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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第7部 ケンゲル王国侵攻戦~テアラリ島3部族同盟交渉編
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婚約

レメイ・ケンゲルを亡き者にし最後の守りの要フクセク砦を攻略しカルム王国軍は今、高い城壁に囲まれたケンゲル王国王都ルーマを取り囲んでいる最中である。


この頃にはゲリラ活動を行っていた各地の地方領主達やマーア・インサイトの同志達が続々と女王アルベルタに謁見を求め兵力を率いてカルム王国軍に参加して来たから総兵力が210000人に膨れ上がり、ちょっとした小高い丘から眺めるだけで壮大な光景を見る事が出来ると同時にケンゲル王国の終焉を感じる事が出来たのだ。


そんな終焉を感じさせるに相応しくない軽装に白いマントを羽織り腰にはケンゲル王国の宝剣と呼ばれる美しい飾りを施した装飾のドラグナーを佩刀する女王アルベルタが横にヴェルデールの3女神を侍らせ地方領主達に領地安堵の書状を配っている最中である。

ホッとした表情を浮かべる者や笑顔で受け取る者が大半であったが、中には顔を引き攣り怒り出す者や泣き出す者、呆然とした者も少数ながらいた。


「貴公は領地で民から搾取を繰り返しているらしいな、調べはついているぞ。領地を返上し早々に消え失せろ。それが嫌ならルーマに入って私と戦え!」


演技しているのであろうが幼気な感じのする可愛らしい女王アルベルタが物凄い形相を浮かべ批判し喧嘩越しで言って来るのだから違和感を伴っての恐怖を感じるのか許しを請い土下座をするのである。


だがアルベルタは許さないがチャンスは与えるのであった。


「駄目だ、私の目指す旧ケンゲルに貴公は必要無い。しかし期に敏に動き味方した功を認め娘に跡を継がせることは認めてやる。勿論貴公は隠居だ。」


アルベルタが、このような判断を下す領主達には優しい気質もしくは有能な跡取りがいる事を見極めての判断であったが、勿論だが、そうでなく親子共に悪逆な者もいるからチャンスなんて与えられず何処かに消え去るか怒って兵を率いてルーマに入ろうとするが結局は兵にも見捨てられ消え去っていった。


「良いか私はどうしても許せない事がある。それは民を虐める事だ!何者であろうと決して許さぬ!そしてカルムの兵達も新しく参加してくれた旧ケンゲルの兵達も聞いて欲しい。私の目指す世界は誰もが笑って暮らせる世界だ。平穏無事に親が子を可愛がり子が親を尊敬する。そして民が寝る前にその日の一日に感謝する、そんな世界だ!」


全軍の前に立ち大声で叫び自分の理想を語るアルベルタに拍手と賞賛の声が響き士気を上げたと同時にルーマの民にも、その理想を語り掛けたのだ。


そんなアルベルタの理想を聞いてから3日経過した頃だった。


硬く閉ざされていたルーマの城壁門が僅かに開きケンゲル王国からの使者2人が来たと報告があったのだ。


俺達にも伝令が来て本営に来るようにと言われ行くと既に白い衣服に身を包んだ使者達は女王アルベルタの前で用意された椅子にも座らず地べたに直接座っている、即土下座出来る状態であった。


「ケンゲル王国カルメン・ケンゲルと孫のアンソニー・ケンゲルでございます。」


老婆と12歳位であろう男子を連れた使者2人であったがマーア・インサイトやその同志達が泣き出し、その身分が判明したのだ。


「先王様・・・・・王子・・・・・申し訳ございません。」


「マーア、其方には辛い思いをさせました。」


ケンゲル王国の先王と王子であったのだ。


それからカルメンはアルベルタに平伏しケンゲル王国の全領土の譲渡を申し出たのだった。


「もうケンゲル王国はレメイや他の一族達を私が抑えられなかった事、このアンソニーに王としての才覚が無かった事で終焉を迎えました。何卒残された民の安定と女王アルベルタ陛下の手で善政を。」


そう言うとカルメンは更にケンゲル王国の内情を語り出した。


元々、カルム王国が文治派と武断派に分かれ諍いを始めた頃にケンゲル王国でも若いが名君名高い国王カレンと補佐を務めた有能果敢な夫アレンが同時期に体調を崩し呆気なく亡くなったらしい。

但しそれは一族内と一部重臣のみに知る事実とされたのだ、要は名君と有能果敢な補佐が亡くなった事実を知られる事を恐れたのだ。

『王は病気で寝たきり』という態を装い唯一残したアンソニーが成人するまでという苦肉の策を選び遠方に領地を持つマーア・インサイトら重臣達には知らされず『王の意思』という事でレメイ・ケンゲルらによって命令が下されて国の運営を行っていたらしいのだ。

初めはレメイや一族もケンゲル王国の為に善政を心掛け運営をしていたがカルム王国の内乱が発生し義理を守ろうとする者達と新領土を奪取しようとするレメイらに分断され争った結果、レメイらが勝利しカルム王国と同盟破棄を選び侵攻し西南の領地奪取に成功したのだった。

これによりレメイらが更に勢いを増し内々に争った者達は粛清され先王カルメンとアンソニーも幽閉状態にされ独裁政権を築き上げ、やがて迎えたのがイグナイト帝国との共同侵攻戦『オービスト大砦侵攻戦』だった。

しかし、これがレメイらの不幸の始まりだった。

確実に勝つと思われた『オービスト大砦侵攻戦』でまさかの敗北を喫したのだ。


85000の兵力を失い更に同時期から始まった天候不順による不作、新たに結んだイグナイト帝国との同盟破棄により輸出主力産業である工芸品の輸出先の喪失による損害等がレメイらに押し寄せたのだった。

そんな焦りに焦ったところに今度はマーア・インサイトの復職運動である。


自分達の独裁政権は崩れ、下手をすればマーア・インサイトによって今まで隠し通した王の死と先王・王子の軟禁まで露呈しかねない結果を生み出しかねないのだ。


そして選んだのがマーア・インサイトの領地への侵攻であった。


涙ながらに聞くマーアらに詫び、カルメンが再び説明を始め場にいた者達を驚愕させたのだ。


「ここに来る前に残った一族らを全員誅殺してまいりました。よって今ケンゲルの血を継ぐ者は私とアンソニーだけとなりました。どうか女王アルベルタ陛下の手で我らにも死を。」


カルム王国にルーマを取り囲まれアルベルタの理想を聞いた事により焦った残りの一族の者達がカルメンらの幽閉を解き交渉材料に使おうと考えたところを逆に動揺し焦っていた衛兵らに命じ殺させたらしい。


「これにてケンゲル王国は終わりにございます。女王アルベルタ陛下によって新しき世界を。」


神妙なカルメンとアンソニーを庇うようにマーアと同志らが土下座を始めたのだがアルベルタが何を思ったのかアンソニーに尋ね始めた。


「アンソニー殿は何か趣味がおありですか?」


唐突な質問にアンソニーも戸惑いながらも答えたが確かに『王としての才覚が無い』と言われても仕方が無い答えだった。


「私は剣も学問も苦手です・・・・・でも絵を描く事は好きです。」


「どのような絵を?」


「生き物です、例えば馬や犬・・・・・それから花や景色なんかも描くのは好きです。」


聞いていると、どこかのボンボン息子の答え方だったが一生懸命に答えているのだ。


「そうですか。ではお聞きしますが貴方には死んで頂いてケンゲル王国の民への責任を果たして頂きますけど、それで宜しいですか?」


そんな質問を更に受けたアンソニーが一瞬言葉を詰まらせるもしっかりと答えたのだ。


「その責任は当然だと思います。僕は幽閉されていたとはいえ王子ですから全ての責任があると思います。ただ女王アルベルタ陛下聞いて貰えるならお願いがあるのですが・・・・・。」


「聞ける願いならお聞きしますよ。」


「カルメンお婆ちゃんは助けてあげてくれませんか?全ての責任は僕にあります。お婆ちゃんには罪も無く年老いた身、これからは余生を静かに暮らして欲しいのです。」


そのアンソニーの願いを聞いたアルベルタが驚きの表情を浮かべた。

只の凡庸な子供ならマーアら旧ケンゲル重臣らの為に適当に幽閉などの処分にし絵を好きなだけ描ける環境を与えようと思っていたからで、まさか自分の命を捨て祖母の余生の心配をする慈悲深さを見せるとは思っていなかったのだ。

そして、その驚きはアルベルタだけではなくヴェルデールの3女神もケンゲル王国の重臣であったマーアそしてその同志達も同様であった。


「我ら臣が、しっかりアンソニー王子を御守りしてさえいればケンゲル王国は・・・・・」


マーアの同志の1人がアルベルタの前では禁句とされる言葉を無意識のうちに嗚咽をあげながら呟き同調するようにマーアらも泣き始めた。


このアンソニーは確かに『王としての才覚が無い』のかもしれないが重臣達さえしっかりと補佐し導いていれば、もしかしたら1人の天才アルベルタよりも堅固な国運営が出来ていたかもしれないのだ。

凡庸でも慈悲深い国王、民にとっては突飛な政治体系に偏りやすい天才が仕切るよりも安全で穏やかな生活を送れていたかもしれないのだ。

その可能性を亡くなった国王が名君だったからと気にして隠した事がケンゲル王国の全ての失敗だったのだ。


驚きの表情から笑顔へと一変させたアルベルタが不意にジュリア・ヴェルオールに向かい、そしてとんでもない事を言い始めた。


「ジュリア、確かカルム王国の内乱前ですがカルミニにいた時に外交上アンソニー王子の結婚の御相手をカルム王国の王族からというような話を聞いた事がありますが。」


「確かにありましたね・・・・・しかしそれ自体が同盟破棄になり立ち消えたような・・・・・・」


「では立ち消えただけで、それ自体は破棄になった訳ではないのですね?」


「はい、ですが同盟破棄という事は普通は婚約も破棄ととらえられますが・・・・・」


「ですが正式には未だに婚約の約束は放置状態という事ですね。」


「はい・・・・・確かに婚約破棄なんてケンゲルから使者が来たわけでもなくカルム王国から出したなんて話も聞いていませんね。」


「そうですか、ではカルム王国側に放置している責任がありますね。未だに婚約者を送っていないのですから。」


「あの・・・・・女王アルベルタ陛下、何を言いたいのか私にはさっぱりと・・・・・」


「ですからカルム王国からケンゲル王国に王族を婚約者として未だに送っていないのです!」


「それは分かりますが、もはやカルム王国の王族を婚約者に送ろうにもいませんよ!」


「ここにいるじゃないですか!?ジュリアの目の前に!」


「まさか・・・・・女王アルベルタ陛下御自身の事ですか!?」


「はい私です!少しばかり歳上ですが、そこはアンソニー殿に我慢して頂きましょう。」


そこから、カルム王国のヴェルデールの3女神を始め新たに重臣の列に加わったマーアの同志達を含めパニックになった。

突然の婚約発表であったから事が急すぎてアルベルタの意図が理解出来なかったのだ。

それに相手は自分が滅ぼし、これからの政治経営に邪魔な王族であり何より最早価値など無いのだ。


だがアルベルタはアンソニーと婚約すると譲らないのである。

重臣であるヴェルデールの3女神もいずれアルベルタが年相応になれば婚約者の選定なりをとは考えていたのだが其れなりの国の王族あたりでと考えていた為、これには流石に首を縦には振れなかったのだ。


「良いですか、これには私なりの考えがある!」


説明を始めたアルベルタだったが、これにも驚かさせられる事になった。


「私は、旧カルム王国の領土を奪還次第にカルムの姓を捨て新たな姓と皇帝を名乗るつもりです!」


自分がカルムと名乗っていれば、どうしてもカルム民よりケンゲル民の方が下に見られ差別される事。

カルム・ケンゲルの民が供に手を取り未来を歩むためにはアンソニーと自分が結婚しカルム王国とケンゲル王国には禍根無しと示す必要がある事。

何より、その婚約者となるアンソニーの性格が慈悲深い事、これから始まるアルベルタの戦いにとっては必要になる性格かもしれないと考えた事。

それを印象つける為に新国の設立し自分が『王』ではなく『皇帝』となり古い考えを一新させる事を話し、そしてカルミニ未だに陣取るアニータ・カルムの存在を話し始めた。


この頃のアニータ・カルムはイグナイト帝国の操り人形として存在し領民から搾取の限りを尽くし悪名が轟く様になっていた。

搾取だけではなく領民を獲物に見立て狩りをしたりして非道の限りを尽くしアルベルタら正当なカルム王国としても直ぐにでも攻め込みたいところであるが出来ない事情があった。

勿論イグナイト帝国の存在もあったが、一番の原因はカルム王国領の北部の地方領主達の存在であった。

北部の地方領主たちは故アリダ・カルムから特別な庇護を受けたいた為、亡くなった今も娘のアニータを支持し力を貸しているのであった。

そしてアニータも北部の領主達には母アリダに続き庇護を与えていたから互いの利害が一致し厄介な存在になっていたのだった。


「カルムの名はカルム旧領ではアニータのおかげで『非道』の文字が付きまとうようになってしまった。だから私は旧領を奪還した折に変えようと思う、新たな新国に『非道な王』はいない、『民を想う新しい皇帝』がいると示す為に。」


それを聞いたヴェルデールの3女神もマーアらも感動し納得したが侍従のドルマがした何気無い質問がアルベルタを悩ませた。


「では新国の皇帝に御なりになるとして国の名前と御自身の姓は何と?」


「そこまではまだ・・・・・これから考えます。」


こうして女王アルベルタとケンゲル王国アンソニー・ケンゲルの婚約が成立し発表された。


「当面は婚約者などとは形式ばった関係ではなく姉が出来たと思って下さい。」


そう優しく話したアルベルタに頬を赤く染めニッコリとした笑顔でアンソニーは応えた。


そして2週間後、カルム王国軍は現在の王都オービスト大砦に帰還の途に就いた。




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