2-13 応戦します
新しい横穴から出てきたゴブリンは、ジードとリースが直ぐ対応してくれている。いつの間にか、うまく連携しているようにすら見える。
ゴブリンどもは煙を吸い込み、かなり弱っているのであろう。足取りはおぼつかない。慌てて飛び出したのか、武器など持っていないのが大多数だ。
警備隊には周囲を警戒してらっている。しかし新たな横穴が出来たらさすがに撤退すべきだろうか。
いやそれは駄目だ。撤退について打ち合わせていない訳ではないが、村での戦闘は避けなければいけない。ここで食い止めるんだ。
出てくるゴブリンの勢いが途絶えた、これで終わりかな?などと考えていた。
ウガアアアアア
叫び声が中から響いて来た。出口を塞いでいた木材などを跳ねのけ、ゴブリンが飛び出てきたのである。
いや少し違う、ちょっと大きさが違いすぎる。倒れているゴブリンは子供ぐらいが殆どで、でかくても俺と同じくらいなのだ。
「まずい、やはりゴブリンキングがいやがったぜ」
ジードが迷わずゴブリンキングへ向かっていく。単独ではさすがにまずいだろう、サポートしないと。
「横に回りこむから、合図したら離れ――」
武器を持つ手と反対側に回り込むと、何かを手に持ち引きずっている事に気が付く。
ボロボロのそれは薄汚れており、武器には見えなかった。
回りこもうとした俺に気が付いたのか、手に持ったそれを振り回し投げてきた。少し呆けていた俺はぶつかり倒れた。
「ちょっと何してるのよ!」
リースが駆け寄り、俺の手を引こうとしたところで固まった。
「え、うそ……」
あいつが投げてきたそれは、温かさのある人間。ぼさぼさの長い髪に、体つきから女の子のようであった。
気が付いたときには、反射的に飛びのいてしまった。
「リース!」
声をかけると、硬直が解けたのだろう、女の子を恐る恐るではあるが確認し始める。
体温もあったし、うっすら肩も揺れている。ただ、あちこちの切り傷から血が滲んでおり、大きな痣が目に入る。
生きてはいるのだろうが、煙はかなり吸い込んだよな……。
ゴブリンキングはジード達が相手をしてくれているが、有効打は与えれていないようだ。
とり囲むようにはしているが、あまり攻め込んでも無い。
「うわあああん」
ぼさぼさの髪を掻き分け、腫れ上がった顔を見たリースが、女の子を抱きしめ泣き出してしまった。
ひょっとして知り合い?村の女の子なのだろうか。いや、いつまでもこのままはまずい。
「リース!リースごめん!」
泣いている顔をはたき、こっちをむかせる。
「リース、逃げるんだ。村へ帰れるね?」
リースは一瞬考えたようだが、うなずいてくれた。
俺が女の子を担げればいいのだが、体力が無さ過ぎて駄目だ。
「ウィルム!撤退する、手伝ってくれ」
取り巻き二人にリースの護衛を任せる。リースが女の子を背負い撤退していく。
ウィルムは残ってくれた、槍を構えゴブリンキングへ向かっていく。
地面を見つめ、ゆっくり歩を進める。
俺はまだ甘かったのであろう。
村ではゴブリンをこの手で殺した。盗賊どもも焼き殺したし、あげくには切られ自らが死にかけもした。
殺し合いをやってきた、地球に住んでいた時には考えられない事だ。だがそれは生き残るために仕方がないと、割り切れたからだ。
村の襲撃からどれだけ経った。あの体の傷跡は何だ、あの女の子に何をした。
あの女の子は、知り合いではない。名前も知らない。笑顔はどんなかも、食べ物は何が好きか分かりもしない。でも――。
まだ死んでいないのかもしれない。レイラに薬草をいっぱい塗ってもらい、看病してもらえればもしかしたら――。
顔を上げる。
やつを視界に捉える。
力を込めて、魔法石を握り締めた。
「お前は絶対に許さない!泣いてあの子に詫びを入れさせる!」




