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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第6部 ルシアニア公国編
76/219

契約

少し肌寒い早朝を村の入り口に掛かる小さな橋の構造を調べ川の幅と深さを測り、村のメインストリートとなる道の幅を測る。


「あの家の屋根からなら村全てを見渡せそうだ、後でリーゼにも見て貰っておこう。」


一つ一つ入念に調べ自分が定めた作戦への成功確率を上げる作業を重ねていく。


「こんなものでいいかあ。あの2人も起こさないといけないから。」


ラシムハは自分自身が納得したところで2人が待つ大きな木の下に向かって歩き出した。


途中、葦が多数に生えた河べりを確認しながら歩いて30分程で到着したが1人は起きていたはいたが寒さでガタガタと震え昨夜の残りのスープが入った鍋を温める焚火に陣取り、もう1人は昨夜3日ぶりに食べた食事の為か未だにぐっすりと惰眠を貪っていた。


「ラウラさん、これを終わらせて街に着いたら、その露出の多い装備を改めないと。」


然程の寒さではなくビキニアーマーとはいえ重厚な毛皮を羽織っていても震えるラウラに言ってみたが、返って来た答えには呆れる他はなかった。


「寒いくらいで戦士が誇りを捨てられるか!」


実際、寒くて震えているのにどうするんだ?と思いながらも、どこかで『誇り』とやらと折り合える中間地点を探して何とかしなければと思うラシムハだった。


そして惰眠を貪っていたリーゼが起きてきた。

リーゼは辺りを寝ぼけた目で見回しラシムハを確認した10秒後には焦った顔になった。


焦ったというよりも、どうラシムハに話し掛ければ良いのか?という感じだ。


「あの・・・・・その・・・・・」


「そんな気は使わなくていいから顔を洗って朝食をしっかり食べてくれるかな!アンタには今晩働いて貰うんだからね!」


そう言われたリーゼも強気なったのか以前に喧嘩をしたラシムハには負けたくないと思ったのか引き攣った顔で言う。


「わ、分かってるわよ!」


強気の、勿論だが急遽作った表情を浮かべて逃げるように近くの川に顔を洗いに行った。


強情な子‥‥と思うが自分も強情なのだから仕方がなかった。


しかし仲間に引き入れる事には成功したが未だに信頼関係は構築出来そうにない。

盗賊退治が終わって、さよならでは意味がない。

難とか信頼関係を構築し旅の仲間にならなければならないが良い案も浮かばない。


どうしたものか?


それにリーゼの弱点を何とかしないと。


考えれば考える程、案が浮かばないラシムハだった。


「そう心配するな、一緒に食べて一緒に戦えば直ぐに仲良くなれるさ!」


ラシムハの表情から読んだラウラが言うが、気楽な人だ‥‥としか思えなかった。

だが確かにラウラの言う通りでもある。


一つの事を一緒にやり遂げれば連帯感も生まれるから、それを頼りにしていかなければならないのだ。

今更、悩んでも仕方がない。

今は盗賊退治をして、それから考えよう!

そう思う事にした。


リーゼが戻ってきたので早速食べながら作戦を説明する事にしたが、2人とも納得した顔をせず疑問だらけの顔だ。


「何が疑問とか不明な点がありますか?」


そう言うと2人が聞いて来た。


「暗闇の中で弓を撃てって言うの?多少の遠距離でも自信はあるけど暗闇の中じゃどうだか。」


「いくら私でも約80人の中に飛び込んで1人で戦うのは辛いぞ。」


そんな2人の疑問だったがラシムハはニッコリとして答えた。


「まずリーゼの疑問から答えるけど相手だって深夜の暗闇に襲撃に来るから必ず松明を持っています。その松明に向かって矢を射て欲しいの。そうすればどうなる?相手は闇に慣れていない状態で光と目印を失うからパニックになる。その時に盗賊達の後方からラウラさんが飛び込んで倒して欲しいんです。」


「だが私とて暗闇は一緒だぞ⁉︎」


「だからラウラさんとリーゼには盗賊達が来るまで、これを着けてもらいます。」


そう言って小麦袋を見せ、ラウラに被せた。


「何をする!?」


慌てたラウラにラシムハ当然のように言った。


「今日晩御飯を食べてから、これを被って予め目を闇に慣らして貰いますからね。」


「どういう事だ?」


「敵よりも早く闇に目を慣らして敵の視力が闇に慣れる迄の間に奇襲を仕掛けるんですよ。リーゼも松明の処分が終わったら盗賊達に斬りかかって欲しいんだけどね!」


「なるほど、前後から挟み撃ちにしてパニックを誘う訳ね!」


リーゼが合点がいった顔になるのを確認して更にラシムハは作戦を話した。


「この村のメインストリートは精々幅5Mで両脇には家か葦畑しかないから、そんなところに馬なんかで突っ込んで前後からの奇襲を受けたらパニックになって必ず逃げようとします。敵が後方に逃げようとしたらラウラさんはワザと逃して下さい。後は私が倒しますから!」


「ラシムハも戦うのか⁉︎」


ラウラが驚きながら聞くと当然といった顔になり再び話を続けた。


「追い討ちっていうのをするだけですよ!半数も倒すと盗賊達も村を襲わなくなりますよ。仮に襲ったとしても、只では村人達もやられないようにしておくつもりですから!」


このラシムハの『追い討ち』の意味が分からない2人だったが、ラシムハの作戦に従う事にした。


「じゃあ2人は食べて寝て深夜の盗賊退治に備えて寝ておいて下さい。私はやる事がありますから。」


そう言って食べている2人を残し忙しそうにラシムハは何処かに行ってしまった。


「ラウラさんでしたよね、あの子は兵法か何かを習得しているんですか?」


リーゼが不思議そうな顔で遠慮気味にラウラに聞くと答えたが答えにならない返答だった。


「まぁ生活の知恵だろ!」


そして深夜になった。


リーゼはラシムハが指定した家の屋根の上に登り待機しラシムハとラウラは橋の下に隠れ盗賊達を待って準備を怠らない。


その内に自分達の到来を告げるように馬の足音が轟音を響かせ盗賊達がやって来た事が確認出来た。


盗賊達が村のメインストリートの中央付近に到来したのだろう、1人の男の声が聞こえ調子良く自分本位の要求を語り出した時、多数の松明が次々と消えていくのがラシムハに見えた。


「まだかラシムハ!」


小麦袋を被り憤るラウラを抑えつつ最後の松明が落ちたのを確認しラシムハが指示を出した。


「はい、じゃあラウラさん良いですよ、思いっきりやっちゃて下さい!」


まるで檻から解き放たれた野獣の如くラウラが盗賊達の中に突入し猛然と倒していく。

盗賊達がパニックを起こし慌て出し叫び声が聞こえてくる中で、もう一つのパニックが起こった。


リーゼも前方から突入したのだ。


更に盗賊達のパニックが広がり闇に目が慣れているはずなのに、慌てふためき混乱は止まらない中で、漸く盗賊の頭らしき男の声が聞こえた。


「引け〜、引くぞ!」


そんな叫び声の元、ラウラの横を命掛けで半数が逃げ安心したのも束の間だった。


盗賊達が橋を渡った時、いきなり崩れ落ちたのだ。

橋の行動を調べ、どの部分を壊せば脆くなるのかを予め調べ壊していたラシムハだったのだ。

そして鋭く尖る様に切られた葦が無数に建てられていたのだ。

まるで針地獄のようである。


パニック中で馬をマトモに操れもしなかった盗賊達が次々と川に落ち葦に刺さって死亡又は負傷し、逃げ出せた盗賊達は更に半数の20人くらいであった。


「思ったより楽勝だったな。」


馬を捨て必死で逃げるら盗賊達を見ながらラシムハが思った時、2人が彼女の元にやってきた。


「追撃するか?」


「いや、もう懲りて来ないでしょう。それより負傷している盗賊達を掃討しておきましょう。


そう言われた2人は葦に刺さって苦しむ盗賊達に情け容赦の無い止めを刺して行くが問題が起こった。

葦に刺さりもだえ苦しんでいるのは盗賊達だけではなく彼らの馬も同じなのだ。


この時、やはりだがリーゼの弱点が露出した。

盗賊達を無慈悲に殺せても傷付いた馬達は殺せないでマゴマゴしている。


「さっさとしてよ、仕事終わらせないと。」


「でも‥‥‥」


単にリーゼの関心を買い仲間になるだけの話なら、別にラウラに止めを刺して貰うだけでも良かったが、それでは意味がないのだ。


リーゼの最終目的はグランデルという魔獣を倒す事にあり、その為には人間以外を殺せないでいれば到底生き残れないのだ。

これからの旅において自分1人でも食料一つ入手も出来なければならないのだ。


マゴマゴし馬を殺せないでいるリーゼに声を掛けようとした時、ラウラに先に言われてしまった。


「私は以前は魔獣や魔物とは戦えても人間は斬る事が出来なかった。

そんな時にアベルと出会って私を助けてくれたんだ、私を生き残れるようにしてくれたんだ。リーゼは馬を殺せない、それは優しさでもある。だが何が重要かという事を知らない。人間を殺すのは身を守るのに必要だ。動物を殺すのは自分が生き残るのに必要だ。リーゼ自身が死にたくないと思っているなら馬を殺して証明してみろ。」


そう言われたリーゼは剣を馬に向けるが相も変わらず殺せないでいたが決心したように馬の首に剣を刺し絶命させた。


「人を殺す時は何も考えで出来るのに動物なら何故心が傷むのかな‥‥‥」


普通の感覚の人間なら言っている事は狂人の発言である事をリーゼは泣きながら言った。


この子は何かアベルやメリッサの姉弟でさえ知らない心の傷を持っているのか、ラウラは聞きながら思ったが、敢えて聞かなかった。


この子との旅は今始まったばかりなのだ。

急いで聞かずとも、ゆっくりと聞いていけばいい。


それから3人は盗賊達の装備や私物そして傷付いていない馬を回収し村長の元に参上した。


体格の良い馬2頭を残し盗賊達から回収した装備を村長に渡しラシムハは言った。


「村人から若くて力のある人を選んで装備を分けてあげれば、いざという時に村を守る事が出来ますよ。但し何時また盗賊達が襲ってくるか解らないから、仕事をしている時も装備は持参するように義務付けて下さいね。」


有事が起これば仕事中であっても即兵士になるようにアドバイスをしたのだ。


それから再び残りの馬を金貨20枚で売り捌き村長からの金貨300枚を合わせ金貨740枚を手にする事に成功したのだった。


そして3人は村を出たが、まだ終わっていない最終関門が残っていた。


「じゃあ約束したとおり仕事料を払う。」


ラシムハは今回稼いだ金貨740枚全てをリーゼに渡した。

しかし渡されたリーゼからすれば明らかに自分の為に2人が恩を売っているとしか思えない行動に少し腹が立った。


「馬鹿にしているの?正当な分け前で良いわよ!」


だがニヤッとしたラシムハがリーゼに思いも寄らなかった事を話してきた。


「違う、今回は私達の実力を貴女に示すデモンストレーションをしただけ!どう?そのお金で私達2人をルシアニア公国までの貴女の旅に雇わない?十分に役には立つと思うけどね!元々は貴女が倒した盗賊達の情報とお金から思い付いた事だったからお金は貴女のものよ、それに貴女もこういう契約の方が気分は楽でしょう!」


そうラシムハから言われ悩んだリーゼだったが、やがて一つだけ聞いてきた。


「ラシムハ、私と貴女は女王アルベルタ陛下の前で喧嘩をしたけど、その事について今はどう思っているの?」


「正直に言うと未だに腹が立っている!」


「確か、あの時は私が四回殴って貴女には腕を噛まれたのだったわね⁉︎」


「そうね。」


「じゃあ私を殴って禍根を消さないとね、一緒に旅‥‥‥」


とリーゼが言い終わる前にラシムハは、まるで奇襲でもするかのように掴み掛かり抑えつけ、そして顔面を拳を握り締め思いっきり三回殴った。


「これで禍根無し、リーゼ良いかな⁉︎」


リーゼは血が混じる唾を吐き出すと苦々しくラシムハを見つめながら言った。


「遠慮なく殴ってくれたわね‥‥」


「その方がいいでしょ、違う?」


「確かに‥‥‥」


「契約事には、すっきり対等が一番大事だからね!さぁ、お金にも余裕が出来たから街に着いたら美味しい物でも食べて団結を高めようか!」


そう言ってラシムハは馬を走らせラウラも後に続いた。

リーゼだけは納得したよう釈然としないような、どちらとも付かない顔をしたが、とりあえずは後に続いた。











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