表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2後編

続き。

同性愛描写がある――っと言っても今更遅いのか。

 ◆



 しばらくすれば私が以前櫛を買ったお店が見えた。

 魔王が私が見ている視線の先を読み、真っ直ぐにその店の前に着いた。


「ここにクシがあるのだなフェーデ」

「はい。……魔族が入って大丈夫かな……」


 少し周りを気にすると、遠くの物陰や市民に混じった騎士が一定の距離を保ち見張っている。

 何かあればいつもの様に彼らが動くだろう。魔王は私が最初に入るのを待ってるのか、私を見ていた。


 それに答えるように店に入る。扉の開閉を知らせる鈴が小さく鳴った。


 店内はそんな大きくないので小規模な店といった所。

 中は櫛の他にもかんざしなど髪に飾る装飾品が並んでいた。


 私の次に店に入った魔王は内部を軽く見て「狭いな」と余計な一言を躊躇なく口にする。

 その言葉を咎める視線を魔王に向けるが、私の意図を理解してないみたいで笑顔で返された。


 もう魔王の対応は諦め目的の櫛を眺める。この店の強さは富裕層向けから庶民向けまで幅広い種類の豊富さだ。

 様々な櫛を見れるので、見て楽しいのも私がこの店を好んだ理由で。


「これがクシか?見たところ様々な種類があるようだが、フェーデはどれが好みなの?」

「え?うーん……普段使いですから強度が強いものでしょうか」

「これはきらきらしていてフェーデに似合いそうだぞ」


 魔王が見ていたのは富裕層向けの主人が使うような、装飾が過度に盛り込まれた髪飾りだった。

 これは付ける本人が飾りに勝っていないと、逆に飾りに負ける類のシロモノだと思う。そもそもこれは櫛ではないし。


 魔王のお薦めは早々に辞退し、私は庶民向けのでも少し飾りのある櫛を手に取る。

 これなら使いやすそうで、前に使っていたのと似たような形状だ。


「フェーデはそれが気に入ったのか?あまりきらびやかではないな」

「人に見せるためのものでは無いですから、この程度でいいんです」

「そうか……控えめ、という奴だな。私的にはもっと飾って欲しいが、その方がフェーデらしくて愛らしいかもしれぬ」


 私がただ何となく選んだものを、魔王は優しい微笑みで肯定する。その顔は反則級のお顔です。美少女は恐ろしい。

 少し呆けていると、手に持っていた櫛を魔王が攫い、後ろで控えていたルルファさんに渡した。


「頼む」

「承りました」


 自分で買おうとした意識で選んでしまっていたので、そういえば贈り物だったなと思い返す。


 店に入ってから店主の姿が見えなかったが、ルルファさんがお会計してる時にはちゃんと居た。

 私の姿には気がついてるみたいだけれど、角を生やした魔族には少し怯えていたのかもしれない。


 現にお金受け取る時、少し体が引けていた店主さん。お店に来てしまってごめんなさい。



 用事が済めば直ぐに店を出る。

 魔王も一緒に出てきて、その顔はとても満足げである。


「これでフェーデに贈り物ができたな。良かった」

「……なんだかプレゼント貰う側なのに、魔王様が貰った様な顔してますね」

「それはそうだ。そなたに尽くす事が私の喜びであり、愛だからな。」


 魔王は私の手を取って、そっと手の甲に口付けをする。とても大切に、とても大事に、とても愛おしく。

 魔王の赤い目が、私を真っ直ぐ見つめてくる。見つめ続ければ、何処か体が焼け付いてしまいそう。そんな錯覚をした。

 ……でもどんなに想われても、私は魔王の想いには応えられない。


 その言葉が、喉まで出かかって、私は自制する。


 言えるわけない。彼女は魔王。そして潜在的な脅威の『魔族』。その中の一番の実力者。

 ヴェッキオード領に住む者として、少しでも彼らの恨みを買う事は、避けなければならない。


 今この平行線が、一番平和で私が役に立てていること。

 私の気持ちを押し殺していれば、モールビット様やこの領を護ることに繋がっている。


 彼女まおうに私が求婚されてから、私の中で決めたこと。


 でも、こうして関わる度に知ってしまう、情ができてしまう。魔王でも可愛い彼女を。

 好きな人が出来てしまった。人間ではない側近のまぞくを。


 今の立場と種族の違いで纏まらない考えが、私の心の中で複雑に混ざる。



「お待たせいたしました魔王様」

「うむ。はよ、早うー」


 扉の開閉の鈴の音と共に、ルルファさんが出てきた。急かされて、プレゼント用に包装された袋を魔王に渡す。


「フェーデ!贈り物だ!どうか私と思って側に置いてくれ!」


 満面の笑みで、私の前に出された贈り物。

 もう中身も知っているけれど、改めて言われ、その贈ってくれた気持ちを無碍になんてすれば、オルゴー家の名が廃ると言うもの。

 自分の中で、ただ純粋に。


「ありがとう、ございます」


 微笑んで、お礼を述べて、袋を受け取る。

 受け取った袋は櫛だけだというのに、少し重く感じた。



 ―――その時、矢が放たれた。

 その矢は真っ直ぐに、魔王・・へと向かう。


「――!? 魔王様っ!!」


 最初に気づき声を上げたのはルルファさん。

 その声に私は驚いた。

 魔王は顔が真っ赤だった。


 何故真っ赤!?


 魔王本人が動かないと悟ったルルファさんが射線上に入り、矢が寸止めになりながらも掴み取る。

 掴み取った矢は、淡い光を放っていたが、やがて光量がなくなり、その原型を留められず消えた。


 瞬間の出来事だったので唖然としてしまった。魔王は状況に気づいてないのか、両手で顔を覆って何か呟いている。怖い。


 ルルファさんが射線上の先を辿り見ると、まだ街に残っているクピードーだった。

 どうやら建ち並ぶ建物の屋根に潜んでいて、討伐に駆け回る騎士の目を欺いたようだ。


 クピードーは見つかったことを焦って逃げようとしたが、一足飛びでルルファさんは追いついて、片手で胴体である弓を握り潰す。そうすれば弓は折れて、その中の意思は消え去った。


「る、ルルファさん……大丈夫ですか……?」

「矢も当たっていませんし、大丈夫です。それより魔王様にお怪我は」


 屋根から降り立ったルルファさんが、魔王の具合を伺えば「ん?何かあったのか?」と先程の出来事が無かった事の様に側近に問うた。

 とぼけている、といった様子も無いので本気で気づいて無いのだろう。それを聞いてルルファさんは安心した様子で頷いた。


「もう少しでクピードーの矢が魔王様に当たる所だったんですよ!」


 少し呆れ加減で魔王に言えば、そうか。で一言で済まされた。そして私に「また笑ってくれ」と頼んできた。話を聞いてるのか……。


 連れてきた張本人であるはずの、彼女まおうが何故狙われたのか。『魔族』に仕える『魔物』じゃなかったのか。

 ルルファさんの推測では、あの魔物は『特異なもの』かもしれないらしい。つまり人で言う変わり者みたいな。

 さっきのクピードーは人を見つけて矢を放つのでなく、魔族を見つけて打ってきた。ただそれだけらしい。


 ただそれだけで魔王が狙われたのか。

 それでも魔族の二人は割とあっけらかんとしてて、たまにあることだと私に笑って話した。


 クピードーの残骸は周囲にいた騎士が回収していく。優秀な材料になるらしい。

 変わりものなんだって、と一言告げると回収する手付きが凄く丁寧になっていた。現金だな。



 ◆



 ふと気がつくと夕焼けに染まった空が見えた。先程の魔王の顔みたく真っ赤である。


「良い空だな。――そろそろ我らは帰ろうか」

「そうですね魔王様。口説くのも焦りは禁物です」

「うむ」

「いや本人の前でそんな……それに私は女性は恋愛対象じゃ――」


 あ、しまった。さっきの騒動で少し気が抜けて、口が滑った。

 途端に私は青ざめる。


 まずい、怒らせてしまう。魔王の気持ちを知っていながら応えられない事を、私が言ってしまったー!!


「大丈夫だぞフェーデ。あれを見てごらん」


 焦っている私を、魔王が少し手を引いて歩かせる。


 引き寄せられるまま付いてくと、歩いた先に女性同士が物陰で口付けを交わしていた。


 え。


 また魔王に連れられ歩けば、今度は男性同士が抱きしめあっていた。艶かしく後ろに回ってる手が体をなぞっていて――。


 ちょ。


 また連れられて、今度は男の人が幼女を必死に口説いていた。、幼女の母親らしき人が騎士を呼んで、男は連れ去られていた。


 これは事案。


「どうだ?」

「何がです?」

「同性でもありふれた恋愛は出来るのだぞ?」

「えーっと……」

「どんな相手だろうとおくする事はない。私が魔族であろうと同性であろうと、存分に恋するがいい!」


 盛大に胸を張り片手は腰に、もう片手は胸に置いて、何か期待する笑みで魔王は私を見つめていた。


 ……どうやら私が魔王を好きにならないのは、種族や同性である事が障害だと、彼女の中で結論付けていたようだった。

 いや……種族とかは、まあ分からんこともない。私がルルファさんを好きだと思う事で異種族なのを悩んだ時もある。


 だが、同性なのって……それは別問題だろう。

 偏見を持ってるつもりはないけど、私は同性愛者ではないのだ。普通に男の人に恋をする、いたって普通ノーマルだ。


 魔族でいう『特異なもの』みたいな変わりもので、そういう性愛を持つ人は確かに街の何処かに誰かしらはいると思うけど、私は当てはまらない。

 彼女が私を恋愛として好きなのは分かっているが、それに応えることは決して無い。


「……魔王様、私にどんなに同性の愛を説かれても私自身にその気はありません。先程言った通り女性は恋愛対象に、で、できません……」

「フェーデ……」


 視線を彷徨いつつ魔王を覗き見れば、期待した顔から一変、泣きそうな顔になっている。

 逆上して街を壊されるかも知れない、内心凄く緊張して話したが、魔王が今にも地面に崩れ落ちそうである。


 追い打ちとして好きな人が居るとか言ったらどうなるんだろう……。


「フェーデ様は、誰か想い人が居るのですか?」

「えっ」


 目立たない様に側に居たルルファさんに、まさに思案していた質問をされる。


 これは言っていいのか?大丈夫?暴れたりしない?

 言うか言わないか頭の中で深く悩む。


 ああもう、私の一言で魔族の行動が左右されるって酷くプレッシャーでお腹が痛い……。


 ルルファさんが「本当の事を仰って下さい。それが不都合でも街に何もしませんから」と言ってくれなかったら、私は決心できず黙り込んでいただろう。


「えっと……はい。好きな人、います」

「私か!?」

「魔王様、私の話聞いてましたよね!?違います」

「うぐぐぐぐ……」


 魔王が苦いものを口に入れたような顔で、涙目のまま悔しげに私を見つめた。

 ルルファさんは私の答えに考え込み、さらに質問を重ねる。


「どなたであるか伺っても?」

「そっ!それは……ちょっと」


 どこの世界に好きな人から、自分の好きな人を聞かれて、正直に答えられる女子がいるのか!

 それにこの反応だとルルファさんに脈はなさそうだなあ……。それも悲しい。


「そいつ殺したら、フェーデは私を好きになる?」

「物騒なこと言わないで下さい!!そんなことしたら嫌いになりますよ」

「……それも困るが、側に居れないのはもっと嫌だ――」


 私の腕を、魔王の手が縋るようにつかむ。

 魔族で魔王ということを除けば、今この姿は親から離れたくない子供の様に見える。


「魔王様。私は魔王様の恋人にはなれません。でもそれで側に居れないと言うのは少し違います」

「……違う?」

「私は魔王様とは既に『友人』だと思ってます。一緒に居ると楽しいですし、多少困惑することもありましたけど、いい関係を築けていると、身勝手ながらに思ってます」

「友人……」

「『友人』なら私は喜んで魔王様の側に居ます。私だってせっかく出来た『友人』と一緒にいたいですから」


 出来るだけ優しい声と表情で魔王に話しかけ、側に居れないと嘆く魔王に、違う選択肢を示す。

 これなら私だって悩むことなく、魔王と向き合えるいい関係が続けられる―――。



「それで城に来てくれるのか?」



 近くで見る赤い目が、私の視線を外すことを許さない。

 夕焼けなど、この赤に対しては色褪せたものに見えるだろう。


「し、ろ」

「私の住む城だよフェーデ。私の側にいるなら城で暮らすのだ。ちゃんとフェーデの部屋も用意してあるんだぞ?」


 詰め入る様に、魔王の雰囲気に圧力が増す。先程小さな子供だったのが、今はもう『魔王』だ。


「今のような、関係では、駄目、なんですか?」

「会えない時間があるような今ではダメだ。それに魔族はこちらの領域では長くは生きられぬ。フェーデが我が城に来るのが一番いいのだ。……私は片時もそなたと離れたくない……」


 掴んだままの腕を自分に寄せて、私の手を取り口付けをする。

 魔王が私に執着する様を、身近で私自身に示している。望んでほしい。言って欲しい。魔王が望む答えを。


 ………威圧に、屈するわけにはいかない。

 魔王と側にいるということが、魔王の城に行くことなら、私にはもう譲歩は出来ない。


「わ、私は、城には、行けません……」

「『友人』では一緒にいれると言っていたが」

「友人って、だけで、魔王様の城で暮らすのは、無理、です……。」


 魔王の手の力が静かに強まっていく。


 い、痛い……。掴まれた腕を魔王から離したい。でもその剛力に、女子である私が敵うはずがない。

 徐々に軋む痛みに、少し泣きそうになる。


「魔王様、フェーデ様が痛がっておいでですよ」

「……えっ、あ! すっすまぬフェーデ!すまぬ…すまない……」


 ルルファさんの指摘で、私の具合に気づいた魔王が、必死で謝り腕を離してくれた。

 やっと解放された片腕を、もう掴まれないよう胸に置いて魔王から遠ざけた。


 魔王の全身から、淀んだ空気がただよう。

 もうこの世の終わり位の落ち込みようだ。若干涙目だろうか。いやもう私が泣きたい気分ですけど……。


「魔王様、何落ち込んでるんですか。フェーデ様から『友人』と認められたのですよ?嬉しくないのですか?」

「何を言っているルルファ。『友人』では城には来てくれぬとフェーデは言ったぞ」

「それはそうです。友人と恋人は違うと教えられましたでしょう。」

「それは分かっている。何が言いたい」

「……最初の頃に比べて、ようやく『友人』まできたのです、魔王様」


 魔王が何かに気付き、見張った顔でルルファさんを見た。それを微笑んでルルファさんは頷く。


 最初の頃って……求婚してきたあの頃かな?

 突然勤め先の領主の城にやってきて、私に逢うまで魔王を捕まえようとしてた騎士をなぎ倒してたんだよな。

 会ったら告白されるし、家まで押しかけて父に嫁取り宣言するし、怒涛の展開に何コイツって思っていた。


 あの頃に比べたら、確かに魔王が友人になるだなんて想像もしてなかった。

 魔王領との交流が街の利益になるからと、領主の命が無ければ関わる事も避けていただろう。


 当時は一種の人身御供ひとみごくうだと思って魔族の相手をしてたから、嫌な思いもしたけど繋がりが私だけなので仕方ない。


「そうだな……『友人』まできたのだ。『恋人』まであと少しだな!」

「はい。焦りは禁物、ですよ魔王様」

「うむ!!」

「えっ」


 ちょっと今、聞き捨てならない事を聞いたような。

 恋人までもう少し? 何を言っている、そもそも同性は恋愛対象じゃないって言ったじゃないか。


「あのちょっと―――」


 うわあああああああ!! きゃああああ!! なんで触ってんの!? ちょっ言い寄ったのそっちだろ!!


 訂正しようと二人に話しかけようとした時、通りの奥から様々な驚愕と悲鳴が聞こえる。


 驚いて声がした方向を見れば、先程の恋人同士だったはずの人たちが、言い争いをしている。

 耳を遠くにすませば、他の所でも同様に起きているみたいで声を拾えた。


「ああ、クピードーの矢の効力が切れ始めたようですね」

「愛す愛されるというのはいいものだ。フェーデに恋愛にしがらみを感じる必要はないと理解させたくて連れてきていたが、人間たちも楽しんでる様でも嬉しい」


 魔族二人は満足げに頷いて、この状況をほほえましく感じてるようだ。


 クピードー達の矢が当たってしまった人は、どんな相手でも恋愛感情を抱いて、相手に執着する。

 効果が短時間であるのが唯一の救いだが、切れる時は同じ頃に切れるため、各地でこのような叫び声が聞こえてくるのだ。


 魔王に魔物を連れてこさせる事を止めさせれば、こんな騒ぎにならないのに。


「……というか、私にしがらみ感じなくさせる為にって言いましたか。」

「ん?そうだぞ。これでフェーデが色んな愛を知れば、私にも目を向けてくれると思ってな」

「もういいです。もう沢山知りましたので、もう連れてこなくて大丈夫です」

「そうか?」

「そうです。もう『友人』ですから」


 私はありったけの笑みを、魔王に向けた。それを見て照れて彼女の顔が赤くなる。

「そ、そうか~」と言いながら、「じゃあもうクピードーはいらないな」という魔王の発言を聞き逃さず、私は内心でガッツポーズした。

 私の為ってそういうことだったのかと、小さくため息をつく。


「では帰りますか? 魔王様。」

「うむ!今日はフェーデに贈り物もできたし『友人』にもなれたから大満足だ!」

「左様で。フェーデ様、今日はお付き合い頂きありがとうこざいました」

「またフェーデをトリコにする方法を学んで、振り向かせてやるからな!」


 ルルファさんのお辞儀と、魔王は満面の笑顔。


 彼らの帰りを拒む気はさらさらない。

 ルルファさんにまた会えなくなるのは少し寂しいが、魔族がこの街に居るだけで厳戒態勢になってるのだ、あまり引き止めるのは自分達の疲労が増すだけだろう。引き止めたら絶対延長するだろうし。


 私は改めて贈り物のお礼を伝え、別れを告げる。

 告げると共に、彼らは瞬時に目の前から消え、余波で辺りに風が舞った。



 ◆



 あー今日も乗り切ったかー。


 魔族と居たプレッシャーから解放され、疲れた表情を全面に出す。

 見守ってくれた騎士達に、お疲れ様でしたと一言。「次回はもしかしたらクピードーは来ないかも」と告げて、私は早々に帰路についた。


 家の門の柵を越えて、両開きの扉を開けば、玄関ホールに二階に続く階段と、一階の廊下が見える。

 私の部屋は二階なので、階段に向かおうとすると、二階から弟が下りてきた。


「フェーデ姉様おかえり!」

「ただいまトゥーロフ。なんだかご機嫌ね」

「だって姉様、街の騒ぎは魔王様が来たからなんでしょ? 会える?会える?」

「もう帰ったわよ。私は少し疲れたから、夕食まで部屋で休ませてね」

「ご飯の時聞かせてね! 絶対だよ!」


 少し興奮した様子で、弟は私にそう約束させた。


 弟は、家で私と居た魔王に会い、その時に見惚れた様で凄く魔王を気に入っている。

 親が魔族に近づいては駄目と言い含めているが、特に効果がない。


 魔王は外見は誰もが認める美貌だからな。男のトゥーロフが惚れても仕方ないのかもしれない。

 だがお前は家の嫡男ちゃくなんだろう! あの魔王はどうやっても無理だ。


 弟に見送られ、階段を登り自分の部屋へと向かう。自室の扉を閉めれば、張り詰めた自分の緊張が完全に解ける。

 扉に背中を預けて足の力を抜けば、はしたないが床に座り込む。

 一人になれば、今日のことが思い返される。


 どうしてあの魔王は、私のことが好きなんだろう―――。


 女性であるがゆえに愛せない事を、結局曖昧にされた。

 好きな人を言っておけばよかったのか。それは私が死ぬかもしれない。


 もう彼らは、私が何を言っても諦めない気がする。どんなに諦めて欲しいと諭しても、結局は諦めてはくれないのだ。

 それこそ私が恋人でも作らない限り。


 ……魔王が来た日は、堂々巡りな思考になる。

 とりあえず今日貰った櫛を、しまっておこうか。


 立ち上がって、化粧台の上に袋の中身を取り出す。

 

 ……ん?

 出てきたのは、私の選んだ櫛と、魔王が選んでいた髪飾り。

 髪飾りの方は豪華な装飾なので、保護するためのケースにしまわれている。


 ま、魔王め……これは要らないと言ったじゃないか……。


 使うか分からない豪華な髪飾りは、私が選んだ櫛をみすぼらしいと主張するかの様に、魔王の金髪みたいに輝いていた。




 おわり

簡単登場人物。

主人公フェーデ・オルゴー。子爵の長女。

魔王の側近がすき。お茶淹れるの上手い。

その弟トゥーロフ・オルゴー。子爵の嫡男。

魔王だいすき。凄く会いたい。


主人公の主人モールビット・ヴェッキオード。

領主の妻。お菓子だいすき。


魔王ディペンデルーナ。魔族の一番。

主人公超好き。ちゅっちゅしたい。

魔王の側近ルルファ。一番のお世話係。

魔王である娘が好き。色んな顔させたい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ