1-3 寄り合いがあるようです
リースに手を引かれて着いた先は、大きな丸太でできた門があり、壁に装飾がされている家だった。
平屋ではあるが、周りに比べるとかなり大きい。それなのに、人が入りきれずに表の庭にも人々が身を寄せ合っている。
もうゴブリン達は村の中にいないと、リースが声を掛けたんだが、日が落ちようとしているのに家に帰ろうとする素振りが無い。
リースは人をかき分けて家の中に入ってしまった。
よそ者のこちらにちらちらと視線は感じるが、少し離れたところで待つしかなかった。
「邪魔だ!」
隅っこの方に居たはずなのに、後ろからぶつかられた。
「ゴブリン共は俺様が倒してやったぞ!ほら!」
ぶつかってきたそいつは、ゴブリンだった物を手に掲げて声を荒らげている。よく見ると腰から下が無い。何と無くだが切り口に見覚えがあるが、きっと気のせいだな!
後ろに付いて来ていた取り巻きらしき二人が喝采をあげるも、村人らは見向きもしない。さっき、リースと二人で倒したと説明した後だし仕方ないか。
しかしこの青年、言動はあれだが他の村人に比べて体格は良いな。元気だけはありそうだから、ゴブリンくらいなら倒せそうだが。
村人の反応が悪いのが気に入らないようで、獲物はその場に捨てると、村長らしき家に押し入るように入っていった。
「ケント、ちょっと来て!」
入れ替わるように出てきたリースが呼んでいる。
行きたくない気持ちを抑えて、座り込んでいる村人に何度も謝りつつ入って行った。
玄関を抜けると、部屋中の視線がこちらに集まる。
リースは奥に進んでいるので付いて行くと、奥の部屋にベットらしき物の上で眠っている老人がいる。その周りを、泣き腫らした数人が囲んでいる状況で理解した。村長さんは死んだのだと。
祖母が病院で亡くなった時の事を思い出していた。
医師の先生が何かを呟いた。
看護師の方が、音の鳴っていた装置の電源源を落とし、一礼し部屋を出て行った。
親族の叔父などが泣いていたが、状況が飲み込めず呆然とした。
リースに再び手を引かれた。
隣の家に移動しただけだったが、部屋の中心には囲炉裏があり、周りを囲むように数人が座っていた。この世界の上座下座は分からないが、何となく入口近くの隅っこに座った。
「すぐ次の襲撃に備えるべきだわ!」
リースが静寂を破り声を発すると。
「ゴブリン共は撃退できた、備えなど必要ない!」
「いやまずは亡くなった者の葬儀をだな!」
「備蓄よ!村にある食料を一箇所に集めましょう!」
「何を言っておる!そんな事より壊れた家を修繕してくれないと!」
鬱憤でも溜まっているのか、しばらく止まらなかった。
突然訪れた静寂、みな下を向き項垂れている。
「村長を決める必要があるな」
まともな事を言う奴もいるじゃないかと、声の主に視線を向けたが、どうやら当ては外れたようだ。そこには先ほどの青年が座っていたのである。
「決めると言っても当然俺が村長だろうがな!」
こいつは何を言っているのだろうか?ここにはさっきの取り巻きはいない、随分と威勢がいいんだなあ。などと呑気に見ていたのだが。
「駄目よウィルム。いくら村長の子孫で男があなただけでもそれは認めないわよ!」
初めの発言から黙っていたリースが立ち上がった。そうかウィルムと呼ばれたあいつは、村長の子孫か。
息子にしては若いから孫なのかな?世襲制な世界なようだ、こうやって能力の無い者が上に立ち世界は衰退していくのかあ。
「じゃあ誰が村を治めるというのだ。他に任せられる者などおるまい。まさか自分がなどと冗談は言うまいな?」
「そこまで世間知らずではないわよ。でも村長に相応しい人物なら連れてきているわ、ケントよ」
リースが指差す人物に皆の視線が集まる。というか俺だった。
「うぇあひぃ?」
「なんだこいつは、まだ子供じゃないか話にならん」
子供?お前のほうがよっぽど子供だろうと思ったが、リースに同じ年に見えると言われたのを思い出す。若返りは確定なのだろうか。
「そう?でもゴブリンを倒して村を救ったのは彼よ?あなたは見かけなかったけど、何処で何をしていたのかしらね?」
「うるさいそんな事は関係無い!俺が村長になってやると言っているんだ、大人しく従っておけ!そうすればお前を嫁にしてやってもいいんだぞ!」
「嫁にしてやる?この前も誘いを断ったのを忘れちゃったのかしら?」
「うるさいうるさい!そんなガキに村長が務まるものか!ゴブリンを倒した?どうせ倒れていたゴブリンを刺して、自分の手柄だとホラを吹いたんだろうよ!」
あらら、この人言ってはならない事を。
「ケントは私を救ってくれたわ!武器なんて持ってもいないのによ、見ず知らずの私を村を救ってくれたのはケントなのよ!」
リースさん?いつの間にか村を救った事になってますよ。
「ようし分かった、そこまで言うのであらば決闘だ!木剣とかじゃあないからな」
「分かったわ、その決闘受けるわよ。あなたなんかよりケントが村長になるべき男だし、ケントならば喜んで妻になるわ」
「自ら自分をかけるとはいい心掛けだ、そのガキに勝ってお前を妻にするからな」
俺は奇声を一度上げただけなんだけど、どうしてこうなった。