのタイミングで、残り4体のゴーレムも盗賊たちへ向かわせた。
「鎮圧開始!」
盗賊、冒険者、ゴーレム1体が戦っている入り口付近で、
さらにゴーレム4体が投入され、
盗賊たちが次々と、電気ショックで気絶させられていく。
冒険者たちも、油断なく、ゴーレムを背後から襲おうとしている盗賊の注意を引き、
ゴーレムたちの手助けをしている。
そして、盗賊を40人ほど倒したところで、
アジトから出てくる盗賊がいなくなった。
「…ヒロキ君、ゴーレムを前面に出して、アジト内を探索だ」
俺は頷き、ゴーレム3体を気絶している盗賊の見張りに、
残りのゴーレム2体と冒険者を伴って、アジト内へ侵入していった。
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