1-10 自由時間がもらえました!
「私は買いたい物があるから別行動ね。昼には西門に集合よ」
怒っているわけでは無いようだが、リースはどこか不機嫌だ。宿屋で朝食を食べたが、特に会話も無いまま出て行ってしまった。
自由時間を貰えたのは嬉しいが無一文である。
旅の道具があるが、これは全てリースが準備してくれたものであり、売ってお金にするなど出来る物ではない。
時計など無いけどお昼というのは何時の事だ。
太陽の様な物はあるが、直上を通るわけではないので判断が難しい。太陽が見えてアナログ時計があれば方角がわかるのの逆が出来ちゃってるの?
取り敢えず近くをウロウロして、早めに切り上げ合流しよう。
昨晩も通った道を歩くが、結構人は多いんじゃないだろうか。シャッターが降りた商店街のような物悲しさとは無縁な感じだ。
今日は休日だったりするのだろうか、そもそも曜日という概念があるのか。
露天には見たことのない食材や道具などが並んでいるが、無一文な為、遠巻きに眺めておく。
かなり早めに、最初入ってきた門に着いた。ここが西門かどうかは門番に確認済みだが、リースは現れない。影の方角が変わり、近くを見て回ったが見つからない。
よし、探しに行ってみますか。
足取りを追ってみるか、行きそうなところにあたりをつけてみるといった方法が思いつく。
しかし、街に着いてからの行動を見ていると、正攻法では見つけられないような気がする。もしかしたら、いやまさかね。取り敢えず向かってみよう。
着いたのは東門と呼ばれている場所。
そう、集合場所をリースの方が間違えたのではと考えてみたのである。
しかし、見た感じ見当たらない。行き違いになったかもしれないし、聞き込みでもしてみようと思ったら門の外が騒がしくなった。
近寄ってみると大きな馬車が止められている。門番が荷台を確認しようとしたところ、数人が逃げようとし直ぐに捉えられた。
荷台に門番には見えない美丈夫が乗り込もうとしている、ずた袋が落ちてきた。
あれ、あのずた袋動いているぞ気持ち悪い。
美丈夫がずた袋を縛った紐を緩めると、中から人の首が飛び出した。
「ぶはー!」
「あれ、リースじゃん。何してるのよ……」
「助けに来るのが遅いわよ!」
「いや、助けたのは俺じゃないよ?」
門番は捉えた連中の相手で手一杯なのか、こちらには寄ってこない。
「お前さん、この女の知り合いか?」
渋みのある声で話しかけられびくっとするが、声の主を見ると目の前には肉壁があった。
見上げるように上を向いて、ようやく顔を捉える。あまりの迫力にチビリそうになる、いやちょっと漏れたかもしれない。
「はい、そうであります。待ち合わせ場所に現れない為、探していたところであります」
「そうか、怪しい馬車だったんで調べてみたが、当たりだったぜ」
「助けていただき、ありがとう御座いました。何かお礼をさせてください」
「なーに言ってんだ、ガキから礼なんて受け取れねーよ。おい門番、もう行くぜ、後はそっちでやりな」
他のずた袋にも人が入っていたようで、門番はあちこち走り回っている。手が足りていないのだろう。
「じゃあ、俺は行くぞ。次もって訳にいかねーからな、気ーつけな」
「何かお渡しするのがご迷惑であれば、せめてお食事だけでもどうでしょうか」
リースさん、結構食い下がりますね。
「そうかい、まあ腹は減ってたんだ。いい店がある、着いてきな」
男はかなりの大股でズンズンと進んでいくので、早足で追いかけていく。
店は混雑しており、テラスの席に案内された。
「ここの肉料理は絶品だぜ、さあ食いな」
注文は彼がしてしまい、テーブルいっぱいの料理が並んでいる。遠慮されるよりはいいが、食べきれるだろうか心配だ。
「オメーらは兄弟か何かか」
「違うわよ。あ、いえ違います。私はリースといいます、テミズ村より来ました」
「そうか……おれはジードってもんだ。子供がそんなに畏まって喋るなよ、いつもどおりにしな。で、そっちの坊主は?」
「ケントです。テミズ村から来たけど、出身はもっと遠くの田舎なんだ。ジードさんはこの近くの人なの?」
「そっちもテミズ村か……。いや、俺はもっと東の出身でな」
「村がどうかした?」
「気にすんなこっちの話しだ。二人はお使いか何かか?一緒に来た大人はどした?」
「街へは二人だけで来たよ。ギルドに相談にあったんだけど空振りでね、村に帰るところなんだ」
「二人だけだと?街道は警備巡回されてるだろうが、気を抜くと危険だぜ」
「来るときは遭遇しなかったけど、ゴブリンくらいなら大丈夫さ。ジードさんはその大きな弓を使っているの?」
「ゴブリンくらい(‘‘‘)って考えが危険なのさ。この弓は特別製でな、子供には扱えねーぜ」
「ふーん。弓が使えれば、遠距離でも勝負できて安全そうだね。難しいのかな?」
「弓を使うなら、自分で道具の手入れを出来るようにもならねーとな。坊主くらいの体格なら、まず短弓を使ってみな」
「扱いに詳しいみたいだし教えてくれねーかな。ちょっと困ってるんだ」
「駄目とは言わねーが、俺の授業料はたけーぜ。坊主の小遣いじゃあちょっと足らねーな」
「確かに、小遣いが足りないどころか無一文だから、俺は払えそうにないな」
「ガハハ。そうか、苦労してんだな」
「ただ、俺は無理だけど。テミズ村からなら払えるよ」
「ちょっと弓の指導だなんて予定にないわよ」
「おいおい、まるで村の決定権を持っているような口振りじゃねーか」
「まるでじゃなくて持っているよ。ちょっと訳あって警備長とやらになった身でさ、色々指導してくれる狩人を探してたりするのさ」
「狩人だあ」
「そう狩人。まあ暫く街から離れている様で、連絡もつかないんだけどね」
「ギルドに相談といってたな。まさかローズから聞いたとか言わねーよな」
「ローズさんから聞いたよ。綺麗なお姉さんだよね」
「あー、狩人ってのは多分俺のことさ。その相談ってのを話してみな」
「はひぃ?あっそっすか」
「……という訳なんだよ。話しだけで決めずに、テミズ村の状態を見た上で判断してくれない?」
「村の状態を見せられちゃー断りにくくなるだろ。狙って言ってるならふてーガキだな」
「いや、そんな駆け引きはしないよ。駄目だってんならしょうがないな。帝国に行かないといけないし、村に戻るよ」
「押しといて急に引いたりするんじゃねーよ。わーったよ、取り敢えず村には行ってみるぜ」
「おっし、決まりだね。あー、さすがにこのまま出発は出来ないよね?」
「いくつか面倒な用事がある。明日の朝には出発できるぜ」
「ローズさんに会いに行くんだね、連絡無くって寂しそうだったよ。俺たちはこのまま帰るね、村の場所は知っているかい?」
「余計な事を言ってんじゃねーよ。場所は心配いらねー、馬で向かうから直ぐに追いつくぜ」
リースが支払いをしようとすると『ここは知り合いの店だ、全部奢りだ』と言われ、逆にご馳走になってしまった。
出発は遅くなったが、指導役は見つけられた。絶対逃がさないようにしないと。
「――だったのよ。本当に死んじゃうのかと思ったんだからね。ちょっと聞いてるの?」
「え、ちゃんと聞いてるってば。裏の通りを歩いてたら、匂いのすごい液体を掛けられて眠っちゃって、気がついたらずた袋だったんだろ」
「そうじゃなくって、助けるのが遅いって話しよ」
「無茶言わないでよ。携帯もないから連絡もつかないし、GPSで位置が確認出来るわけでもないんだからさー」
「じいぴ……なんですって?何か知らないけど、察して見つけなさいって言ってるのよもう」
しきりに文句を言ってるが、かなりのペースで進んでいる。村に早く着かないかな。
次の日にジードに追いつかれた後は、馬の乗り方も教わったりしたが、視線のあまりの高さと、すごい上下運動で酔ってしまった。
ジードが乗ってきたのは、栗毛の毛並みの綺麗なかなりの大きさの馬だ。他で見た馬車を引く馬よりも一回りでかい。
そりゃあ乗っているジードがかなりの重量だろうし、普通の馬はキツイのかな。
日が落ちた後も進み続け、村に帰り着いた。
日が落ちて暫くたっているはずが、村のあちこちに松明の明かりが見える。
「リース、大変なんだ。レイラ達が……盗賊どもに攫われてしまったんだ」