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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第5部 動乱のローヴェ編
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旅立ち

心配、悩み、不安感、そしてストレス‥‥それらが原因の胃痛。


オマケに抜け毛まで起こり始めた‥‥‥


「ストレスは禿げる大きな要因だぞ!」


ストレスが原因で禿げ散らかし今は光る頭を持つゲイシーからのありがたい忠告だった。

言われなくとも解っている。

父のアルが禿げだったから俺も禿げる可能性は十分にあるのだ。


あの日、アルベルタの元から戻り皆に話してから再び夜にメリッサが俺を訪ねてきた。


宿屋の部屋の中で姉弟2人で何を話す訳でもなく、ただ顔をつき合わし聞こえてくるのは互いの溜め息だけの状況だった。


「姉ちゃん、取り敢えずリーゼは食事はとっているのか?」


やっと出た俺の質問にメリッサも難とか答えてくれた。


「出された物は食べているそうだ。」


「そうか・・・・・。」


それから互いの溜め息だけに戻るのだ。


そして何も出来ずにリーゼが旅立つ日がやって来た、その日はカルム王国軍と俺達もオービスト大砦に向かう日でもある、俺達はメリッサと同行する事になっている。

出立する朝、メリッサからの使者に早朝にリーゼが出立したと聞いた。

本当なら俺も見送りにも行きたかったが、俺が行ってリーゼが機嫌を損ねてもと考えて行かなかった。

ただ、お節介かもしれないが何事にも用心して旅をしろとメリッサから伝えて貰った。

俺が言っていたとは伝えずに、あくまでメリッサの言葉としてだ。


最早心配しても仕方が無い、アルベルタの言うようにリーゼが帰って来た時に備えて『萌黄』とかいう兵士達を育てる事に集中する方向に気を注いだ方が良さそうだと考えていた時、レイシアがラウラがいないと伝えてきた。


「いないって、どこに行ったんだよ?」


「さあ何も聞いてないけどアベルさんは聞いてないよね?」


「聞いていないけど・・・・・」


その時は、散歩か買い物にでも行ったのか?その程度だったがカミラが慌てた顔をして走ってきて様相が分って来た。


「アベル大変よ、ラウラの荷物が無い!それと、こんなものが!」


置手紙だった、読んでみるとリーゼが心配だから俺の代わりに追い掛けると書いてある。


「あの馬鹿・・・・・直ぐに追い掛けて連れ戻すんだ!」


俺が昨日、全てを話し懸念も喋った事で俺の代わりを務めようとしてくれる気持ちは嬉しいが、ラウラが行ったところで狩りは出来ても野営地の選択や旅で必要とされる知識がない、お嬢様育ちのラウラではリーゼ1人の現状と変わらない。

言っては悪いが、確かに最終目的のグランデルとかいう魔獣と戦うのには心強くても旅においては心許ないのだ。

それに俺はテアラリ3部族共通騎士の役目上、ラウラを守る義務もある。

何より惚れた女が自分の目の前でないところで危険な状態になるのも嫌だ。


「カミラ、直ぐにラシムハを呼んで来てくれ!メリッサのところに俺達の出立が遅れると伝えて貰う!」


急いで走って行ったカミラだったが困惑の表情で戻って来た。


「アベル・・・・・ラシムハの荷物も無い・・・・・それと、これ。」


俺宛ての手紙だった・・・・・。


内容は何と無く分かったが読んだ。


ラウラと同じ内容だった・・・・・。


「あの馬鹿どもが!追い掛けて連れ戻すぞ!」


俺にはアイヤンガーからラシムハを頼まれた約束もある!危険な事はさせられないのだ。


だがレイシアが少し考えてから俺に言ってきた。


「行かせればいいんじゃないですか。丁度良いじゃないですか、ラウラとラシムハの2人ならアベルさんの懸念も埋められますよ。」


「そんな事出来るか、俺はホリー様からもアイヤンガー様からも頼まれているんだぞ!」


「じゃあ聞きますけどラウラがグランデルとかいうのに負けるって思ってるんですか?ラシムハではルシアニア公国に行けないって思ってるんですか?」


「いや質問の意味がおかしい、それにリーゼの事に2人を巻き込む訳には行かないじゃないか!」


そう反論したがレイシアの答えは、あっさりしたものだった。


「だって2人は自分から巻き込まれに行ったんですよ。考えがあって行ったんだから、やりたいようにやらせればいいですよ。」


「それはそうだけど‥‥‥」


「それに昨日のアベルさんの話じゃ2年でしょ、カルム王国に滞在するのは⁉︎だったら私達は私達でやる事も多いのですから黙って2人を待ってればいいですよ。」


「レイシア‥‥‥えらく余裕だね‥‥‥」


「私は2人を信頼していますからね、グランデルや知らない国に行くなんて大した問題じゃないですよ!それにアベルさんは何でもかんでも背負い過ぎなんですよ!たまには他人に頼るのも良いんじゃないですか!」


信頼か‥‥‥考えつみたら俺は少しレイシアよりも2人を信頼していなかったかもしれない。

背負い過ぎか・・・・・俺はそう思わなくても他人が見ればそう見えるのかな・・・・・。



「それにアベルさん、今更追い掛けても恐らく2人も深夜には出発しているだろうから追いつかないですよ。」


確かにそうだろう。

俺達が気がつかないって事は2人は深夜には出発したはずだ。

もう諦めるしかないのか。


「アベルさん、妹さんを2人に任せたと考えて大船に乗った気で待ちましょう!」


もう俺もレイシアの意見に諦めて従う事にしてメリッサと合流する事にした。


2人が追い掛けたと聞けばリーゼは1人ではないのだから,少しはメリッサも安心するだろう。


だが俺の胃痛は激しくなり禿へのカウントダウンが聞こえた気がした。



※       ※       ※



「1人か・・・・・」


人間は1人になると寂しくも感じるが別の感情も芽生える生き物である。


それは解放感である。


実際、リーゼは原因となった実兄アベルは勿論、実姉のメリッサにも申し訳ない気持ちが充満しており自分が心底嫌な存在だという事に自身が許せなくなっていた。

姉と兄が互いの役目上、殺し合いを演じた事も理解をしていた。


だが、どうしてもアベルが見せた事が許せなく自分が望んだ未来と大きく掛け離れていた事実が許せなかった。


その事でさえ生き別れたアベルの環境を考えれば十分に理解は出来た。


頭では理解出来ても心が許さなかったのだ。


「私って嫌なヤツ・・・・・」


そんな独り言さえ出る自分自身が許せなかった。


「とりあえず1人でグランデルを倒しに行かないとな・・・・・」


止めどなく溜め息が出てきた。


そうこうしながらも目の前には二股道が見えてきた。


右に行けばソビリニア諸王国連合への道である。


ルシタニア公国はソビリニアの東にあり、その南には険しい山脈を挟み東方の国々が存在し西方の人間には、あまり馴染みのない年中雪と氷に覆われた国である。


自分はそんな国まで1人で行かなければならないのだ。

不安感、何より常に離れずいてくれたメリッサと職務以外で離れ離れになる事は寂しくもあった。


だが自分勝手だが解放感も感じていた。


初めての1人旅である。


幼い頃から女王アルベルタの侍従を遂行し、姉メリッサから武道の修練そして侍従として恥じないようにと教育を受けてきたリーゼにとって初めての1人の時間を確保したと感じていた。


何だか肩が軽く感じる。

そう思えた。

勿論、そう思える自分自身に嫌気がするのだが,そして3日後には解放感なんて綺麗さっぱり無くなってしまうのだ。


そしてリーゼは馬を右の道に進めた。


2人が隠れて自分の後を追っているとも全く気づかずに。



※     ※    ※


リーゼが右の道に進んだ12時間前の深夜、コソコソと荷物を担ぎ宿泊した宿屋から外に出ようとする者がいた。

細心の注意を払い足音を消し部屋から出ると外に出て確認するのだ。


置手紙OK,地図OK、お金OK、荷物もOK、全ては昼間に準備をしたから絶対に大丈夫のはずだ。

あとは調べておいた街のはずれ馬屋が早朝から開いていたから、そこで馬を買えばいい。

よし出発だ。

だが、あの子にどうやって近づけばよいのだ・・・・・

自分がルシアニア公国まで一緒に行くなんて言っても嫌がるかもしれない。


肝心な事が考え付いていなかった。


自分は、あの子と喧嘩しちゃったからな・・・・・

どうやって近づこう、どう考えても良い案が思い浮かばなかった。


なるようになるさ、そう自分に言い聞かせ宿屋前からこれまた忍び足で歩いて行こうとした時、宿屋の扉が無神経に大きな音を立て開いた、そして自分の存在を誇示するかのようにドアは大きな音を立ててしまったのだ。


すると荷物を担いだ女が堂々と出て来て忍び足の自分と鉢合わせになった。


「ラシムハ、何してるんだ!?」


大きな声で慌てた顔をするラウラであった。


「ラウラさんこそ何してるんですか?」


そう聞かれたラウラは、あたふたして慌てたような醜態をとりラシムハに大声で頼んで来た。


「アベルには置手紙をしてきたから・・・・・私と会った事は黙っててくれ!」


「置手紙!?・・・・・ラウラさん、まさか!」


「頼むラシムハ、この事は黙ってくれ!」


「ラウラさん声が大きい、取り敢えずはここから離れましょう。」


ラシムハはラウラを連れて少し離れた場所まで行くと詳細を聞いてみた。

照れながら、そして困った顔をしながらラウラはアベルの妹リーゼにルシアニア公国まで同行しグランデルを倒しに行くと自分と全く同じ理由を言った。


「私と一緒じゃないですか!」


「何!?ラシムハは駄目だ!戻れ、行くのは私だけで良い!」


「ラウラさんこそアベルさんから離れたら駄目ですよ。私が着いて行ってきますから!」


「お前じゃ危ない、グランデルとかいうの強いらしいじゃないか!、だから私が行く!」


「ラウラさんこそ、旅でアベルさんが心配している野営の選択や料理なんかも出来ないじゃないですか!」


「ラシムハこそ狩りが出来ないじゃないか!」


そんな不毛な言い合いを続けた結果気が付いた。

2人なら弱点を補えるじゃないか!との結論に達したのだった。


「もう2人で行きますか!?でも良いんですか?行って帰って来ても2年近くですよ、その間にカミラさんにアベルさん盗られちゃいますよ!」


「何故、カミラがアベルを盗るんだ?」


「え、気が付いてないんですか!?見たら分かるじゃないですか!カミラさんが完全に恋する乙女の顔してるの!」


「そうかカミラもアベルが好きなのか。」


「心配じゃないんですか?」


「アベルがカミラを選んだなら仕方が無いさ、だが私はアベルを信じている。」


「・・・・・知らないですよ、月日で男の心は簡単に変わっちゃいますからね。」


「し、アベルを信じるさ!」


それから、2人は馬を買い必ずリーゼが通る道で来るのを隠れて待機し通過したのを確認すると気付かれぬように後を追った。


「でも、どうやって近づきます?あの子結構気が強いですよ。」


「まあ何とかなるさ!しかしラシムハは何故あの子を助けようと思ったんだ?」


そうラウラから聞かれたラシムハは暫らく考えて照れた顔をして言った。


「アベルさんには色々世話になりましたからね、それに顔を4回殴られて1回だけ腕に噛みついただけですよ、旅の間に3回は殴ってやろうと思いましてね!」


「そうか、なら思いっ切り殴ってやれ!」


そう笑いながら答えたラウラだったが、内心では少しだけ新たな旅に出た事を後悔していた。


カミラもアベルの事が好きだったのか、旅に出ている間に盗られるかもな。


しかし自分の事を『好きな女』と言ってくれたアベルを信じると決意したラウラだった。
















第5部 動乱のローヴェ編 完。

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