契約前の重要事項説明
『悪魔がなぜ人間と契約したがるのか?』
悪魔の住む世界、いわゆる魔界はとんでもなく荒廃した土地であり、快適に暮らすためにそこを整備する労働力が欲しい。しかし、悪魔の数は少なく必死で耕した土地もすぐに枯れてしまう。
そこで、労働力として人間を確保する。少子化の日本が外国人労働者を呼び込むようなものらしい。
『契約するとどうなるか?』
悪魔はそれぞれの能力を使い、契約した人間を幸せにする。
その人間が幸せに暮らした年数分、死んだ後に魔界で働いてもらう。
『死後、永遠に働かせられるんじゃないか?』
悪魔に寿命はないので、昔はそういった契約もあった。しかし、そうすると神的な存在とのもめ事に発展することが多い。また、魔界では人間愛護団体といったものもあり、面倒くさい妨害を受けるので、近年は基本的に対等な契約を結び、ホワイト企業よろしくな条件で働かせている。
『どんな労働を?』
基本的には、荒れ地の整備だから肉体労働。ただし、体力のない人間にも軽くこなせる程度。
能力があれば、技術職も可能。
『魔界での労働が終わったら?』
天国へ行くもよし、地上に戻って幽霊をするもよし、魔界が気に入ればそのまま暮らし続けることも可能。
「と、まあこんなところです。」
悪魔のおっさんは、つらつらと僕が疑問に思いそうな箇所を簡単に話した。
「じゃあそれで契約します。」
「…契約しに来た私が言うのもなんですが、もう少し警戒とかしないんですか?」
言われてみれば、きれいなお姉さんから謎の洗剤を買わされた時も、あっさり契約して失敗した気がする。
「まあ、私としては契約さえできればいいので。それに、どちらにせよ、あなたは勝手に失敗して作った借金でどうしようもないでしょう。返済する能力も自殺する勇気もないでしょう?」
少しムッとしたが、まあその通りだと思い、悪魔のおっさんの契約書にサインをする。
「契約成立ですね。」
悪魔のおっさんは、満足げに微笑む。
「約束は守りますので安心してください。あなたを幸せにしてみせます。」
これが美少女からのセリフなら、天にも昇る気持ちになっただろう。しかし、相手は色白小太りのおっさんである。
「大悪魔と契約できたんですからもう少し嬉しそうな顔してくださいよ。」
…大悪魔。そう、普通の悪魔ではなく大悪魔である。しかも、先を見通す能力付きの。
そんな大悪魔さまが、労働力として僕を?
きっと、僕にはまだ気づかない隠れたとんでもない才能があって、それに目をつけたのだろう。
「何をニヤけてるんですか?ちょっと気持ち悪いですよ。」
失礼な発言だが気にしてはいけない。
「大悪魔のあなたが、僕をわざわざ選んだってことは、僕には…その…」
期待する目付きで悪魔のおっさんに答えを促す。
「あぁ!なるほど!」
悪魔のおっさんは納得して手を叩いた。
「安心してください。」
にっこりと微笑み
「あなたは、紛れもなく!」
バッと手を広げ、高らかに宣言する。
「ポンコツ駄目人間ですよ!」
恥ずかしさのあまり、僕は泣きながら悪魔のおっさんに殴りかかった。