師匠:備前紅風の過去
1人だけで長い間、旅を続けた。
もう神聖ヤマト皇国から流浪し何年の月日過ぎ去ったのだろうか・・・・・
若い時から鉄や鋼鉱石属性を持つ魔物の骨や鱗や牙を見つめて剣や槍の事だけを考えて生きてきた。
かっての師匠が言った『活人剣』の意味なんて理解も出来なかったが理解をしようとも思わなかった。
ただ破壊力があり殺傷能力のある武器、全てを切り裂く剣、全てを貫く槍、その事以外は興味が無かった。
そんな俺でも評価は受けた、誰もが俺の銘の入った剣や槍を欲しがり高値を生んだ。
気がつけば20人の弟子がいた。
彼らは師である俺から見ても有能だった。
その中でもはアッパス・ロム、ナタシャー・リード、陸奥神威、長船厳馬、そして息子の備前蒼光の5人は抜きんでて有能だった。
アッパス・ロムは神聖ヤマト皇国より遥か西南のエルハラン帝国から来たという男だった。
彼は元々はエルハラン帝国お抱えの鍛冶職人であり単純に技術向上を目的にした弟子入り、いや弟子というよりも互いに異国の技術を教え合う、そんな存在だった。
歳も近く鍛冶の議論をしては喧嘩をし殴り合いをしても酒を飲めば馬鹿騒ぎをして次の日には鍛冶技術について語り合う、そんな友だった。
ナタシャー・リードは変わった女だった。
神聖ヤマト皇国より遥か北西のソビリニア諸王国連合から来た若い女の弓職人だった。
彼女は最初から剣や槍には興味は無く俺の技術を鏃に応用する為に弟子入りした女だった。
一度だけ彼女の国で主流らしいレイピアとかいう細い剣を作ったが美しく素晴らしい出来だった。
だが技術を修めるとさっさと愛想も無く帰国して行った。
陸奥神威、俺の14番目の弟子。
弟子入りした時から天才で剣の神に愛されたような男だった。
だが俺を嫌って逃げた、いや愛想を尽かされたというべきか。
「お師匠は私の理想とは真逆の剣を御作りになられる」
破門にしてやった。
現在は世界を旅する日々を送っていると風の噂で聞いた。
奴には師匠という存在は必要はないだろう。
長船厳馬、俺の1番目の弟子。
才能の欠片も無かったが努力というだけなら彼の右に出るものはいなかった。
探求心が旺盛で基本だけなら俺を遥かに上回った。
現在は俺の推薦で神聖ヤマト皇国の専属鍛冶師のはずだ。
そして俺の息子であり20番目の弟子、備前蒼光。
陸奥神威が神に愛された天才なら、備前蒼光は悪魔に魅入られた天才だった。
若き日の俺以上の殺傷能力と破壊力を常に求めていた。我が息子ながら尊敬にあたる男だった。
だが息子は悪魔に魅入られすぎた。
ある時、神聖ヤマト皇国の西の町イズモの山間部の洞窟に封印されているヤハタノオロチを狙って異国から来た冒険ギルド30人が禁を破り侵入し全滅したと聞いた。
直ぐに皇王アマテラス様とヤマト騎士団が封印をなされ事なきを得たが1つの噂が流れた。
「冒険ギルドの1人が生き残りヤハタノオロチの牙を持ち帰ったらしい、そして1人の若い鍛冶職人が手に入れた!」
息子の備前蒼光が行方不明になった。
だが1年程して備前蒼光は戻って来た、赤黒い両刃の一本の剣を携えて!
そして俺の目の前で所要で出掛けていた長船厳馬以外の弟子15人を惨殺すると俺に言った。
「これで我が剣は完成した、我が兄弟子たちを血肉とし高みの強さを得た!」
「蒼光!貴様、気でも狂ったか!」
「父上、私は正気ですよ!貴方が求めた剣が貴方の子により完成されたのです、お喜びを!」
「求めた剣だと?」
「そう、この剣はヤハタノオロチの牙を使い水減しや積み沸かしには魔物どもの血を使いました!
これ以上殺傷能力を求めた剣がありますでしょうか?」
そんな物まで使ってひたすらに殺傷能力を求めたというのか・・・・・
「父上、いやお師匠!この剣を打ち上げ私は貴方を超えた、もはや貴方に用はない!我が生涯、この剣の真の所有者を求めるのみ!」
気がつくと蒼光は消えていた、周りには弟子の死体が無造作に転がるのみ。
弟子の死体には一線の鮮やかな切り口が残り顔を見ると斬られた事すら感じずに死んだようだ。
弟子たちを荼毘に臥し、後を長船厳馬に託し俺は直ぐに蒼光を追った。
見たと噂を聞けば世界各地を周り探した。
10年目、ついに蒼光を発見した!
そこはヤーマシア大陸中央部に位置するウルバルト帝国の草原の町アッシだった。
粗末な魔物の皮で出来た小屋に寝かされ病魔に犯され痩せ細った蒼光を発見した。
「・・・・・父上」
「もう喋るな・・・・・」
「私はもう満足です・・・・・」
「あの剣はどうした?」
「盗賊に持ち去られました・・・・・」
「・・・・・そうか」
「しかし、いずれ本当の所有者が、あの剣を手にするでしょう・・・・・夢で見ました・・・・」
「夢で?」
「はい・・・・見事な白銀の髪をした女の子でした・・・・」
「白銀?女の子?」
「はい、私に言いました!きっと自分が手にするから安心して休めと・・・・・」
「そうか、良かったな・・・・・」
「はい、父上・・・私は貴方を超えられたでしょうか?」
「おお、勿論だ、遥かに・・・・・」
・・・・・言い終わる前に蒼光は死んだ。
それからは蒼光を荼毘に付し西に向かって再び旅をした。
結局は息子の蒼光や弟子たちを死に追い込んだのは自分だ。
かっての師匠が言われた『活人剣』の意味を理解せず、殺人の剣を作り続けた自分の責任だ。
もう神聖ヤマト皇国には帰れない・・・・・それが自分への罰だ、西の果てで1人惨めな生涯を暮らそう。
それが罪を償う事なのだから、そして生涯をかけて『活人剣』の意味を考えよう!
そして俺はパースというカルム王国の町に辿り着いた。
何の変哲もないどこにでもある町だ。
だがパースには鍛冶屋は無く人々は生活に困っているようだったので包丁作りや鍋修理を始めた、殺人を目的ではない生活に必要とされるものだから。
工房を開いて1年が過ぎた頃、禿げた小男と子供がやって来た。
パースから少し離れたコープ村から来たと言う。
そして子供を俺の弟子にしてほしいと言う。
初めは断った、どうしても死んだ弟子たちの顔が浮かんだからだ。
だが小男は何度断ってもやって来た。
「息子に技術を教えてやってください!」
そんな小男を見ていて蒼光の子供時代弟子たちを想い出した。
真剣に何度も聞いてきた、あの蒼光を想い出した。
そして俺に神聖ヤマト皇国から西の果ての地で21番目の弟子が出来た。
名前を『アベル』といった。
アベルは学校から帰って来る昼になると直ぐに工房に来て修行に励んだ。
どうやら自分の銘の入った包丁を作りたいらしい。
真面目な子供だ、探求心もあるのか分らない事があると直ぐに聞いてきた。
俺は自分の知る全てを聞かれれば答えた。
何事も一生懸命にする、一番弟子の長船厳馬に似たタイプだ。
それに気遣いの出来る子供だ。
一度、どうして剣や槍を作らないのかと聞かれた事があったが言葉を濁すと、それ以上は聞かなかった。
頭の良い子供らしい。
だが・・・・・残念ながら今まで弟子にした中では一番才能がない・・・・・
仕方がないので鍋修理をやらせている・・・・・・
黙っているが、この子がやった鍋修理の補修も夜中に隠れてやっている。
まあ鍛えれば、そこそこの鍛冶屋にはなれるだろう。
だが、この子を通じて『活人剣』とは何かを見つめよう、この最も不器用な弟子と一緒に。
それからの俺はアベルのおかげで罰を受けるところか充実した生活を送っていた。
だが、それも終わりを告げた。
あの備前蒼光の赤黒い剣の情報を持ってかっての弟子で破門した陸奥神威が俺を訪ねてきた。
アドバイスや誤字脱字等があれば、よろしくお願いします。