3-9 お話ししてみます
2日たったがジードは帰ってこなかった。
何の連絡もよこさないとはどういうことなの。こっちの小言は聞きやしないだろうから、ローズ姐さんに協力してもらって反省してもらわなきゃ。
リースは意外にも奴隷業者探しを再開せず、文字を教えてくれていた。村の子供達に教え慣れているのだろうけど、口調まで子供をあやしているかのような感じなのは勘弁して欲しい、何かに目覚めてしまいそうなので。
こちらの文字は英語のアルファベットに似ていて覚えやすく助かった。
書き順は無いのかと聞いてみたがのだが、うまく伝わらなかった。
たまにある事なので気にしていなかったのだが、文字数が30しかない事が判明し色々分かってきた。
薄々感じていたが、こちらの話す日本語は通じているが、リース達は日本語で話していないのではないか。どうせあいつの不思議なちからが働いているのだろう、深くは考えるだけ無駄と割り切ろう。
リースは単語学習用にと中古本を渡してきて、どこかへ出かけて行った。本はかなり擦り切れており年季が入っているのが伺える。
お留守番役なので勉強を頑張ろうと地面に文字を書いてるけど、学生の頃の勉強とは違って楽しいものだな。
少し暗くなったかななどと感じ、手を止めて体を起こしぐいっと伸びをしてみる。ちょっと頑張りすぎたのか肩がパンパンである。
陽が落ちつつあったので部屋に戻ってみるも誰もいない。
ある程度予想出来てはいたけど、リースさんはやらかしてくれるものだ。外出は買い物などではなく奴隷業者探しの強行であろう。
二日間大人しかったのは、ポーズなり理由があるのだろうけども。ジードは待つのが得策だろうけどリースはダメだ、ここで待っているのは良くない。
店を閉めてしまわれると困る、ちょっと急ごう。
「――という訳なんです。何かあったという状況では無いのですが、お話し頂けませんか?」
「そうねえ、でも貴方みたいな子供が探して回るのもどうかと思うのだけど。」
「そのご心配はごもっともですが――」
ここはリースと来た雑貨屋さん、店は閉まっておらず間に合ったのだが。やはり話しは簡単に聞けそうにない。
「――という訳よ、悪いけれど他をあたってちょうだい。」
「分かりました、これ以上はご迷惑なようなので引き上げます。あーこれはちなみになんですが、これから騎士団の知り合いのところに相談に行くことにしますね。」
「え、なんですって?」
「アルスさんは確か隊長をされているそうですよ。リースの行方についてはこちらのお店の方が情報を持っているはずなんですがと、報告せざるを得ませんが。」
「騎士団の隊長さん…。」
「そうすると恐らくお店に騎士団の方と出向くことになるかと思うんですが、朝は早くから営業されてます?」
「…ふん、騎士団に知り合いがいるのがどうだってのよ。」
う~ん、これは意地にさせてしまったかな。さてさて。
「いえいえ、単に予定をお伝えしているだけですよ。綺麗な小瓶を沢山置いてある、素敵な雑貨屋さんだと紹介しますってね。」
さっきまでの引きつり気味の営業スマイルが消えていく。
小瓶については憶測が多めの博打なのだが…さて。
敵意を向けられている感じはしないけど、能面のように表情が無く怯みそうになる。
「あらそう、ではもう店じまいなので出て行ってくれるかしら。片付けないといけない商品がありますので。」
「それは大変ですね、お手伝いいたしましょうか?どうやら手癖の悪い仲間が、とある商品をこっそり持ち帰っているみたいなのでお詫びをしないといけないと思っておりましたし。」
「……それは脅しでもしているつもりなのかしら」
「う~ん、さてそれは誰が誰に対して、何の件について脅しをかけているとおっしゃっているのですかね?私はただの子供なのでよく分かりませんね。」
「……はぁ~。わかったわよ、話せばいいんでしょ全くもう。」
ようやくリースを助けたいという、私の純粋な思いが伝わったようです、はい。
手癖の件はハッタリだったのでヒヤヒヤしましたが。
お店についてはお婆の紹介があったようだ。定員さんの少し愚痴っぽい感じの話を要約するとこうである。
・奴隷を扱う店はいくつかあるが、正規な店かどうか誰も気にしていないし知らない。
・ただし紹介が無いと入れない店がある、とは聞いたことがある。
・紹介できる人物は知らないが、伝手がありそうな情報屋をリースに教えた。
・ちゃんと教えてあげたんだから、騎士団のみんなにはナイショだよ!
さ~て、リースさんを捕まえて、キツイお仕置きしてあげないとですね。