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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第7部 ケンゲル王国侵攻戦~テアラリ島3部族同盟交渉編
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疑問

「これをこう繋げてこうやってね!」


「ああ、そこはこうやるんだ!」


「君上手だね!」


「おおお!君才能あるね!」


「そうそう、この蔓を引っ張る作業が味噌なんだよね!」


こんな感じでクオンが萌黄貴族子弟出身者699人を相手に忙しく走り回り煽てながら懇切丁寧にマヤータ族伝統の軽弓の作り方を教えている。


俺はソニアからの提案を採用し萌黄を軽弓騎兵にするべく手を尽くしている最中である。


まず萌黄全員をテストしてみた結果、やはり貴族出身の子弟達は嗜みからか弓にも剣にも其れなりには精通した腕を所有していた。

そして学校での成績優秀者達は、子弟達ほど弓や剣にも精通はしていないが高い知能と体力的にも優れたものを持っており武技でも戦術でも教えれば早期に吸収し、また精神的にも強固な一面を持ち合わせていた。


そこで萌黄を出身で2隊に分け、各々違った訓練を施す事にした。


貴族子弟出身者達は弓を中心に訓練し命中精度の向上に努め、成績優秀者達は剣などを中心に教える事にした。


本来なら弓にも剣にも精通した軍団に育てたいところだがケンゲル王国侵攻を控える状況では時間が無さ過ぎた。


ある意味苦肉の策だった。


まず人数配分であったが貴族子弟出身者達7割対成績優秀者達3割の割合なり貴族子弟出身者達が、まず敵を弓にて攻撃中は成績優秀者達は守り、敵殲滅など押し込む際には先頭を切っての抜刀隊的役目を果たす事を理想に目標とする事にした。


しかし、これには弓や剣の腕を磨く以上に馬の扱い即ち騎乗センスの向上が求められた。


そこでメリッサにカルム王国の重臣達の中で騎乗に秀でた者は誰かと聞くと直ぐにパメラ・イーシスとの答えが返って来たのだ。


「前にライトタウンからオービスト大砦まで競争をしたが全く歯が立たたなかった。」


そんな答えのメリッサを通じ騎乗技術の向上の為の教官役を頼んでみるとパメラも快く承諾してくれ尚且つ、騎乗に秀でたパメラの部下30人も参加してくれたのだ


これにより騎乗センス向上という問題は何とかなりそうだが、まだ問題は存在した。


勿論、同時に弓や剣の向上も忘れず指導をする訳だが、弓はクオンが指導すれば良かったが問題は剣の方だった。


本来ならメリッサに頼めば一番なのだが彼女は軍議に忙しく時間が無く無理。

俺が教えようかとも考えたが、まさか二刀剣を教える訳にはいかず神聖ヤマト皇国の剣術は対個人戦に主眼を置いている為、戦場を駆け巡る剣としては不向きなような気がした。

勿論、神聖ヤマト皇国の剣術だって戦場にも使える。

だが、それは基本を納め自分なりに応用をする事が出来る段階になってからの話だ。

今回の場合は全てにおいて時間が無さ過ぎた。


今欲しいのは剣術ではなく戦場の剣である。

臨機応変に繰り出す剣を教える事の出来る者はいないかと頭を悩ませる事となった。


そんな悩める俺を見てかレイシアが、言いたくは無いが‥‥との感じの顔付きを露骨にしながら俺に助言してくれた。


「ソニア・・・・・ソニアならアベルさんの悩みを解決出来ますよ・・・・・裏切る可能もありますが。」


無理はないが一言多いレイシアの助言を採用しソニアに頼む事にしたが、肝心の本人が中々了承しなかった。


別段、嫌とか面倒などの仕草ではなく躊躇っている、そんな感じの表情を浮かべながら断わってくるのだ。


「申し訳ないのですが・・・・・。」


教えるという行為を恐れている、そんな感じだった。


色々とニュアンスを変え説得してみるが色良い返事は貰えなかったが、俺の何気なく呟いた一言に反応し、そして了承してくれたのだ。


「出来るだけ萌黄達の生還確率を上げたいと思っていたのですが・・・・・。」


この『生還確率』という言葉に反応し、仕方が無いというような顔をしながら承諾してくれたのだ。


それからのソニアは一生懸命に役目を果たしてくれた。


1人1人に厳しくそして手取り足取り、今出来る最高の武技を教えてくれたのだ。

何が駄目でどういう鍛え方をし弱点を補い、その者のどこを伸ばせば強くなるかまで的確に指導していった。

正に寝る間も惜しんでと云った感じである。


そんなソニアの姿を見るにつけ俺の中で更に彼女への疑問は膨らんでいった。


これほど誠実に物事を教える人が、カミラが言ったような人質を獲るような卑劣な事をするのかと益々疑問に襲われる事になった。


そこで俺は、もう一度カミラに人質になった時の状況を聞いてみる事にした。


最初は、もう一度話す事を嫌がったカミラだったが頼み込むとポツポツと当時の状況を思い出しながら話してくれた。


まず学び舎であったテリク族族長宅から3人は拉致され船に乗せられた事。

拉致された時は全く拉致されたとは気付いていなかった事、後に拉致され人質にされていたとテアナ族の者に教えられたらしい。

そして、これが聞いていて不思議だし俺がおかしいと思った事だ。


3人はラウラの母で当時のテラン族族長ノーマ・テランに救出された事だ。


ノーマ・テランがソニアと話し合い3人は解放されたらしいが、どうしてノーマ・テランなのだ?誇りを重んじるテアラリ島3部族なら身内が起こした事なら身内であるエリゾネ・テリクが率先して救出に掛かるはずである。


何故、エリゾネ・テリクが救出に赴かなかった?

どうしてノーマ・テランなのだ?


その事についてもカミラに聞いてみたが彼女自身も解らないとの事だった。


疑問を解消するためにカミラに聞いたのだが余計に疑問は深まる結果となってしまった。


そんな俺の疑問は解消せぬまま時間は呆気なく過ぎ、いよいよケンゲル王国への侵攻が開始される時がやって来た。


まずオービスト大砦から70000人の兵力で出陣し途中でカルム王国領の西南地方領主達の兵力30000人と合流し総勢100000人の軍勢でケンゲル王国侵攻戦が開始されたのだ。

勿論、イグナイト帝国への牽制に東部の地方領主達の軍勢20000人を率いるゾイラ・ガッシュという人と10000人の兵力を率いるブラスコ・バリという人が守りの任に着くらしい。


その侵攻戦に入る前日にクオンを除く俺達は女王アルベルタに呼び出された。

呼び出された理由は判っており、ゲンゲル王国侵攻戦に俺達が参戦するかどうかの問いだ。


萌黄を鍛える事になった俺達とはいえ一応はカルム王国の騎士となったクオンを除いては義務は無く別にしなくても良かったのだが、自分達が関与した萌黄を見過ごすのも忍びなく仲間の1人を都合で騎士とした事に後ろめたさもあり俺達は参戦を決めた。

何より俺達はテアラリ島3部族の中では一応は国外追放の身分である。

そしてテアラリ島3部族とケンゲル王国の間に国交も無ければ外交も無いので問題も無かったのだ。


そんな気持ちから参戦の承諾をアルベルタに伝えた時、俺の中で少しだけソニアの答えが見えた気がした。


ソニアとテリク族の戦士20人は逃亡ではなく俺達と同じで内密な理由から『国外追放』とされているのではないかとの答えだ。

何か事情があって国外追放になった。

その『何か事情』に関係しノーマ・テランでないと務まらなかった。

もしかしたらノーマ・テランと話し合い、即ち交渉人にノーマ・テランを指名する為に3人を人質にする必要がソニアにはあったのではないのか?と俺は考えたのだ。


だが、そこから先は答えが出なかった。


何故ノーマ・テランなんだ?

姉のエリゾネ・テリクでもなくアン・テアナでもない。

ノーマ・テランでなければならない理由。


何故だ・・・・・。


先の答えが出ぬまま出陣の日になり萌黄は軍勢の中央部に配置され俺達はクオンとは別に先方を務めるメリッサの直属軍と行動を共にする事になった。


馬に乗り出陣する最中にソニアが7人の子供達と優しい笑顔で話しているのが見えた。


どの子供も同年齢位だが、全員がソニアを母様と呼んでいる。


「メリッサ姉ちゃん、あの子達は全員がソニアさんの子供か?」


そうメリッサに聞くと頷きはしたが、本当の子供ではなくソニアの死んだ友人達の子供と聞いていると教えてくれた。


「ふん、あんな奴が母様なんて子供達も可哀想に!」


俺の隣にいたレイシアが無愛な言葉を吐き捨てた時、俺から既に事情を説明されているメリッサが否定しながら答えた。


「ソニアは、あの子供達の為に私の副官になったのだ。」


「あの子供達の為って?」


「あの子供達の1人が流行り病に倒れた時があってな。当時、東部の古城を守っていた私を訪ねてきて薬を分けて欲しいと頼んできたんだ。」


「それで?」


「自分には金が無い、だから自分の命と交換してくれ!好きに使ってくれ!と言ってきたのだ。」


「それから?」


「金は要らんと言ったのだが義理堅いのか自ら志願してきて直ぐに頭角を現し今や副官をやって貰っている次第だ」


子供達はほぼ同年齢位、古い友人達の子供達・・・・・。


ふと俺の中で仮説が成り立った。


「レイシア、3人の教育役を務めていた頃のソニアの周りには逃亡した時に付き従ったテリク族の戦士20人が常に一緒にいたんじゃないのか?」


唐突な俺の質問に嫌そうな顔をしたが答えてくれた。


「そうですよ、彼女達はソニアの直属の部下で幼馴染のような関係でしたから。」


やっぱりそうか、それならもう1つ俺が出した仮説も当たっているのかもしれない。


「それから武闘祭でソニアのパートナーを務めた傭兵ってどんな奴だ?軽薄そうな奴か?」


「いや・・・・・武技に優れた男で軽薄とかではなく私達3人とも一緒に遊んでくれた優しい人でした。」


俺の仮説は外れた・・・・・そいつが何かをしたと思っていたのだが。


だが次のレイシアの言葉で俺の新たな仮説が生み出された。


「それに、その人の部下達も傭兵にしては気さくで陽気な人達で盛り上がって武闘祭でソニア達を応援してましたからね、別段悪い印象はなかったけど。」


「部下!?そいつ部下をテアラリ島に連れて来ていたのか?」


「ええ、しっかりとは覚えていないけど確か小さな傭兵団の団長で部下の人達の人数も10人いなかったような。」


それを聞いて俺の中の仮説は完成した。


テアラリ島3部族の性格や誇り、そしてソニアとテリク族戦士20人の逃亡、エリゾネ・テリクが救出に赴かなかった理由、ノーマ・テランでなければならなかった理由、以前ラウラが話した事と繋ぎ合わせれば全てが合致した。


「レイシア、もしかしたらソニアはテリク族を裏切りたくて裏切った訳ではないかもしれない。」


「どういう事ですか?アベルさん。」


「やっぱり事情があったんだ!そうせざるえない事情がね。あくまで俺の推測だけど。」


勿論、俺はソニア討伐など命令は受けていないから仮説を立てたままにして無視しても良かったがレイシアやカミラの心情を考えるとそれも出来なかった。

戦の前だ、変な蟠りを残し戦場に赴いたなら戦死しかねないからだ。


「どうするレイシア、ソニアに直接聞くか?俺の仮説が外れていれば良くない結果になるかもだけど。」


一応は仮説が外れた場合を考えて前置きを振っておいたが、直ぐにレイシアは笑顔になって賛成した。

本当はレイシア自身がソニアの無実を一番信じたかったのかもしれない。


俺は直ぐにレイシアとカミラを連れソニアの元に行き、そして自分の仮説を話した。


するとソニアは一瞬にして真青な顔をしたが、やがて諦めた様に話し出した。


「アベル殿の言う通りです。」


堰を切ったように泣きながら全ての事実をソニアは話し始めた。


それはソニア・コルメガいやソニア・テリクにとって辛く悲しい話だった。

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