3-1 村に戻ってきました
今回から第三章となります。
ありきたりな展開ばかりかとは思いますが、
お気軽にお読みいただければ幸いです。
ご意見、感想などをお待ちしております。
「スピネル君、君には期待しているんだよ。君と私との心の距離が近くなり、『親和性』すらも超える事が出来るはずとね。そうきっと私たちならば出来ると確信している」
――。
「……あーいやね、ちょっとだけだよ。もうちょっとボクに関心を向けてもらってだね、ボクの希望している事柄について一緒に考えてもらいたいなーとね」
――。
「ああああ、違うのよ。あなたを責めようだなんてつもりは全く無いのよ。……下賎な私めの言葉をお聞きいただいている今こそ至高の瞬間であります」
魔法石の反応が薄すぎる。
ゴブリンどもの戦い後も、魔法の練習を続けているけど、成長が止まってしまったかのように変化が無い。今は小さな炎を出して、コントロールする練習くらいしか出来ていない。
まだ日は高いが、小川を去り村へ戻る。
壊れていた村の家々も、すっかり修復が終わっている。
畑仕事をしていた村人が、こちらに気がつき軽く会釈している。手でも振ってくれたほうが気楽で嬉しいのだけど、村の危機を救った人物ということで、英雄視でもされているのか距離を感じてしまう。
「おい、にーちゃん!罠に反応が無くってヒマだぜ。なんかすること他にねーのかよ」
鼻垂れのブライが話しかけてきた。今日はまだ片側しか鼻が垂れて無いのな。
「ヒマとか言うんじゃねーよ。手を抜いて巡回をサボったりするなよ、罠は必ず見て回るんだ。する事無いなら、ジードに勝てるように頑張るんだな」
「ちぇー、わかったよ。でも、ジードは強すぎっからにーちゃんくらいを目標にすんぜ」
「くらいとか生意気言うな。10年はえーぜ」
頭をつかみぐりぐりしてやる。まだまだガキんちょだが将来には期待したい。
村長の家に着くと、リースもこちらへ向かってきていた。
「今日も薬草を取りに行ってたのかい。どうだった?」
「ええ、薬草の見分け方も上手くなったのよ。レイラに筋がいいかもって褒められちゃったんだから」
褒められたと語るが、リースの表情は笑顔などではない。
中に入り、いつもの様に奥の部屋へ向かう。
「やあレイラ、薬草いっぱいとれたわよ。欲しいって言ってた小さな白い葉ってこれでよかったかしら」
「いつもありがとうおねえちゃん。そう、このリンドの葉が欲しかったんです。これで新しい調合が試せます」
レイラは薬草を受け取り、嬉しそうに仕分けしている。しかしその笑顔は、張り付いて固まっているようでもある。
リースはこの部屋のもう一人の人物にも話しかけている。どうやら薬草を見つけたときの話しを聞かせているようだ。
彼女の名前はマイア。レイラとはとても仲良しで、いつも一緒だったそうだ。
苦い野菜は嫌い。いつも村を走り回っていて、いたずらをしては大人に見つかり、大きたんこぶを作っていた元気な子だったそうだ。
今は横たわり、その瞳は閉じられている。村まで帰りついたが、ずっと目が覚めないままなのだ。
レイラの必死の看病で、膿んでいた傷は治りつつあるが、顔色は青白いままで体中の痣も治りが遅いのである。
これは、こん睡状態というものなのだろうか。医学知識など無いので助言のしようも無いが、正直薬草をいくら調合してもマイアが回復するのは難しいと思ってしまう。
しかし、この世界には魔法がある。今まで意識していなかったが、所謂ところの回復魔法があれば、レイラを助けることが出来るのではないか。
最近は時間さえあれば魔法の練習を行ったり、魔法石に話しかけたりばかりしているが、前途のとおり変化は無い。
呪文を唱えてみたり、思いつく限りの回復魔法名を叫んでみたが、発動する気配など全く無い。
『まほうつかい』の加護を贈ったと、あいつは言っていたが、性能が悪すぎるのではないか。もうちょっと問い詰めて詳しい話しを聞いておくんだったな。
ここは村をまかせて、魔法使いを探しに行くべきだろうと考えていた――。
「ちょっとじゃまするぜ」
めずらしくジードがマイアの部屋まで入ってきた。何も言わずマイアの顔をみつめている。
「傷が前より良くなったみてーだな」
口には出さないが、良くない状態だと感じているのだろう。
「ちょっと報告なんだが。あいつから手紙の返事が届いたんだ」
「手紙?なんの事だっけ。ああ、ラブレターの返事でも来たのかい?」
「……。そういえば、おめーさんは眠ってて話してなかったか。帝都に送っていた手紙の事さ。盗賊どもについて、話が聞けそうだぜ」
軽い冗談なんだから、反応くらいしてくれてもいいのに。ねえ。