僕の地獄の黙示録
仕事の遅れから上司に叱り飛ばされ、終電に間に合わない時間まで残業したところで、施錠に来た守衛さんに迷惑そうに職場から追い出された。
仕方なくネットカフェで休もうと、鞄を開いたところで、会社の引き出しに財布を入れたままだったことを思い出した。
途方にくれて、公園のベンチに座り地面を見つめてため息をついていると、ふわりと隣に誰かが座る気配がした。
ちらりとそちらに目をやると、月の明かりで照らされた、透き通るように白い手が見えた。
そのまま、ゆっくりと視線を上げると、隣に座った人はじっとこちらを見つめており、目が合ったところでにっこりと柔らかく微笑んだ。
親しげに隣に座ってきた人の顔を、記憶の中の人間に片っ端から照合しながら、僕はとりあえず声をかけてみた。
「ど、どうも」
「はじめまして」
どうやら知り合いではなかったその人はそのままこう続けた。
「わたしと契約して幸せになりませんか?」
柔らかい物腰、落ち着いた口調で話しかけてきた相手は
息を飲むような美女でも、透き通るような美少女でもなく
肌の白い小太りのおっさんだった。