第29話 色褪せた依頼書の謎
冒険者ギルドで、家建設の手伝いっていう依頼を受けた俺だが、
1週間で家も無事に完成し、さらに追加報酬を依頼者の大工の親方が
言ってきた。
よほど、一生懸命家の建て方の講義を受けたり手伝いをしたことが
評価されたのだろう。
最後は婿に来ないか、とまで言われたからな~
でもこれで、家建設のイロハはわかったし、
箱庭で、皆の家を建設することにも自信がついた。
でも、まずは自分の家を建設してから、皆の家を建てるけどね…
とにかく、今日は依頼達成の報告にギルドへ来たわけだが、
入り口を入ると掲示板の前で、何やら話し込んでいる知り合いを発見した。
あれは『突風のフォレスト』というパーティーのリーダーの
バーミクさんだよな、隣は確か同じメンバーのテスルさんだったか?
「おはようございます、バーミクさん、テスルさん。
お昼近くでけど、依頼を受けに来たんですか?」
バーミクさんが、声をかけた俺に振り向くと笑顔で答える。
隣のテスルさんも、手を小さく上げて挨拶してくれた。
「ああ、ヒロキさん。 おはようございます。
今日は依頼を受けに来たのではなく、報告をしに来たんですよ」
「報告ですか?」
「ええ、それはさておき、ヒロキさんはご存知ですか?
『ブラシュ』という村で起きた出来事を…」
「あ~、生憎とここ最近は家の建築の手伝いの依頼を受けていたもので…」
「なるほど…
実はですね、その『ブラシュ』の村にある一軒の家の中で、
大きな宝箱が発見されました。
ところがその宝箱、動かすことができないほどの重さで家主も困っていたんです」
「それで、その宝箱を移動させるための人手を
冒険者ギルドに依頼してきたんですが、その依頼、不成立が続いているんです」
「不成立?」
「不成立っていうのは、冒険者ギルドに出された依頼を受けて、
その依頼を完遂、または完了できなかったことを言います。
また、依頼失敗と違って、ペナルティや違約金などを支払うことがなく
再び依頼書を掲示板に貼り直すことで、他の冒険者も受けることができるんです」
そこに、受付嬢の1人の女性が話に入ってきた。
「…ルリー嬢、受付はしなくていいんですか?」
ルリーさんという、冒険者ギルドの受付カウンターで受付嬢をしている女性は、
ショートカットの髪で、色は青みがかった黒。
服はギルド職員のものと思える統一された制服だ。
「何やら、掲示板の前で面白そうな話をしてそうだったのでね~」
「また受付総括のジルフさんに怒られますよ?」
「大丈夫、大丈夫。 今日はジルフ様、お休みの日だから」
ルリーさんという受付嬢、あっけらかんとしているな~
「それで、依頼不成立とバーミクさんとの繋がりが分からないんですが?」
「ああ、話はまだ続きがあります。
その不成立の原因は宝箱の重さにあると思い、
中身を出してしまおうとなったのですが、宝箱の鍵が開かないんですよ」
「その宝箱の中身を出して軽くするってやつは、依頼を受けた最初の人たちから
どころか、依頼者も考えてやろうとしたんですが、
宝箱には、ガッチリと鍵がかかっていて開けられなかったと…」
「そのことは、依頼不成立の報告を受けた時、ギルド側も把握してました。
それで、依頼を受けた冒険者とともに鍵開けのできる冒険者か、
鍵開けの専門家を同行させて、送り出していたんですが…」
「それでも不成立が続くと…」
「ええ、同行していた鍵開けの専門家が言うには、
『ありゃあ、鍵じゃねぇ、呪いの類だぜ。
あの鍵を外すなら、呪いを解呪できる奴も同行させねぇと無理だ』
と言われましてね、今度は呪いを解呪できる人を同行させて送り出したんですが…」
「またも不成立だったと…」
「30回の依頼不成立が続き、最後に依頼を受けた冒険者たちは、
今までのイライラと恐怖で宝箱を破壊しようとしましたが…」
「破壊すらできなかったんですか…」
「で、その依頼がアレです」
バーミクさんが指さした場所は、掲示板の端の端、
他の依頼書とあきらかに紙の色の違う依頼書が貼られていた。
『ブラシュ村の宝箱の撤去依頼』
「あの依頼が貼りだされて5年ですが、今では依頼者も住んでいた家を捨てて、
この町に引っ越してきました。
それで、宝箱の撤去依頼を取り下げようとしたのをギルドが買い取り、
ああして、ギルドからの依頼として貼り出しています」
「当時のギルド長は、エルフの完璧主義者でしたね。
確かこのギルドを離れるとき、この依頼書を見て
悔しそうな顔をしていたのを覚えていますよ」
バーミクさんの言葉に、テスルさんとルリー嬢も苦笑いだ。
「それで、この依頼書がまだ張り出しているのを見つけてね、
こうしてテスルと昔のことを話していたんだよ」
「そういえば、大工の手伝いの依頼を受けた時、
この依頼書は見かけませんでしたね…」
「そんなことないわよ、ちゃんと貼り出していたと思うから、
他の依頼書に隠れて見えなかったんでしょうね…」
皆で、色あせた依頼書を眺めているとルリー嬢が俺に提案してくる。
「そうだ、試しに受けてみない? この依頼」
「俺がですか?」
「この依頼は失敗しても不成立で済んじゃうし、
何より、いろんな人に受けてもらって早く完了してほしいのよね~」
俺は、勧められた色あせた依頼書をじっと眺める。
…場所はこの町から3日の距離にある村。
…報酬は金貨10枚。
「金貨10枚ですか?!」
「ええ、最初は銀貨5枚の依頼だったんだけど、
失敗者続出で今や呪いの依頼とまで言われていてね、報酬も上げざるをえないのよ」
ん~、どうしようかな…
何かそのブラシュ村に魅力があればいいんだけど…
「バーミクさん、ブラシュ村ってどんなところなんですか?」
「お、依頼受けてくれるの?」
ルリー嬢が、すごい期待した目で俺を見てくる…
「ヒロキ、ブラシュ村は奇麗な川の側にある村でね、
勇者が広めた、確か『コメ』という穀物を作っている村なんだ。
ブラシュ村の特産品は、そのコメという穀物なんだけど…」
「そのコメと川で捕れる『ウナギ』を合わせた
『ウナジュウ』という料理が「行きます!」ゆう……え?」
「この依頼受けて、ブラシュ村に行きます!!」
俺はすぐさま依頼書を剥がすと、受付へと歩いていった。
バーミクさんとテスルさんが、あ然としているようだったけど、
今はブラシュ村に行くことだけしか頭になった…
ルリー嬢は、満面の笑みで受付に戻って依頼を受理してくれた。
この依頼、日本人で反対する奴は存在しないだろう…
『ウナジュウ』
おそらく、召喚された異世界人が考案したに違いない。
うな重を食べに村に行って、ついでに依頼をしてみるか…
読んでくれてありがとう、次回もよろしく。




