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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第7部 ケンゲル王国侵攻戦~テアラリ島3部族同盟交渉編
89/219

仕官

ポテル山脈を越え眼下にカルム王国が誇る天然の要害オービスト大砦が広がり俺の心の中は複雑になった。


ほぼ1月前、リーゼがルシアニア公国に旅立ち、そして俺の為に追っていったラウラとラシムハ。


全ては俺が原因だ・・・・・そんな想いが支配したところに眼下に広がるオービスト大砦である。


ほぼ7年前、俺はオービスト大砦に辿り着けずイグナイト兵に捕まり奴隷剣闘士にされた。


あの時に俺が辿り着けなかったオービスト大砦が目の前に広がっているのである、複雑だった。


「アベル・・・・・おかえり。」


そんな気遣った言葉を掛けるメリッサの目には涙が溢れていた。


「ああ・・・・・ただいまメリッサ姉ちゃん。」


この姉は、俺がイグナイト兵に捕まった時はどんな気持ちだったのだろう。


そんな事を考えると、より気持ちは複雑になる。


この姉は幼いリーゼを守る為に、どんなに苦労しただろう、自分の危険を顧みず戦い続けたのだろうか。


もしかしたら奴隷剣闘士された俺なんかよりも、よほど辛い立場にいたのかもしれない。


申しわけない気持ちになった。


俺は、そんな姉を役目とはいえ殺そうとしたのだ。


リーゼが俺を恨むのも無理はない・・・・・当然だ。


そんな俺の気持ちを無視するようにアルベルタが俺に声を掛け奇しくも、より複雑にさせるような事を言ってきた。


「アベル殿、貴方を待つ者が後2人いる。」


「誰ですか、その2人って?」


俺が質問するとアルベルタとメリッサが同時に暗い顔をし、メリッサが言い辛そうにするアルベルタを気遣ってか先に言葉を出した。


「私の姉さま2人だ。」


「メリッサ姉ちゃんの姉さま?」


「ああ、シャリー・ヴェルデールとジュリア・ヴェルオール、私の姉さま2人だ。」


2人の名前を聞いて理由が分かった。


俺のカムシンか。


カムシンは元はジョン・ヴェルデールの愛剣だった。

即ちシェリー・ヴェルデールとジュリア・ヴェルオールにとってはカムシンは父の形見になる。

俺が現在持っているという事でジョン・ヴェルデールが死んでいた事が2人に報告され判ったのだろう。


「すまないアベル、その剣を知っていた者が私の部下にいて・・・・・」


「そうか・・・・・姉ちゃん気にする必要はないよ。いずれは身内の人に返そうと思っていたんだから好都合だ!」


「そう言って貰えると助かる、アベル。」


そして俺達はオービスト大砦に着き直ぐにシェリー・ヴェルデールに謁見室で会った。

ジュリアは残念ながら急遽起こった盗賊の襲来の討伐に2日前に出掛け鎮圧し只今オービスト大砦に帰途途中らしい。


「アベル殿の事はアルベルタ陛下からの伝令により御聞きしております、お疲れのところ申し訳ないが父の事を御聞かせ願いたい。」


俺は2人にとっては辛い報告をすることになった。

闘技場でウルク20匹と戦い、そこでジョン・ヴェルデールが無残に殺され俺にカムシンを託した事を。


「ありがとうございましたアベル殿、我が父ジョン・ヴェルデールが死に様を聞けて幸いです。」


そんな俺に気遣った言葉をシェリーが言い、そして俺の父アル・ストークスの死に様を俺に聞かせてくれた。


初めて聞く父アル・ストークスの死に様に俺の目から涙が零れた。

涙と同時にアルの想い出が頭の中を駆け巡った。


禿で酒飲みで家族想いで戦いが嫌いだったアル、その父が家族の為に戦って死んだのだ。

もう一度会いたかった。


そんな父の想い出が駆け巡り、よりカムシンを2人に返さなければならない気持ちが強くなった。

もう会えない父の思い出の品なのだ。


「シェリー様、このカムシンをお返し致します。」


「いえアベル殿、そのカムシンは父が貴方に託した剣、これからも貴方が持っていてください。」


そう涙ながらにシェリーは言ってくれ、改まって俺に言ってきた。


「それからアベル殿、貴方も『ヴェルサーチ』と改められてはどうだろうか?

御聞きすればテアラリ3国の共通騎士と伺いました。分家とはいえヴェルサーチ家も由緒正しき家柄、これからの貴方の任を考えても、その方が・・・・・」


「お気遣いありがとうございます。ですが私1人くらいは『ストークス』を名乗ろうと思います。」


「これは浅はかな事を言いました、お許しください。ですが姓は違えど貴方は我らの弟も同然、力を貸せる事があれば遠慮なく。」


「ありがとうございます、シェリー様。」


「それでは、お連れの方々を紹介して頂けると幸いなのですが。」


そうシェリーに即されて俺は仲間を紹介する事にしたが、クオンの時に大慌てになった。


この時未だ一時的でもアルベルタの騎士になる事は承諾しておらず不貞腐れた顔をしているのだ。


しかしシェリーの反応は違った。


「おお貴方がクオン殿か。若い弓使いが新たに我々の列に入ると聞いてはいたが、これほどまでに御若いとは、頼もしいかぎりです。」


どうやらアルベルタはクオンの承諾も無しにカルム王国の騎士になったと勝手に連絡していたらしい。


「いえ・・・・・俺はまだ騎士には・・・・・」


そうクオンが言おうとした時、勢いよく扉が開き黄色の鎧を着た美しい女性が入って来た。


「女王アルベルタ陛下、遅参の義御許しを。ジュリア・ヴェルオール只今帰還いたしました。」


そこから俺は再びジュリアにジョン・ヴェルデールの死と仲間を紹介する事になったのだが、何故かクオンの返答が明らかに違うのだ。


「おお貴方がクオン殿か。若い弓使いが新たに我々の列に入ると聞いてはいたが、これほどまでに御若いとは、頼もしいかぎりです。」


と、ジュリアもシェリーと全く同じ事を言ったのにクオンの返答は全く違うのだ。


「これからジュリア様と戦列を並べる事を光栄に思います!一層の忠誠をジュリア様に御誓いしジュリア様の為努力させて頂きます!私クオンの武勇をご覧あれ!ジュリア様!」


その場にいる誰もが固まった、クオンに忠誠を誓われたジュリアでさえも・・・・・

ニコニコとクリッとした目を最大限に輝かせ自分をアピールするクオン以外は・・・・・


「すみませんけど、ちょっと御時間を・・・・・・」


俺は大慌てでクオンの襟首を掴み、その場から退出を余儀なくされた。


「おいクオン、お前何言ってんの!?」


「はあ・・・・・何が兄貴?」


「お前が騎士になるなら忠誠誓うのはカルム王国と女王アルベルタ陛下だろうが!何でジュリア様なんだよ!?」


「兄貴・・・・・俺、惚れちまったよ。」


「はあ・・・・・まさかジュリア様にか!?」


「そうだよ、俺の理想通りの人だ・・・・・あの麗しい顔、あのスタイル、流れる金髪・・・・・」


「でもクオンより10歳以上は歳上だぞ・・・・・」


「兄貴よ・・・・・だからアンタは女に甘いんだ、愛に年齢なんて障害じゃねえ。」


「そうなのか・・・・・。」


そんな2人のやり取りをしていると何故かゲイシーまで謁見室から出て来てクオンに最悪にも肩入れしだした。


「クオン、愛する人を想う気持ち僕にも分るぞ!」


「さすがはゲイシーのオッサンだ、大人だね!」


愛について語り握手する馬鹿な2人を見て思い付いた。


「でもクオン、惚れてます!だけじゃあ女は着いて来ないと俺は思うぞ。」


「どういう意味だ、兄貴?」


「要は、お前に何も実績が無いって事だよ。」


「実績?実績って何だよ?」


「考えてみろよ、俺達は萌黄とかいう奴らを鍛えにカルム王国に来たんだ。その萌黄の仮でも司令官になる為にクオンは一時的にでも女王アルベルタ陛下の騎士になるんだ。その萌黄とかいうのを強くするのが実績だと言ってるんだよ。」


「じゃあ萌黄とかいうのを強くすれば実績になるんだな?」


「ああ、それから後は武勲だな。相手は貴族だ、武勲も無しなんて相手にもされないぞ。なあゲイシー。」


「うーん確かに、そういう魅力も必要だな。」


「分かったよ、俺やるよ、実績と武勲を上げるよ、そして絶対にジュリアを俺の嫁にしてやる!」


まあ単純で馬鹿な発想だが、どうやら騎士として仕え、そして萌黄を鍛えるという実績作りには納得したようだ。

だが再びクオンを女王アルベルタの前に謁見させ忠誠を誓わせたのだが・・・・・・


「先程はジュリア・ヴェルオール様の麗しい御姿に感銘を受け取り乱し失礼しました。このクオン、女王アルベルタ陛下の為、カルム王国の為、何よりジュリア様に認められるよう粉骨砕身致し忠誠を誓う所存にございます。」


女王アルベルタに忠誠を誓いながら、しっかりとジュリアに自分をアピールしやがった。


一瞬眩暈に襲われたがアルベルタが大笑いしながらウンウンと頷き、周りの者達も笑っているから良しとしよう。


それからドルマとラージの紹介が行われ、ラージが重臣達の列に並びドルマが侍従としてアルベルタの横に並んだ。

アルベルタの横に並ぶドルマが俺に申し訳なさそうな目を向けたが笑顔で返し安心させた。

アルベルタが言った通り俺の妹リーゼは武人として仕えるのだ、そして俺は妹を助けるために萌黄とかいうのを鍛える役目を負ったのだ。

今は、それだけを考えよう。


そんな事を考えているとアルベルタに向かいシェリーが何か小声で囁き始め俺達の方をチラッと見た。


様子から他国の関係者である俺達には知られたくない国事に関係ある要件だろうと思いカルム王国騎士になったクオンを残し退出しようすると恐らくワザとだろう、カルム王国での俺達の立場を強調するように大きな声で宣言した。


「アベル達に隠し事をする気など毛頭ありません。シェリー、気兼ねなく言いなさい。」


そう即されてシェリーが頷き、そして1人の女性を謁見室に招き入れたのだ。


その女性はアルベルタの前に立つと、ほぼ土下座に近い態勢をとり挨拶を始め名乗り始めた。

その名は居並ぶカルム王国の重臣達には驚きの名前だった。


「女王アルベルタ陛下、お初に御目に掛かります。私の名はマーア・インサイト、かってのオービスト侵攻戦の折にケンゲル王国軍の最高指揮官を務めた者にございます。」


メリッサを含む重臣たちが驚愕の表情を浮かべる中、マーアが更に驚愕する言葉を並べ始めた。


「女王アルベルタ陛下、是非とも我がケンゲル王国を滅亡させて頂きたい!」


それからマーアは現在のケンゲル王国の様子、そして自分の所領に軍勢に攻め込まれ領民を皆殺しにされた事を話した。


だがアルベルタは明らかに疑いの目を向け聞いており、顔は憤怒に似た表情を浮かべていた。


「マーア・インサイト、オービスト大砦に攻め込もうとした身ながら、よく我が前に来れたな。」


「それについては弁解も致しません、私の話を聞いて頂いた後に拷問なり処刑なり好きなされよ。」


「話を聞く前に私は疑問に思っている。お前が本当にマーア・インサイトで、これが私を暗殺する手段ではないかと云う事をな。」


そうアルベルタが怒気を混じった言葉を吐くとマーアも驚きの行動に出た。


いきなり着ていた平服の胸元に両手をやると引きちぎり胸を露わにさせるとズボンを脱ぎ下着を脱ぎ捨て全裸になったのだ。


「今の私には、このような行動しか自分自身と殺意無き事を証明する手段がありませぬ。」


そんなマーアが顔を更に床に額を擦り付け懇願の声をアルベルタに上げた。


「女王アルベルタ陛下、何卒ケンゲルの民を救って頂きたい、民の恨みを晴らして頂きたい!」


「では聞くが、どうしてイグナイトに頼まない?イグナイトの方が現実的ではないか?」


「イグナイトと我らケンゲルはオービスト大砦侵攻戦で物別れに終わっております、ですから・・・・・」


「マーア・インサイトを名乗る者よ、お前嘘をついておるだろう!?それを言えば我らカルムとて同じではないか?」


「失礼しました、恥ずかしい話ですが私自身にイグナイトには信用が無いからです。それに私はイグナイトとは相性が悪い。」


「なるほど。で、ケンゲル王国を制覇した暁にマーアは何を望む。」


「何も望みません、ただ虐げられたケンゲルの民を御救い下されば結構。その後私は処刑でも自害でも命ずるままに。」


そう額を更に擦り付けながら頼むマーアを見てアルベルタは表情を一変させた、ニコニコした表情しているのだ。

恐らくはワザとマーアを試す為にしていたのだろう、そして信用したのだろう。


全裸のマーアに近づきアルベルタが着ていたショールを被せ、そして言った。


「ではマーア・インサイト、お前の望みは理解した。近日中にケンゲルに向け軍を挙げると約束しよう。」


「ありがたき幸せ、その言葉で十分にございます。これで安心して死ねます。後は女王アルベルタ陛下の御好きなように我が身を!」


「そうか、ではマーア・インサイトよ、我が戦列に並べ!」


「はあ、ですが私は・・・・・」


「今は過去の事など語っても仕方がない、未来をどうするかだ。それにケンゲルの最高司令官を務めたほどの者がケンゲルに何もせずにオービスト大砦に来たという事はあるまい。」


「お見通しでしたか、現在私の同志達がカルム軍が攻め入り次第、発起する準備を進めております。」


「あい分った、でだ、まだ戦列に加わるか返事は聞いていないのだが?」


「御意に従い生涯の忠誠御誓い致します。」


こうしてマーア・インサイトのカルム王国への仕官とケンゲル王国への侵攻が決定された。

だが、それは俺にも関係がない事とは言えなかった。


「アベル殿、先に御話したケンゲルへの侵攻がかなり早まりました。すみませんが1ヶ月で萌黄を強くして下さいね!」


アルベルタが俺の方を向いてニコニコとしながら言ってきた。


どうしろって言うんだよ、それ無理だろ・・・・・・。
















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