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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第7部 ケンゲル王国侵攻戦~テアラリ島3部族同盟交渉編
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合宿

クオン曰く萌黄の楽しい合宿前日の朝に内容を聞き俺達は驚く事になった。


内容は単に1人でオービスト大砦の前に広がる森林地帯を駆け抜けテームル川に8日以内に辿り着けば良いだけという単純なものだが、そこには魔獣や魔物が多く生息し、それらを排除しながら水食料も自分で確保して生き残らねばならないという過酷なものだった。


クオンから聞いて良い案だと思うと同時に懸念が2つあった。


良い案と思った理由は短時間で実力を上げるなんて実際問題無理な話なのだ。

それなら精神論即ち生き残ろうとする心構えと自活能力を育む事を優先にした方が良いと思ったからだ。


そして懸念とは、その方法だと確かに強者は生き残るが弱者は死ぬ事になり確実に兵力を減らしてしまう事。

それから彼らに魔獣や魔物と戦った経験があるのかと云う事だった。

人と魔物では戦い方も随分と変わってくる、人相手なら勝てても魔物にはさっぱりなんて奴もいるのだ。


そこで俺はメリッサに協力を求めクオンの案に少し修正をする事にした。

現在オービスト大砦にいるメリッサ直属軍の2000人にも参加して貰い影から援護して貰う事にしたのだ。

要は萌黄1人にメリッサ直属軍の2人が影から気付かれないように追い掛けて貰い、かなりの危険が発生した場合に限り援護して貰うようにしたのだ。


俺の修正案を聞いて初めは少しだけ不満顔のクオンだったが説明すると納得してくれた。


「そんなの意味ねえじゃん、兄貴。」


「良いかクオンの案自体は良いと思う。しかし俺達の目的は鍛える事であって強弱の分別じゃない。

それにケンゲル王国への侵攻戦が始まる最中に1人の兵とて失いたくないんだ。」


「でもマヤータ族の合宿の時は俺を含めて50人中生き残ったのは9人だったけどな・・・・・まあ、でも兄貴の言う通りかもしれないな、それで良いよ。」


「気を遣わせて悪いな・・・・・って、これマヤータ族でやってんのか!?」


「うん、10歳になるとやるんだよ、死にたくなければ生き残れ!って言われてさ。ちなみに、あのワイバーンに乗ってた8人が俺と一緒に生き残った奴らだよ。」


10歳でか・・・・・やっぱり戦闘民族は妥協が無いな、アニラが俺に自信を持って8人を推薦した理由も解ったような気がした。


そして俺はクオンとレイシアとカミラを連れメリッサのところに協力してくれる礼を言いに行く事にした。

レイシアとカミラを連れて行けば男受けも良いだろうと思ったのだ。


メリッサの直属軍の駐営する宿舎に着くと2000人と聞いていたのに、どう見ても5000人はいるのだ。

聞くとローヴェ内乱からの帰還に合わせ、守っていた東部の小城からオービスト大砦の兵士と入れ替わりで副官が3000人を率いて帰って来たらしい。


「3000人は出せそうだから1人につき3人って感じにするか?」


メリッサから1000人の追加を申し出され、ありがたく受ける事にした。

これで萌黄1人1人が生き残れる確率が上がるからだ。


「ただ私はケンゲル王国への侵攻の件で軍議などに忙しくなるから副官に任す事になるのだが、彼女は腕も確かだから安心して欲しい。」


そして俺達はメリッサから紹介されて副官の女性と会ったが、そこでクオンを除く俺達3人は驚愕の人物を目にする事になった。


「彼女が私の副官ソニア・コルメガだ。」


目の前には赤い鎧を着たテアラリ島3部族元族長の1人でありレイシアの母エリゾネ・テリクがいたのだ。

だがエリゾネにしては年齢がかなり若いような・・・・・それに片目の様で左目を眼帯で覆っている。


俺は共通騎士の習性からか瞬間的に膝を着き何よりカミラとレイシアが武器を引き抜き叫び始めた。


「貴様、未だおめおめと生き恥を晒していたのか!?」


「もしやレイシアとカミラか・・・・・どうしてここに?それにラウラはどうした?一緒じゃないのか?」


「貴様に名前など呼ばれる筋合いは無い。」


「そうか、それもそうだな。」


「ここで会った以上はテリク族の汚名返上を決行する!」


俺とクオンそしてがメリッサが呆然とする中、レイシアがソニアに飛び掛かっていき2人の戦いが始まった。

パニシング・ダガーの連打を躱し、そして壁に立てかけてあった自分の物であろうクレイモアーに手をかけ鞘から引き抜いた。


「さすがは我が姉の子、強くなったじゃないか!」


「母エリゾネ・テリクを姉などと気安く言うな!」


「ごもっともだが私はお前らに戦い方を教えた身でもある、尊敬と感謝はして貰わないとな。」


「尊敬と感謝!?ならば何故、テアラリ島3部族を裏切った?」


「裏切った?裏切ってはいない、変革しようとしただけだ。」


「それが裏切りだというのだ!」


呆然とする中、俺より先に我を取り戻したクオンがカミラに理由を聞き、そして俺とメリッサに止めるように言ってきた。

そうだ、このままでは拙い事になる。


「カミラ姉さん、これどういう事ですか?一体何が?」


「・・・・・クオン、それ借りるよ。」


理由を聞こうとしたクオンの腰からマチューテを勝手に引き抜きジャベリンとの両手持ちでカミラまで参戦してしまった。

2人対1人の戦いが始まったが、ソニアは苦戦しつつも余裕を見せているのかカミラにも話し掛けていった。


「カミラ教えなかったか?テアラリ島3部族の戦いは常に1対1だって事を、忘れたか?」


「ふんソニア、お前はテアラリ島3部族では犯罪者しかも極悪人だ、極悪人を相手に卑怯もあるか!」


「なるほどな、良い答えだ。」


そんな受け答えの3人の戦いを止めようとするが勢いが付きすぎて、どう止めるか悩んだ時俺の腰が軽くなった気がした。

メリッサだった。


俺のカムシンを鞘から引き抜き自身の鳳翼も抜き二刀になると3人の間に割って入り刃を向け叫んだ。


「3人とも止めろ!さもなくば、この場で叩き斬る!」


なんとかメリッサの活躍により場を収めたが、ソニアは薄ら笑いを浮かべているがレイシアとカミラの2人は未だ興奮状態である。


「どんな関係かは知らないが、ここはカルム王国であり現在このオービスト大砦は王都である。勝手をされても困る、お前もだソニア。」


そう言われたソニアは頭を深々と下げた。

だが、その姿に更にレイシアが興奮し発狂した。


「貴様・・・・・それでもテアラリ島3部族最強の異名を欲しい儘にしたソニア・テリクか!」


「今の私はソニア・コルメガだ。それに我が忠誠はメリッサ・ヴェルサーチにある。」


その答えにレイシアが更なる発狂状態に入ろうとした時、カミラが止めた。


「もう止めなさいレイシア。」


「止めるなカミラ!」


「もう私達の知っている誇り高いソニア・テリクじゃない。やっぱり男に狂ってテアラリ島3部族を裏切った腰抜けよ!戦う価値もない。」


そうカミラに言われたレイシアは納得したのかしなかったのか唸り声を上げながらパニシング・ダガーを鞘に納めた。


「兎に角、ここに来たのは明日の萌黄の合宿のための打ち合わせだ。」


そんな流れを変える為の言葉も意味はなさずレイシアはソニアと同じ場所にはいられないと言い帰ってしまった。


「レイシアは帰ったぞ。お前は帰らないのか、カミラ?」


「私がカミラ・テリクだったら帰ってるよ。」


「そうだな私はテリク族の恥晒しだからな。」


少し悲しそうな顔をしてソニアが答え、そして合宿の打ち合わせをし特に不具合も無く終わった。


帰り道にカミラに共通騎士の立場上、ソニアについて聞いてみると教えてくれたが2人が激怒しても仕方がない内容だった。


「ラウラを含む当時9歳だった私達3人を人質にして船を奪いテリク族20人の戦士を率いて逃亡したんだ。」


「何故逃亡なんかを?」


「アイツはテアラリ島3部族武闘祭で優勝してるけど、その時のパートナーを務めた傭兵の男にそそのかされたんだ。情けない話よ、テアラリ島3部族最強と呼ばれ私達3人の教育役まで務めた戦士が。」


話を聞いていて腑に落ちない、いやテアラリ島3部族らしくない事があった。

そんな教育役まで務めるほどの戦士が男に狂ったのか?

何故テリク族20人の戦士がソニアに付き従ったのか?


普通に考えれば男に狂ったなら、そんな派手な逃亡はせず隠れて男と2人で逃げれば事足りるはずである。

それにテアラリ島3部族の性格ならカミラ達には悪いが人質など無視して裏切者の殲滅を図るはずだ、誇り優先なのだから。


更には、それが共通騎士である俺には伝わっていない事だ。

折角、他国漫遊をしているのだ、もし見つけたら誇りの為殺せ!などの命令があっても不思議ではない。


全てがテアラリ島3部族らしくない。


色々と考えてみたが『テアラリ島3部族らしくない』の一点で止まってしまう。


まあ命令は受けていないのだ、この事はレイシアとカミラには悪いが俺は感知しない事にしよう。

今は萌黄を鍛える事に集中しよう。


そう思い宿舎であるシェリー・ヴェルデールの屋敷に帰る事にした。


そして次の日合宿初日は絶好の合宿日和だった。


緑色の鎧を装備した若者999人に水食料3日分を渡し終え司令官であるクオンが訓示を始めた。


さすがにクオンの強さは認めたのか全員が神妙な顔つきである。


「じゃあ合宿を開始します。皆さん頑張って生き残って下さい。」


そして合宿が開始された。


萌黄999人が1人1人好きなように自分で考え道を選び森林地帯を突き進んでいく。

勿論俺達も1人1人が彼らよりも先行し出来るだけ特に危険そうな魔物の処理をしていくのだが、やはり旅の経験が生きるのか早々に危険を感知してしまい無意識に場を離れようとしてしまうのだ。

危険な事には手を出さず無駄な戦いは避ける、それが旅で得た知識だったが今回は裏目に出た。

何より魔物の方も俺達には襲ってこないし近寄っても来ないのだ。


本能的に分るのかもしれない。


この辺の魔物は俺達が戦ったマンティコアやミノタウロスに比べれば、ずっと弱く話にならないレベルだった。

まあ、それでも一般の兵士などには結構な脅威なのだが。


実に困った事になった、後はメリッサの直属軍とその副官のソニアの手腕に頼らざるへなかった。


仕方なく俺達は早々に到着したテームル川にて待つ事にしたが、驚くべき事に萌黄の全員が怪我も無く最期に到着した者でも6日目に到着してしまったのだ、もっと言えばキッカやセジルは俺達に1日遅れくらいで到着してしまったのだ。


はっきり言うと合宿は失敗したのだ。


理由は俺達は勿論だがメリッサ直属軍も1人1人がメリッサに鍛えられ強い為、その気配を察知した魔物が恐れて襲ってこなかったのだった。


「兄貴・・・・・やっぱり意味ねえじゃん、これ。」


「だな・・・・・すまんクオン。」


だが予想外の事を萌黄の面々が始めた。


それぞれ10人程のグループに分かれ話し合いを始めたのだ。


直ぐにキッカを呼び何をしているのか聞いてみた。


「今回の合宿の反省点や良かった点、次にはどのような行軍をするかなど話し合っているんです。」


「そんな事をやってんのか?」


「はい、前任司令官のリーゼ・ヴェルサーチの発案でして直ぐに反省会を開くようにしているんです。」


「そうか・・・・・じゃあ今回の反省点は?」


「体力的に1人1人は弱く、そして自活能力がないという事が判りました。後は咄嗟の判断能力の欠如です。これが戦場なら生き残れないという事が理解出来ました。」


「そう・・・・・そんなに理解出来たんだ・・・・・。」


「はい、もし必要ならレポートに纏め提出致しましょうか?」


「いえ・・・・結構です。」


俺は萌黄が地方領主の子弟や学校の成績優秀者の集団って聞いていたのを忘れていた。

1を言えば10を理解する知性は全員が持ち合わせているのだ。


「兄貴、これは普通に訓練するのと誰かに戦術論あたりを講義して貰うだけで十分に戦場に出れるんじゃないの?」


「うん、俺も同じ事を思った。」


俺とクオンが、そんな事を話しているとソニアが声を掛けてきた。


「私から見ての萌黄の感想なのだが、下手に個々のレベルを引き上げるような真似は辞めた方が良いぞ。そうだな、集団戦術に特化したような軍に育てるべきではないか?」


「例えば、どのような?」


「そうだな・・・・・騎兵で長距離を射狙う弓でなく弓騎兵のような軽弓を使う感じにすれば良いかもしれない。

縦横無尽に駈け回り奴らの知性をフルに使える起動部隊が良いかもしれない。」


「なるほど、ちょっと考えてみます。」


そう言うとソニアは笑顔で離れていった。


確かにテアラリ島3部族最強と言われただけあって軍事にも精通し良く見ている。


こんな人がテアラリ島3部族を裏切り3人を人質に逃げるなど浅はかで姑息な手段を獲るようには益々信じられなくなった。


ソニアと話していたのを見ていたのか憮然とした顔をしたレイシアが怒りながら言ってきた。


「アベルさん、あの女を信用しないで下さい。絶対に災いをもたらしますよ!」


「そうか注意するよ。」


そうレイシアに言ってはみたが、少しソニアについて調べてみようと思う俺だった。


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