第1話 やるときはやります!
「いや、すまんな。
中央の通りで勇者たちを送り出すパレードをしているのでな…
本当なら、君たちも勇者たちと同じ異世界人なのに…」
途端に元気のなくなる騎士団長、ホント、いい人だよな~
「元気出してくださいよ、騎士団長。
人々が勇者にかける期待はわかってますから、俺たちは気にしてません。
それより、今までお世話になりました」
今、俺たちは馬車に乗りこれから旅立とうとしている。
パレードをしている勇者やその仲間たちと違い、
俺たち10人は、生産職だったり戦いが苦手だったりして
勇者たちの足手まといになりそうな者たちだ。
勿論、馬車に乗っている俺もまた戦いが苦手だった。
だからこうして、こそこそと旅立つわけだけども。
この後、俺たちは『ベルモンド・ゴージナ』辺境伯の治める領地へ向かい
その領内にある町や村で生きていくことになっている。
勇者たちが魔王を封印するまでの間。
3か月前、俺たちのクラスはこの異世界に召喚された。
高校教師2人と生徒34人が、大広間に召喚され
『どうか、魔王を封印してください』と美少女にお願いされる。
そんな物語の中だけのことに、教師を含めた全員が舞い上がってしまった。
だが、時間とともに冷静になってみればヘタレの俺に
魔王と戦う勇気なんてない!
じゃあ、どうするのか?
幸い、クラスの中から7人の勇者の称号を持つものが魔王の封印を了承した。
それと同時に、勇者たちの友達やら恋人やらが同行を名乗り出る。
だが、俺を含めた10人が戦いを拒否した。
そのことで少し揉めたが、俺たちのステータスを見せることで納得したようだ。
俺たち10人の生産職のステータスで。
このやり取りで、召喚した王国側の態度が少し変わるが
気にするまでもない。
ただ、ある条件を出された。
それは、勇者を送り出す3か月後に王都を出ていくこと。
戦力にならないものを養う余裕は、王国側にはないそうだ。
まあ、当たり前な話だよな。
魔王を封印すれば、俺たちは元の世界に帰れるんだし
それまで生きていくことを決意した。
ただ、この王国側の決定に心を痛めたのが騎士団長だった。
この世界に勝手に呼び出しておいて、戦力にならないからと追い出すのはあんまりだと
俺たち10人の受け入れ先を探してくれたのだ。
そして、騎士団長に協力してくれたのがゴージナ辺境伯だった。
我が領内にある町や村で過ごすがよかろうと、言ってくれたんだとか。
で、冒頭に戻るわけだ。
王都の中の歓声が一段と大きくなった。
「おっと、勇者たちが旅立ったようだな。
ではみんな、必ず生きて元の世界に帰るんだぞ!」
俺たちを乗せた馬車は、街道を辺境へ向けて出発する。
王都の外にまで、見送りに来てくれた騎士団長に手を振りながら別れていく。
ホント、いい人だよな騎士団長…
街道を進む馬車は、俺たちの馬車だけではなく何台か見えるが
進む速度に変わりはない。
俺は、これからの生活を考えながらこの3か月で覚えたスキルを確認していた。
名前 相沢 弘樹[ヒロキ]
年齢 18歳
職業 高校3年生
レベル 1
生命力 220
魔力 7000
スキル 異世界言語習得
鉄魔法[土魔法] 空間魔法
火魔法 氷魔法 雷魔法 聖魔法 治癒魔法
生活魔法 鑑定魔法 付与魔法
魔力操作 気配察知 気功 料理 裁縫
身体強化 格闘術 錬金術
称号 不屈の闘志 料理人 孤独に生きるもの
村での生活を考えて、1人で何でもできるように覚えたのだが…
魔法関連は、お城の図書室や魔法の教師たちに教えてもらい、
料理や裁縫は、メイドさんたちに。
格闘術や身体強化などは、騎士団長に頼み込んで教えてもらったな。
気功は、魔力操作を覚えている最中に覚えてしまった。
何せ、体の中にある魔力を探っていて間違えて気功を覚えたのだ。
魔法の教師には、よくあることだと笑われてしまったが。
…しかし、暇だな。
馬車の旅なんて、景色は森と土の街道だけ。
馬車の中では、女性教師2人と女子生徒3人がいろんな話をしている。
他の男子生徒は、寝ているもの、本を読んでいるもの、妄想にふけっているものと
多種多様だ。
馬車の外を眺めながら、暇を持て余していると御者さんが声をかけてくれた。
「皆さん、この先の開けた場所で今日は野宿となります。
テントなどの手伝いをお願いしますね」
「はい、分かりました」
俺たちを代表して、先生が応対してくれた。
「それじゃあ、みんなも協力して野営の準備よろしくね。
お城で、騎士団の人たちが教えてくれた通りにやれば問題ないはずよ」
「「「は~い」」」
皆で返事をすると、周りに出している荷物を
それぞれの持ち主が『アイテムボックス』に納めていく。
この光景は、異世界を感じさせるね。
実は、みんなが使っている『アイテムボックス』と
俺の空間収納は少し違うらしい。
お城で俺たちに魔法を教えてくれた先生たちが言うには、
皆がもっている『アイテムボックス』はスキル扱いで、無詠唱で使えて
俺の空間収納は魔法なのだそうだ。
つまり、俺の空間収納には、なれるまで詠唱が必要というわけだ。
実際、最初の1か月ほどは詠唱していたしな…
魔法は慣れて自然に使えるようになると、無詠唱になる。
俺もスキルの『アイテムボックス』がほしかったぜ……
さて、俺も野営の準備をしますかね~
あと1話更新しておきます。