メリッサは87歳
その少女は俺の戸惑う心の都合など考えずにベラベラと日本語で捲し立てた、きっと過去は自己主義だったのだろう。
「えーと違うのかい、アベル!リーゼから聞いて、そう思ったんだけどねえ!」
「・・・・・貴女、誰ですか?」
久しぶりの日本語でやっと答えたのが、こんな間抜けな言葉しか出ない俺。
「ほう!やっぱり転生者か!私だけだと思っていたよ!」
「え、ええ、ええええ?」
「そりゃ戸惑うわな!自己紹介といこうか!私の名は『山下花子』、今年で87歳、〇〇県〇〇市出身、家族は夫がいたが離婚して私が死ぬ3年前に癌で死亡、娘も1人いたが結婚して1人暮らし、趣味と生きがいは『剣道』、死因は・・・・・」
聞いていて頭がパニックになってきた。
「・・・・・もういいです、ちょっと待って下さい!」
「おやおや、アンタまだ慣れてないのかい?この世界に?」
「いや・・・・・貴女・・・・・メリッサですよね?」
「そうだよ、メリッサだよ!でも転生前の話をしてるんじゃないか!」
「いや・・・・・兎に角、順を追って話しましょ!」
まず、どうして俺を転生者だと気付いた理由からだ。
簡単だった、まず元々普段の俺を見ていて生まれて来て時から妙に観察したがる気色の悪いガキだと思っていた事。
それからリーゼから聞いた話からだ、お昼寝をしていたリーゼが夢で魘されていて一瞬だけ『トラック』と『デブ』と日本語を発したらしい、起こして夢の内容を聞いたら兄たん(俺)と内緒にしているという。
「兄たんと約束したから言えない!」
「じゃあ姉たん(メリッサ)にはヒントだけ頂戴!でないと姉たん泣いちゃうな!」
そこからはリーゼを誘導尋問みたいにして聞き出したらしい・・・・・
リーゼは転生者とはいえ俺と違い生前の記憶が殆んど残っていないから本来の子供と変わりはない、仕方ないか・・・・
「そこから考えたんだよ、どうしてアベルにとって秘密にする必要があるのかを!」
「必要ってどういう意味ですか?」
「まだ小さいリーゼが、あんな話しても普通なら単なる夢って事で終わらせるはずなのに、アンタは
そうしなかった、いや隠そうってした、話されるとアンタにとってもリーゼにとっても都合が悪いんじゃないのかって思ったんだよ!」
「・・・・・なるほど」
「理由はアンタ自身が、リーゼの夢に関係してたんじゃないかってね!じゃあ関係してたなら『トラック』『デブ』なんて言葉から、もしかしたらアンタも日本人で転生者って事になるんじゃないのかって考えて聞いたのさ!」
・・・・・・鋭い、ここまで感づかれたなら仕方がない、メリッサに転生前の俺とリーゼの転生前の黒髪美少女の事を全て話した!
話す方がいいかもしれない、そうとも思った、何故なら俺自身理解出来ていない事を相談できる相手がいたほうがいい。
「お前さんはリーゼに殺されそうになったのかい!それで転生したら妹って!そりゃ大変だね!」
「はい、でも俺も転生前がクズでしたから・・・・・まあやり直せればって思ってた訳ですから別にリーゼに恨みとかは・・・・」
「ああ、その方がいい!なんにせよ仏さまがお前さんを、この世界に導いて下さったんだよ!」
聞き終えるとメリッサは質問をしてきた。
「ところでアンタ、生前は煙草吸ってたかい?銘柄は?どうやって火を付けた?」
「え?はい吸ってました!銘柄はマ〇ボロメン〇ールでライターで普通に着けてましたけど!」
「じゃあ、そのマ〇ボロってのはどんな箱に入っていて、ライターってのはどんな感じに火が付いたんだい?」
「・・・・・あれ?どんなのだけっけ!、ライターは・・・・あれ・・・・・?」
「やっぱり私と一緒で大まかな記憶は残っていても、それがどういうものかとは思い出せんか」
初めて気がついた!そうだ!メリッサの言う通り大まかな事を覚えていても霞がかかったみたいに肝心な事が思い出せない。
それにライターにしても、それを使っていた事は覚えていても機能や仕組みなど機械的な事は思い出せなかった。
「やっぱり、そうかい!こっちに来てから私も台所のコンロとか、どんな物だったか思い出せないんだよ!
娘や孫にしても存在は何となく覚えてる、でも、そういう顔とか具体的な物は思い出せないんだよ!」
「でも、さっき『面』とか『籠手』とか言ってましたよね!剣道は覚えてるんですか?」
「習慣というか修練したものは、頭より体が覚えているみたいだね!、ただ竹刀と防具とかは名前だけで具体的には覚えてないね、残念だけど・・・・」
色々とメリッサと話して、これからもお互いに転生前の記憶について調べる事にした。
想い出せる事があれば役に立つとかあるかもしれない、そんな考えからだ。
「あのー、メリッサさん・・・・」
「アベル・・・・それだよ!」
「はあ?それって?」
「アンタは、この世界では私の可愛い血の繋がった弟のアベルなんだから『さん』は無し!
それにリーゼに生前の記憶が無いって事は私達とは別の転生の仕方をしているだろうから、ここでしたような話はリーゼにはしない!あくまで『姉』『兄』で接する事、アルもヘレンにも父母として接する!絶対に忘れちゃあダメそれに私は、あの2人が気に入っている、親は大事にせんとな!」
ヘレンもアルが気に入っている点は俺も一致する、しかしそう思うと気の毒にも思う・・・・・
自分達の可愛い子供達の中身が『キモオタ』と『婆』と『殺人犯』なのだから。
「はい、でも最後に1つ!メリッサさ、メリッサ姉ちゃんもトラックに轢かれて転生したんですか?」
「いや、脳梗塞!」
「・・・・・そうですか、はい!」
「しかし死ぬ前に何時も考えていた事があった、私の場合はそれが原因かもな!」
「原因というと・・・?」
「生まれた時から剣道・弓道、一筋に生きてきた、全日本の大会でも優勝した自分の腕が実戦で通用するのかを常々考えていた、きっと仏様が願いを叶えて下さったと今は思っている」
「・・・・・なるほど」
なんて危ない婆だ!しかし俺の場合とはかなり違う、俺の場合は『逃げたい!』が優先事項だったから、こんな前向きな人も異世界転生するのかと不思議に思った。
しかし、この婆・・・・ネトゲで言ったら『PK』かよ・・・・どんなネトゲにでもいるんだよなあ。
「でもメリッサ姉ちゃんは前の世界の家族、娘さんに会いたいとか思わないのですか?」
「娘は立派に家庭を営んでいる、あの世界での私の役割りは既に終えてている!後悔や無念はない!」
「強いですね・・・・メリッサ姉ちゃんは・・・・」
「なんだアベルは前の世界で後悔を残しているのか?なら、この世界でやり直せ!それだけの事だ!」
「はい頑張ります、もう後悔はしたくないですから!ところでメリッサ姉ちゃん、お願いがあるんですけど・・・・」
「なんだ姉弟ではないか!遠慮せずに言ってみろ!」
「そのフォ―スについてメリッサ姉ちゃんが知っているだけで良いので教えて欲しいのですが?それと出来ればで良んですが、出来れば剣道を少し教えて頂けたら嬉しいのですが・・・・・この世界に魔法とか無いみたいですし、せめて身を守れるようにはなりたいのですが・・・・・」
いずれは『ビキニアーマー』のお姉さんたちに会いに行きたい!
そうなると旅をすることになる、少しは剣術も学んでおかなければ!
「おお!良い心がけじゃないか!学ぶことに貪欲になる!素晴らしい事じゃないか!」
「お願いできますか!」
「おお!もちろんだとも、姉弟に遠慮などいるか!まずは素振りでもやってみよう!」
「よろしくお願いします!」
メリッサから手取り足取り教えて貰い、剣に見立てた棒を10回ほど振ってみた!
「アベル、私は指導に対しては単刀直入をもっとうにしている。だからアベルに対してもはっきりと言う」
「なんでしょうか?メリッサ姉ちゃん!」
「申し訳ないのだが・・・・アベル、お前にはまるで剣に対しての素質が無い!しかし頑張ればママさん剣道レベルには到達する事は出来るだろう!」
「・・・・・ママさん剣道ですか」
「うむ、私が教えていた主婦で露出魔を退治した猛者もいたから頑張れば、そのレベルには到達できるぞ!」
「・・・・・露出魔ですか」
どうやら俺には剣術の才能はないらしい、残念だ・・・・
「あ、アベル、フォ―スの件なんだけど、これは私自身の考えだから悪く思わないでくれ!
恐らくだがフォースは先天性と後天性があって私やリーゼみたいに生まれた時から自然に発動するのが先天性でアルみたいな切っ掛けがあって発動するのが後天性だ!だからアベルの場合は残念ながら後天性になるのかと・・・・まあアルの血を引いているから期待出来ると思うぞ!あくまで期待だが・・・・・」
「・・・・・あくまで期待ですか・・・・・ってかリーゼ使えるんですか?」
「知らなかったのか!?御飯食べてる時に固いチーズを切るのに使ってるじゃないか!ナイフにフォ―ス送り込んで!」
どうやら俺にはフォ―スの才能もないらしい、更に残念だ・・・・・
それにリーゼが使えるなんて・・・・・