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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第7部 ケンゲル王国侵攻戦~テアラリ島3部族同盟交渉編
90/219

一騎打ち

俺、カミラ、レイシア、ゲイシー、そして何より一時的とはいえ司令官になり緑色の鎧に身を包んだクオン。


その俺達の前に不貞腐れた999人ばかりのクソガキ達が並んでいる。

その不貞腐れている理由が腹が立つ。


彼等は別に俺達全員に不満がある訳では無く、クオンだけに不満があるのだ。


あのガキ、どこの何者だ?

あんな奴に栄光ある萌黄を仕切られるのが我慢ならない!


一様に、そんな感じでクオンを見て馬鹿にしているのだ。


だが俺達には、ある意味礼儀正しいから余計に腹が立って来る。


カミラとレイシアはテアラリ島3部族の族長の妹、謂わば王族だ。

そんな身分で、200年前にイグナイト帝国をボコボコにしたテアラリ島3部族の逸話を伝え聞いた彼らからは『様』付けであった。


そしてゲイシーにも意外だが尊敬の眼差しを向けているのだ。

見た目が筋肉の塊だから強そうに見えるし実際に強いのだから仕方が無いのかもしれない。


何より俺に対しての見方が異常に感じるほどだった。

俺は『血塗れの女神』メリッサ・ヴェルサーチの弟で、前萌黄司令官!?『首狩りの女神』の兄、然も血塗れの女神と一騎打ちに勝利し、その身分はテアラリ島3国共通騎士。

間違ってはいないが、そんな話が彼の中で横行しているようだった。


「アベル様、もし良かったら食事を供に?」


可愛らしいリーゼと同じ歳くらいの萌黄の女の子2人に誘われたが、勿体無いが断っている状態である。


これは何とかしないと拙いなあ、と思っているがクオンは至って平然とした顔である。


「萌黄の連中の鍛え方は俺が決めるから兄貴たちは補佐だけやってくれ!」


そう言ったクオンだが特に笑っているだけで何もする様子は見られなかった。


「整列!これより新萌黄司令官より訓示がある、心して聞くように。」


一応、俺はメリッサにも協力を仰ぎ、この場に来て貰っており彼女の檄により萌黄の全員が一応引き締まった顔を見せた。


「えーと何か解らんけど司令官になったクオンです!」


実に適当な挨拶をしやがった、俺の心配が更に加速した時ニコニコとしたクオンが言葉を繋いだ。


「えーと聞いたんですけど、前の司令官に一騎打ちを挑んでボコられた人ってどなたですか?2人いるって聞いたんですけど。」


そう言うと萌黄全員がざわつき始めたが、やがて大柄な1人の青年と可愛らしい1人の少女が前に出てきた。


「名前と年齢を教えてくれると嬉しいのですが。」


そんな態度のクオンに馬鹿にしたような態度の青年が大声で名乗り、少女は至って慌てる様子も無しに名乗った。


「俺の名はセジル・アベンシス、歳は16歳だ!」


「私はキッカ・クック、歳は14歳。」


「ありがとう、それでは今から俺と2人が一騎打ちします!皆さんは三角座りでもして観戦して下さい。」


そうか自分の強さを見せて認めさせるつもりか!中々やるなあ、クオン。

少し感心した。


「えーとセジルとキッカは何を賭けますか?俺は萌黄の司令官職を賭けるけど。」


こいつ何言ってんの?なんて俺達は思わなかった。

クオンの強さは近くで見てきた俺達が一番分かっていたからだ。


まずは自分の忠誠心を賭けると言ったセジルと弓で勝負を始めたクオンを俺達が余裕綽々で観戦モードに入ろうとした時、メリッサが慌てた顔をして俺に言ってきた。


「アベル拙いぞ、あの小僧何てことを言ったんだ!」


「ああメリッサ姉ちゃん心配ないよ!ほらセジルとかいう奴に余裕じゃない、クオン」


実際、弓の的当てをしているが、セジルとかいう奴も的に10本中8本を当てて中々の腕前だがクオンは的の中心に全てを当てている、既に勝負は決したと言って良かった。


「ほら余裕じゃない!」


「違う、キッカの方だ!」


「あの娘?どうして?」


「アイツは私の弟子だ。」


「え・・・・・姉ちゃん、そういう事は早目に言ってくれよ。」


急いでクオンに忠告しようとしたが時既に遅しだった。

既に2人は相対しているところだった。


「えーと君は何を賭けますか?なんなら君の初体験でも良いよ!」


そんなクオンの卑猥な言葉にキッカは慌てる様子もなく憮然として答えた。


「じゃあ、それで。それから真剣勝負で良いかな?司令官職なんて要らないからアンタの命を頂戴。」


「勿論だよ、じゃあ勝負開始。」


そんな軽薄な言葉からクオンとキッカの一騎打ちが始まったが、予想を上回るキッカの強さを見る事になった。


キッカが正眼の構えを取り、至近距離から弓を放とうとするクオンの間合いに直ぐに侵入し早速手にある弓を真っ二つにしたのだ。


「これで勝負は着いたけど死にたいなら続ける?」


キッカの言葉にクオンは主武器の弓を破壊されたにも関わらず焦った様子も見せないで一言。


「勿論だよ、君の初体験を賭けているのに!」


相変らずのクオンのニコニコ顔にキッカが苛ついた顔見せ勝負が再開された。


かなりの剣捌きを振るうキッカの事をメリッサに聞いてみた、するとリーゼと一騎打ちした辺りから話してくれた。


リーゼとキッカの勝負は、結果的には圧勝だったが内容は倒れても何度も立ち上がるキッカにリーゼから止めようと言っていたらしい。

それでも途中で気絶したので勝負は着いたのだが、それからのキッカの行動が凄かった。

次の日、傷付いた身体を引きづり早朝に剣の修練をするメリッサとリーゼを訪ねてきたのだ。


自分にも剣を教えて欲しい、強くなりたい。リーゼに勝ちたい。


そんなキッカの正直な言葉にメリッサは感心し剣を教え始めたが元来才能があったのかメキメキと強くなり今ではリーゼと肩を並べても遜色はないらしい。


「そんなに強いのか!?」


「ああ、それに闘争心だけならリーゼよりも遥かに上だ、我が弟子ながら感心する。」


「だが、まあ大丈夫か・・・・・クオンなら何とかするだろ。」


俺達には例え弓を破壊されたとしてもクオンの強さを信用出来るだけの活躍を見せて貰った経験もあるからキッカに負けるとは思えなかったのだ。


剣を身一つで躱し続けるクオンに更に苛ついたのかキッカが叫び始めた。


「お前、私を馬鹿にしているの?」


「馬鹿になんかしてないさ、一歩間違うと俺は真っ二つだ。」


「そう、じゃあ一歩詰めて真っ二つにしてあげる。」


そう言うとキッカの剣に蒼い光が灯り始めた。

フォースまで使えたのか!


「フォースか・・・・・あんまり得意じゃないけど、これ使うか。」


そう言うとクオンも腰からマチューテと呼ばれる鉈のような剣を引き抜いた。

ちなみに俺達はクオンが剣で戦うところを見た事が無い、それでも大丈夫と思えたのだが。


マチューテを手にしたクオンを見てキッカが再び斬り掛かって来たが、相変らずクオンは躱し続けるだけだった。

どんな斬り掛かっても器用に躱し続けるクオンに更に苛ついてフォースを使い加速して斬りつけるキッカ。

その内、クオンが4回に1回ほどマチューテにフォースを込め躱しきれなかった剣撃を受け止めるようになった。


そのクオンの行動を見ていたメリッサが俺に言ってきた。


「我が弟子キッカは負けたな。」


「姉ちゃんも気が付いていたか。」


俺達姉弟だけでなくカミラもレイシアもゲイシーも気が付いていたように頷き、この勝負の終焉が近い事が明らかになった。


「なあ、もう勝負は俺の勝ちだ。剣を収めてくれないか?」


「ふざけるな、私は負けてはいない!」


そういうキッカだったが、周りが見てもフラフラの状態だった。

要はフォースを使いすぎたのだ、それにクオンは躱せなかったからマチューテで受け止めたわけでもなかった。

フォースを使わせるように誘っていたのだ。


確かにキッカは強い、だが経験不足だった。

それにフォースの使いどころを考えクオンのやろうとしている事を考え冷静に戦えば勝機もあったかもしれない。

だが、これが戦場ならキッカは死んでいるのだ。


そして勝負は終わった。

闘争心だけで戦い続けフラフラのキッカの足をクオンが払い、転倒させた上に喉にマチューテを突き付けたのだ。


「これでキッカの負けだね!」


そう言われたキッカが目に涙を溜め始めた時、メリッサの叱咤が飛んだ。


「泣くなキッカ、泣くくらいなら強くなれ!」


「はい・・・・メリッサ様。」


そしてクオンが三角座りする萌黄の前に立つとニコニコとしながら話し始めた。


「今日は、これで解散です。ゆっくり過ごして下さい。明後日から俺に部族伝統の楽しい合宿を実施致します。皆さん必ず生き残って下さい。それから俺の副官はセジルとキッカにやって貰います。では解散!」


萌黄の者達がクオンの強さは認めたような顔をしたが、それでも多少の違和感を見せながら解散していった、キッカもメリッサに肩を借りながら離れていった。


初日が、これなら上々だろう。


「クオン、もう誰もいないから気張らなくていいぞ!」


「兄貴、俺のカッコ良さ見てくれた?」


「ああ見たぞ!カッコ良かったぞ!」


「そうか良かった・・・・・」


グラッとクオンが倒れ込みそうになりゲイシーが支えたが立っているのが、やっとのようだ。


「やばかった・・・・・まさか、あれだけの剣の遣い手がいるとは思わなかった。」


「すまんクオン、あのキッカは俺の姉ちゃんの弟子らしい。」


「・・・・・そう言う事は早く言ってくれよ、兄貴。」


「・・・・・すまんクオン。」


実際、あれほどのキッカの剣撃を躱し続ける作業に精神をすり減らし体力も削られて当然なのだ。

ある意味、弓使いのクオンにとってはギリギリの勝負だったかもしれない。

それでも俺の為に余裕を演じてくれていたのだ。


「ゆっくり休めよ、クオン。」


「そうするよ、アベルの兄貴。」


クオンがゲイシーに担がれて宿舎とするシェリー・ヴェルデールの屋敷に戻っていった。


担がれるクオンを見て俺は自分の事に彼を巻き込んだことを後悔した。

死ぬかもしれない一騎打ちをクオンは俺の為にやってくれたのだ。


ありがとう、本当にありがとうクオン。


だが、そんなクオンの感謝の気持ちは呆気なく吹っ飛んだ。


その晩、俺はヴェルデールの3姉妹に誘われ夕食を共にした。

他にもパメラ・イーシスというアルベルタの重臣が同席したのだが、俺は彼女の事を記憶していた。


俺の学校時代の先生、ダレン・イーシスの奥さんだった人だ。


俺は義務としてダレン・イーシスとヒラリー・ヴェルデールの最後を伝える事になったが彼女達は涙を流しながらも毅然とした態度で聞き感謝の言葉まで俺にくれた。


このオービスト大砦に来てから俺は悲しい事ばかり話しているような気がする。


俺自身もアルやヘレンを失い、それでもリーゼとは確執も生まれたが生きて姉妹には会えたのだ。

その事に感謝し故人の最後は生き残った者の義務として伝えよう、そして俺が生き残るために力を貸してくれた仲間、特に今回自分の命を顧みず一騎打ちを演じてくれたクオンには感謝しよう。


そう思った時だった。


突然、女の悲鳴が屋敷中に響き渡ったのだ。


食事を供にしていた俺達が声の方向に向かうと声の主が尻もちを着き口を押えて目を見開きガタガタと震えていた。

声の主はカミラだった。


「カミラどうした?何があったんだ?」


カミラほどの剛の者がガタガタと震えるとは何があったんだ?

それに、この部屋はクオンの部屋じゃないか?クオンに何かあったのか?


その内にレイシアもゲイシーもやって来た。


部屋の中を見るとクオンが焦った顔をし呆然とパンツ一枚の姿で俺達の方を向いて立っていた。


「どうしたクオン・・・・・」


俺がクオンに声を掛けた時だった。


ベットの中から全裸の女の子が姿を現した、キッカだった・・・・・そして。


「・・・・・初体験の・・・・・」


泣きそうな顔をしながら言った。


「おま、おま・・・・・お前・・・・・この娘に何したんじゃああああ!?」


「違う、違う、兄貴、違うんだ!兄貴誤解だ!」


泣きそうな顔をしながら必死に弁解するが状況はどう見ても・・・・・


「クオン、僕は悲しいぞ!無理やりとは!」


ゲイシーが泣きながら平手打ちをしてクオンが吹っ飛んだ。


「違う、違うんだ、気が付いたら・・・・・」


「クオン、私の胸をやらしい目で見ていた事は気が付いていたけど、それに飽き足らず、こんな幼気な娘さんにまで!」


怒ったレイシアも飛び出して膝蹴りをし再びクオンが吹っ飛んだ。


「違う・・・・・寝てたら、この娘が俺のベットにいたんだ!」


「お前、この状況どう見ても・・・・・」


その時、キッカが慌てた様子、然も申し訳なさそうに俺達、その場にいた者達に言ってきた。


「一騎打ちの賭けが初体験だったので果たそうとして・・・・・。」


詳しく聞くと、シェリーの屋敷に侵入し更にクオンの部屋を探し出し侵入、そして寝込んでいたクオンに全裸で襲い掛かったらしい。

それから服を脱がされパンツ一枚になって逃げまわるクオンを追い掛けているところを騒ぎに気が付いたカミラに見つかったという馬鹿な話だった。


これにより屋敷の警備担当はシェリーに大目玉を喰らい、そしてキッカはメリッサに怒鳴り回され、俺達はクオンに土下座して謝る事になった。


ただクオンに思いもよらぬことがあった。


「クオン様、私と付き合って下さい!」


キッカからの愛の告白だった。


「良かったじゃないか、あんな可愛い娘から告白を受けるなんて!」


「兄貴、俺の心はジュリア様の物だ!」


「そうか残念だな、あのキッカだってもう少しすればかなりの美人になるぞ!」


クオンは今、どっちを獲るかで勝手に死ぬほど悩んでいる。








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