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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第6部 ルシアニア公国編
79/219

嫌い

この『キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹』に登場するエルゾネとエリデネが紛らわしいとの御指摘があり、エルゾネから『テムルン』と修正変更しております。ご了承ください。

人間には我慢出来ない感覚が幾つか存在する。


身体の外部からくる、寒さや暑さ。


そして身体の内部からくる痛み、くすぐったいなどと色々とある。

だが一番耐え難いのは、痒さである。


その痒さに耐えられずリーゼが作成した皮の全身スーツを脱ぎラウラは寒さに耐えながら走る犬ソリに乗っていた。


着慣れた毛皮のコートを着てはいるが猛然と起こる冷たい風は防げず時折コートが捲れ豊満な胸を晒しながら寒さに耐えているのだ。

寒いよりも皮の全身スーツからくる蒸れによって発生する痒さの方が辛かったからだ。


だが、その豊満な胸を見て実に嫌そうな顔をする者がいた。

グランデルを一緒に倒しに行く事になったボルドである。


コートが捲りあがる度に豊満な胸が出現する光景に男なら喜びそうなシュチュエーションだがボルドは豊満な胸が嫌いなのか露骨に嫌そうな顔をする。


ラウラも、そんなボルドに良い印象は持てなかった。


アベルなら喜んで見てくれるのに!

あまり自らの体躯を自慢するタイプではないラウラでさえ、そんな感情が起こっていた。


ラウラの生まれたテアラリ島の女達は良い男を求め強い子を産む。

どんなに強くとも自分に魅力が無ければ男は振り向かず、そして子を産めない。


そういう感覚が当たり前のテアラリ島で育ちながら、それについて嫌悪を持つラウラでさえ不可思議だが多少は持ち合わせている。


女は強く美しく!


それはテアラリ島3部族のある意味誇りだ。


だがボルドは自分の胸を見て嫌悪感を抱いているのだ。


やはり、こいつはアベルではない。


改めて、そう思ったが今はグランデルを一緒に倒しに行く仲間である。

そして自分にはボルドを拒否する資格は無いのだ。


何故なら自分はボルドに完膚なきまでに負けたのだから。


リーゼがボルドとテムルンと食事を楽しんだ次の日に改めて2人を紹介された。

色々と話して最初に自分が感じた危険な雰囲気は無かったが、ボルドとテムルンの強さは如何程?との懸念が存在した。


グランデルとの戦いにおいて足を引っ張られる事は避けたいのだ。


「失礼だが2人の内1人と手合わせを願いたい。正直に言うと足を引っ張られて死にたくはないからだ!」


失礼とも言えるラウラの言葉にリーゼは焦りラシムハは当然というような顔をした。


グランデルというのが、どんな強さなのかは分からないが2人が弱く足を引っ張られては勝負にもならない。

そんな状況は避けたく、そして弱い者が死ぬ必要の無いところで死ぬのは避けたかったからだ。


そう言われたボルドはニヤニヤとしテムルンはフードを被ったままだが、面倒臭い!と態度と雰囲気から表現しているのが見てとれた。


「じゃあ俺が手合わせしよう。俺とテムルン姉さまは同等だと思って貰って良い。」


そして戦う事になったが、ハブーブを抜き構えるラウラにボルドが言った。


「怪我はさせたくない。棒切れか何かでやろう。」


ボルドには完全に負ける事など頭に無く、あるのはラウラを気遣う余裕の態度だった。


テアラリ島3部族の人間が相手に気遣いを受けたのだ、要は相手から弱いと認知されたのだ。


テラン族の誇りを傷付けられたのだ。


「良いから抜け!そういう余裕のセリフは私を倒して証明しろ!」


怒り猛然と打ち掛かったラウラにボルドは剣は抜かずに身を躱し対処し時折隙を見つけては肩や頭などをポンと叩くだけで遇らうだけであった。

舐められているのだ。


こいつ、私を馬鹿にしている。


ラウラの怒りが頂点に達しようとした時、ボルドが一言言った。


「中々動きの良い戦士だ。だが、どうしても俺に剣を抜かせたいなら殺す気で来い。」


ボルドから怪我をさせたくないとの感情は消え去っていた。

ラウラの動きに興味を持ったのだ。


「・・・・・なら後悔するな、殺してやる。」


そう言ったラウラの雰囲気が変わった。

あのムフマンド国でマンティコアを倒した野獣のような雰囲気に一変したのだ。


そのラウラの一変した雰囲気から感じ取ったのかボルドの顔つきも変わった。

ニヤニヤした顔つきは消え去り代わりに不気味に笑う顔つきになった。


「こいつ・・・・こんな時の顔までアベルと同じか・・・・・!?」


そう思ったのも束の間だった。


「お前は俺を楽しませてくれそうだ・・・・・今度は俺から行こう!」


そう言ってボルドが自ら突っ込んで来たのだ。

防御とか警戒とかは無い、ただ殺傷する!それが目的のように無防備に突っ込んで来たのだ。


そして踏み込みの速さは常人とは段違いの速さだ。


あっという間にラウラの間合いに侵入し剣を繰り出してきた。


一刀を自由自在に操る剣撃を繰り広げラウラに攻勢の隙を与えない。

乱暴な剣撃の中に隙を見出せない。


そんな攻勢にラウラが防戦一方になった。


やがて、そんな攻勢の中に首への隙を見出したが、これは誘いだ!という事を勘づき自分も防戦の中に僅かではあるが胴への隙をワザと作り誘ってみる事にした。


だが、その隙を見出したはずのボルドが攻勢を止め、そして後方に飛び退いた。


「思った以上だな、誘いにも乗らず逆に誘いを掛ける。良い戦士だ。」


こいつ気付いていたか‥‥‥


そんな言葉を吐きながら次の瞬間、ボルドがラウラに言った言葉はリーゼとラシムハを驚かせテムルンを呆れさせた。


「お前‥‥‥誰かに仕えているのか?仕官していないなら俺の部下にならないか?」


ラウラの動きと強さにボルドがスカウトを掛けたのだ。


「ふ、ふざけるな!」


自分はテラン族の戦士なのだ。

自分が守るべき人は姉のホリー・テランなのだ。

もし他に誰だと聞かれれば間違いなくアベル・ストークスと答えるラウラにとってはボルドのスカウトは最大の侮辱となった。


怒りに我を忘れたラウラが今まで以上の速さと力強さでボルドに襲い掛かった。


その剣撃はボルドでさえ片手では受け切れず両腕の力を使って尚、体幹を崩された一撃だった。


バランスを崩し上下に崩れるボルドの胴に払いの一撃を加えようとしたラウラの両腕に肉を斬る感覚は伝わらず鉄がぶつかり合う感覚が伝わったと同時に自分の首にも刃が当たる感覚が伝わった。


ボルドは上下に身体がブレたと同時に左手でもう一本の剣を抜きラウラの胴への一撃を受け止め、そして右手に残る剣でラウラに首への一撃放っていたのだ。

但しこれは寸止めだったのだが。


「これで俺の勝ちだ。その気だったら首は離れていただろう。」


ラウラの負けが決定した、ボルドの言う通りなのだ。

ボルドが本気ならラウラの命は無かったのだから。


「どうだ⁉︎納得して貰えたか?もしかしたら俺よりテムルン姉さまの方が強いかもだがな。」


「ああ、私の負けだ。お前の方が強い。」


「そうか納得して貰えて良かった。」


笑顔を見せるボルドと対照に、ラウラは怯えていた。


負けた事には自分がボルドより弱かった、それだけだ。


しかし問題が残った。


それは母のノーマ・テランと同じ状況がラウラを襲っているのだ。


自分に勝った者を相手に子供を作らなねば誇りは守れない。


アベル‥‥‥すまない。

私は、この男に抱かれなければならない‥‥


自分の初めての相手は、いやアベルだけに身体を捧げたかった。


そんな想いと恐怖がラウラを支配したがテラン族の誇りを守る為には逃げられない。


「ボルドといったな。テラン族の誇りを守る為に私を今晩抱け!」


勇気と悲しみなどが入り混じった必死な言葉にボルドが焦りの顔を見せた。


気付いたラシムハがボルドに説明したが予想外の言葉がラウラに向けられた。


「ゴメン‥‥‥俺‥‥‥その巨乳は気持ち悪いんだ‥‥‥だから勘弁してくれないか」


男なら誰もが振り向くラウラの身体をボルドは断固拒否したのだ。


更に聞くと、どうやらボン・キュ・ボンの身体よりもスレンダータイプの方が好みらしい。

この点は髪の色と一緒でアベルとは全くボルドは違ったのだ。


結局ボルドからの提案で、これは戦いではなく試合だ!という事で落ち着いたのだった。

勝った本人が必死に言うのだから仕方がなかったのだ。


そして現在、寒さに耐えながらラウラは犬ソリに乗っている。


アベルなら喜んで見てくれるのに・・・・・


そんな感情がラウラを支配した時、それを見たボルドが勘付いたかのようにラウラに聞いて来た。


「なあ、これは俺の予想だが、お前もしかしてアベルの女か?」


そう聞かれたラウラは照れたが勇気というか願望をボルドに言った。


「アベルが私を愛していると信じたいだけだ!」


「そうか、お前はアベル・ストークスの女か・・・・・じゃあ諦めるか。」


そう言うとラウラから視線を外し自分の胸は極力見たくない、そんな態度だ。


そんなボルドの態度に、早くアベルに会いたいと思うラウラだった。


同じ顔、同じ体格でもアベルとは全く違う、私はボルドが嫌いだ。


ラウラの態度に感じ取ったのかボルドがニヤニヤしながら言ってきた。


「お前の体躯は正直に言って俺には気持ちが悪い、だが戦士としての能力は信用出来そうだ。だから心強いと思っている。部下に出来ず残念だがな!」


そしてラウラは思った。


私は、こいつが嫌いだ!


だがボルドと同じで強さの一点だけは十分に信用出来そうだ。


そしてアベルに一刻も早く逢いたいと思うラウラだった。


しかし、この時ラウラは気づかず、そして近くで聞いていたはずのリーゼすら気づいていなかった。


ボルドは『アベル・ストークス』と言ったのだ。


誰も『ストークス』とは告げていないのだ。


それはボルドだけが知る事実。


彼には単に自分の人生に何故か付きまとう不可解な人物と思っている事にリーゼもラウラも気づいていなかった。


いずれボルドとアベルが壮絶な殺し合いを演じる事になるとは、この時は気づかずリーゼもラウラそしてラシムハも当の本人のボルドすら、それを知らずに現在は共にグランデルを倒しに行く仲間なのだ。


ただ、この時はラウラには嫌いなヤツだが少なくとも頼れる仲間とだけしか思っていなかった。


そんなラウラとボルドを見てテムルンは欠伸を浮かべ怠そうに見ていた。

いずれ自分と瓜二つのメリッサ・ヴェルサーチという存在と壮絶な殺し合いを演じる事になるとは『現在』の彼女は知らずに。


そして彼らは目的の湖に着いた。





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