1-2:反撃してみます
うん、あいつには文句を言うだけじゃ足りないな、一発ぶん殴ってやらないと気が収まらなそうだ。
あれ?体は動かないが、頭は冷静になって来たぞ。
冷静になり、改めて周りを囲む連中を観察する。
武器を持ってはいるが剣は数体だけで、それ以外が持っているのは棍棒だろうか。
濃い緑色の肌がちと気持ち悪いが、子供くらいの体躯で小さいし腕も細い。
虚空を見上げている奴も多く、こちらに気が付いている様子も無い。
立ち尽くしているようにも見え、ひとしきり暴れて、もう動けないんじゃないだろうかと感じられる。
「ねえあんた……動けるなら走って逃げなさい……こいつら足は遅いから」
ふと声をかけられ横を見ると、さっきまでうずくまっていた子供は女の子だと気が付く。今は剣を支えに、立ち上がろうとしている。
「いや、逃げようにも膝が震えてしまって動けな…あれ?動けるな」
「何をブツブツ言ってるの、見ない顔ね。何の用事で村にいるのか知らないけど、ここで死なれちゃ夢見が悪いわ」
「来たくて来た訳じゃあ無いんだけどなあ。それより、こいつらなんで攻めて来ないんだと思う?」
「知らないわよ、でもおかげでちょっと休めたわ」
「逃げるのは下策な気がするんだが、あいつらって何なんだ?戦ったとして倒せるのか?」
「何トボけたこと言ってるのよゴブリンでしょ!戦って倒せないこともないけど、この数だから苦戦しているのよ」
「そうか、じゃあ逃げるのは無しだな」
手持ちの武器は何も無い為、近くに積まれている木材を手に取ってみる。
「まさかそれで戦うつもりじゃ無いわよね?」
「何も無いよりはマシじゃあないか?素手で戦うとか無理だし」
「仕方ないわね、貸すだけよ」
そう言って、ナイフの様な武器を差し出してくる。
「ありがとう」
「気にしないで、でも礼を言うのはここを乗り切ってからね」
ナイフよりは大きめなのかな?
映画の中で殺人鬼が振り回してた鉈とか言うのが、このくらいのサイズだったかな?手に取ってブンブンと振り回してみる、意外と手になじむ。
「いけそうかしら?じゃあ、私が正面のあいつを牽制するから、あなたは~」
「いや、先に俺がやれるか試してみるよ」
そう言って正面のゴブリンに向かって走り出す。膝はもう震えていない、素早く動けている。こちらに気付かれ振り向くと思っていたが、数歩は早く到達し鉈を振りかぶった。
首や頭を狙っては外しそうだったので、体のど真ん中辺りを意識し横薙ぎにする。下にずれて腰の辺りにヒットしたが、構わずそのまま振り抜いた。
致命傷かなんて分からないので、振り返ってもう一度と思ったら、腰の辺りから二つに折れ曲がった物が目に入った。よし次だ!
同じ要領で20体程倒したら周囲にはもうゴブリンは見当たらなくなった。
後半は中心辺りに当たったと思うが、ちょっと引っかかりを感じた。腹の辺りを払った時が楽だった気がする。
「結構やるじゃないの、実は冒険者だったりするのかしら?」
離れたところの数体を倒してくれた様で、女の子が笑顔で寄ってくる。
あれ、こんなに可愛い子だったんだ。髪は後ろで結われており、幼さもあるがきりっとした顔によく似合っている。
好みを言えば、もうちょっと髪を伸ばしてポニーテールにして欲しいところだ。
「冒険者?よくわからないけど違うよ。それより見えるところにはいないようだけど、もう終わりかな?」
「そうね、殆どは先に帰っちゃったみたいだし。早く集まって村長に、あっ」
さっきまでの明るい笑顔が覚めていっている。
「どうしたの?」
「ちょっと来てちょうだい」
そう言って俺の手を掴んで、荒れた村の中を早足で進んでいく。急に女の子に手を握られ、慌てて離そうとするがガッチリと掴まれている。
「あの~」
声を掛けようとして、お互い名乗ってすらいないことに気が付く。
それにこの流されている感じは良くない気がする、嫌な予感しかしない。
「ねえ、何か話しがあるのは分かったけど、この村のことも、君の事もよく知らないんだけれども?」
「あ、そうだったわねゴメンなさい。私はリースよ、ずっとこのテミズ村で暮らしているわ。村を知らないって、それじゃあ何しにこんな何も無い所に来たの?」
「リースちゃんにテミズ村ね。俺のほうは、そうだな…ケントだ!そう呼ばれていた」
「ちゃん付けとか、こそばゆいからリースでいいわよ。年も見たとこ同じくらいでしょ。で、ケントは村に何しに来たって?」
あれ、逃がしてくれないな。
高校生くらいに見えるがしっかりしているな。それにしても、俺は童顔ではあるが、流石に高校生には見えないはずだ。
転生して顔とかも変わっているのか、そういえばお腹が引っ込んでいる気がするな。
とは言え、『地球で死んで転生された』とか、正直に言う訳にもと考え。
「村に用事があった訳じゃあないんだ、田舎から出てあちこち旅をしているんだ!」
「武器どころか荷物も持たずに?」
あれ、劣勢じゃないかこれ?
「あー荷物ね、あれだよ盗賊に襲われてしまって」
「盗賊!また街道に出たのかしら、よくそれで殺されなかったわね」
うまく誤魔化せたようだぞ。
「捕まっていたんだけど、スキを付いて逃げ出したんだ。何とか、この村にたどり着いたばかりな訳で」
「盗賊から逃げれたのに、ゴブリンの襲撃にあうとかあなた運が無いんじゃないかしら?」
盗賊はウソだがその前に死んじゃってるし、強制的に転生させられてるし、運無しについては全く否定が出来ないな。
「そんな運無しのわたくしめに、どんな追い打ちを掛けるおつもりでございましょうか?」
あれ?と思った時にはリースは振り返りながら立ち止まっており、歩いていた俺は止まれず、彼女に抱きつく様に触れてしまう。
「ああああ、ごめんなさいわざとじゃ無いんです。何でもしますから許してくださいいいい!」
反射的に頭を深く下げ、ひどく卑屈な感じに謝ってしまった。
「村長がね、襲撃の時に弓矢に当たってね。薬草を塗るようお願いしたけど多分あの傷じゃあもう……それにゴブリンも倒したんじゃ無くて帰っていっただけだし……」
視線を下に落としつつ、小さな声でしゃべっている。
さっきまでの活発な姿は空元気だったのだろうか。
村長?村を治める偉い人が亡くなったのかな。
「という訳で、テミズ村のピンチは終わってないの。ケント、村に力を貸してくれないから?」
「う~ん、そうだね。さっきリースには命を救って貰ったから、俺の出来る範囲であれば頑張ってみようかな?」
「命を救ってくれたのは、ケントの方だと思うけれど。ありがとう、協力してくれるのね!」
ちょっとだけ元気が戻ったようだ、よかった。でも、一応念を押しておこうかな。
「あ、うん。出来る範囲でだよ。ほら冒険者とかじゃないし、田舎者だからあまり知識も~」
すると、リースはニッコリと笑いながらこう言うのである。
「何でもするって、言ってくれたよね?」
「あっはい」
ただ頷くしか選択肢は無かったのである。