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キモオタの俺を殺そうとした黒髪美少女は異世界では俺の可愛い妹  作者: 伊津吼鵣
第5部 動乱のローヴェ編
62/219

覚悟

俺達は濃霧を抜け探るようにして、やっとの思いでグラーノの国の主要門の前に着いた。


途中でスノー・ローゼオと出会うというハプニングもあったが無事に到着した。

しかし、ここからが肝心だ。

敵と間違われて弓でも放たれてはかなわない

だから皆を残し霧に紛れ白旗を上げ堀を渡った門の前に俺1人で立った。


「おーい、門番か守備兵の人いないか〜?」


大声で叫ぶと返答があった。


「誰だ?ローゼオ姉妹の使いか?」


「いや違う、グラーノ・ヴェッキオ様に御取り継ぎを願いたい。

私はテアラリ3部族共通騎士アベル・ストークスという者だ、ぜひ御取り継ぎ願いたい。」


「テアラリ3部族だと⁉︎そんな遠い所から来たと言うのか?」


「そうだ、証拠にヴェッキオ商船から提供して貰った証明書もある。疑うなら置いて堀の外側に下がるから取りに来てグラーノ様に見て頂きたい。ここに置いておくぞ。」


俺が堀の外側に下がると少し門が開き警戒しながら俺が置いた証明書を取り素早く門の中に消えた。


2時間後、再び門が開くとグラーノ・ヴェッキオ本人が出て来た。


「おお〜アベルさん、お久しぶりです!」


「グラーノさん、お久しぶりです。」


俺達は再会を喜んだ。

そして門から離れて待機していた7人を呼び寄せテアラリ3部族の3人も再会を喜んだ。


そしてグラーノが申し訳無さそうな顔で言って来た。


「折角来て頂いたのに、このような無粋な雰囲気で申し訳ない。ところで何か御用があって御寄りに?」


「はい、グラーノさんに頼みがありまして……それから悪い報告が一つと。」


俺の顔色から読んだのか直ぐに自分の屋敷に案内すると言う。


門を潜り入って改めて見回すとグラーノの街の全容が明らかになった。

街というよりは半径7KMの六芒星状の城塞都市なのだ。


俺達が潜った門が外部を囲んだ厚さ4M高さ10M程の防御壁、そして20Mに及ぶ堀の更に内側に高さ15M厚さ4Mに及ぶ同じような防御壁をある二重構造になっていた。


街の中央部丘の上にグラーノ・ヴェッキオの屋敷にあり俺達は馬車に乗って案内された。

途中で観る街の風景は外側に農地を確保し内側に街並みを形成していた。


なるほど確かに籠城には適した街だ、と納得するのだが街の兵士達や住人達の表情は暗く籠城の期間を耐えています、そんな感じだった。

籠城戦は攻める側よりも守る側の方がストレスが増大するのだ。

それに籠城戦は援軍の存在があって功を奏する作戦なのだから来るまでの間は耐えるしかなのだ。


屋敷に着くとグラーノ・ヴェッキオの自室に説明する為に俺1人が案内され残りは用意された部屋に案内された。

グラーノの自室には机に座って事務仕事をする30代半ばくらいの女性がいて娘デイジー・ヴェッキオだと紹介された。

デイジーは愛想の良い父親グラーノ・ヴェッキオと間逆のような愛想の無さで真顔で頭を下げただけで実に印象が悪い。


だがそんな事に構ってはいられず、まずはグラーノが必要とする情報を提示する事にする、勿論悪い情報だ。


「グラーノさんエルハラン帝国・イスハラン帝国の援軍を要請されているようですが、その援軍は来ません。」


それまで愛想の良い顔していたグラーノ・ヴェッキオの顔色が一瞬にして変わった。


「どうしてですか?何故エルハランもイスハランも援軍に来てくれないのですか?」


完全に声が裏返り狼狽を隠せない、そんな感じだ。

俺はグラーノ・ヴェッキオに対して危機があってもスマートに対処するイメージを持っていたからグラーノの持つ意外性に驚きつつ話を続けた。


まずはラージから聞いた事ラージが持った疑問そしてラージが推測した事を話し援軍が来ない事を説明した。


「ですから援軍が来ないと思います。それに来たとしても可なり先になるかもです。」


「そんな……我々は援軍を頼りに……」


その時、デイジーが咳払いをした。


「失礼しました。」


一言だけ喋って事務に戻った、やはり愛想も無いから印象が悪い。


だが、その咳払いで落ち着いたのかグラーノが愛想笑いを浮かべながら俺に言ってきた。


「そうですか、残念です。しかし我々はローヴェの将来を憂いて戦を始めました。

不利は承知の上です!それと頼みとは?」


「実は、その情報を下さった人が仕えている姫をグラーノさんの国で預かって頂けないかと。勿論、この戦が落ち着いたらで結構なのですが。」


「勿論です。我らの為に貴重な情報を下さった人の頼みとあらば断る理由など。」


「ありがとうございます、グラーノさん」


「では今日は長い旅をしてお疲れでしょう、部屋と食事を用意させましたゆえ、ゆっくりと休んで下さい。」


「重ね重ねありがとうございます、グラーノさん。」


そして俺はグラーノの自室から退出し与えられた部屋に向かいながら何故か不信感を感じずにはいられなかった。



* * *



「おいデイジー、援軍は来ないって言っているぞ、大丈夫なのか?」


「心配するなグラーノ。

来ない事も計算している。

それに何の為に大金を掛けて城塞都市を築いたと思う。しかし、そんな某略を企てたのはスノーだろうな、あのクソ野郎とことん喰えない奴だ。」


「確かに直ぐには落ちないだろうが俺が見る限りでは兵の士気も随分と落ちてきているぞ。」


「確かに心配があるとすれば兵士達の士気だ。

それより、あの男は信用出来るのか?間違いなくテアラリ島の騎士だろうな?」


「以前テアラリ島で彼と会った。

何より族長の妹達を連れているからな。」


「何⁉︎テアラリ3部族の身内が来ているのか?」


「ああ、彼と一緒に来たんだ。

テアナ族・テリク族・テラン族のそれぞれの部族族長の妹達だ。」


「そうか、では、そいつらを使って兵達の士気は上げておくか!ローゼオ姉妹にもカルム王国の援軍が来たようだからな。」



* * *



次の日、街の中を俺達が歩いていると、やたらと兵士達の注目を浴びた。

どこに行ってもテアラリ3部族の3人が注目を浴びる。

エロイ目で見ているんじゃない。

羨望の眼差しだ。


我々を助ける為に遠いテアラリ島から来てくれた!我々に勝利の女神達が降臨された!


そんな事を叫ぶ者もいる。


何故、俺達しかもテアラリ3部族の3人が来ている事実が広まっているんだ⁉︎

これじゃあ彼女達の意志に関係なく参戦を余儀無くされるじゃないか。



しかも、そんな事に反応してか、はたまたテアラリ3部族としての誇りと戦闘本能に火が付いたのか、3人も興奮気味になっている。


人間誰でも頼られれば嬉しいものである。

それに元々彼女達はグラーノ・ヴェッキオへの手助けをし恩を返したいと考えているから尚更だろう。

現にカミラは、兵士達の歓呼に応えるように手を振り、奥手なラウラも3人の中では3人の中では理知的なレイシアまで応えようとしている。


「マンティス、これは不味いんじゃないか?」


ゲイシーも俺と同様の不安を持ったようだ。


この街に向かっている時から俺には覚悟している事があった。

彼女達がグラーノに恩を返す為に、この戦に参戦を望むなら俺自身も例え故郷カルム王国そして姉メリッサが援軍に参加していたとしてもテアラリ3部族共通騎士として彼女達を守る為に参戦をするしかない。

そんな覚悟を決めていた。

それはゲイシーも同じでカミラを守れとアン・テアナに頼まれている以上は参戦するしかないのだろう。


しかし、それは彼女達の覚悟を持った意志によるものであって貰わねばならないのだ。

雰囲気に流されたような参戦では絶対にダメだ。

そんな全く覚悟の欠片も無い中途半端な状態で戦場に出れば3人は確実に死ぬ。


流され気味の彼女達に注意の一言でもしようとした時、間の悪い事にグラーノ・ヴェッキオとデイジー・ヴェッキオが連れ立ってやって来た。


「申し訳ございません。

兵士達の誰かが3人が街に入ったのを見て勝手に勘違いをしたのかもしれません。」


丁寧に詫びるグラーノ・ヴェッキオだが、俺には3人の事で注意をしようとしていたところを邪魔をされた形になったのだから腹立たしく感じた。


だが、そんなグラーノ・ヴェッキオの謝罪が3人をより興奮させる発奮材料になってしまった。


「謝る必要などありません、このレイシア・テリク、グラーノ・ヴェッキオの日頃からのテリク族への友誼への感謝を今返さん!」


「このカミラ・テアナもグラーノ・ヴェッキオそしてヴェッキオ商船からの御恩を今返す時!」


「このラウラ・テランも亡き父アフマド・ロム以来のテラン族への友情に今応えん!」


最悪だ……完全に雰囲気に酔っている、完全に流された……


急いで俺とゲイシーが止めようとしたがグラーノの方が早かった……


「このグラーノ・ヴェッキオ、テアラリ3部族の慈悲深さに感動と感謝以外を語れません!兵士達の歓呼に応えて下さい!」


近くにいた兵士達が喜びの叫び声を上げると伝染していくように歓呼の声が拡がっていった。

桁まじく叫び声が響き渡り兵士達の発奮材料にされたと同じだ。


「グラーノさん、貴方ね……」


グラーノ・ヴェッキオに掴み掛かろうとした俺をゲイシーが止めた。


「マンティス、もう遅い。僕らも覚悟を決めよう。」


ゲイシーの一言に俺も覚悟を決めた。


それから俺、ゲイシー、ナザニン、ラシムハ、クオンで話し合う事にした。

3人に落ち着けと話しても怒鳴っても逆に興奮が増していくだけだったからだ。

兎に角、舞い上がっている3人を守らねばならない。

戦場では俺がラウラ、ゲイシーがカミラ、クオンがレイシアに張り付いて護衛する事にし、ナザニンはラシムハとドルマを万が一に備えて護衛する事にした。

万が一とは、この戦が負けた場合だ。

脱出する為の要員という意味だ。


「くそ……グラーノ・ヴェッキオに完全に当て馬にされたな……」


来るべきじゃなかった、グラーノ・ヴェッキオの名声に踊らされ頼ればなんでも無事に事が運ぶと信じた馬鹿な自分に腹立たしく思う。まして戦争中の国に飛び込んで例え3人が恩を返す為と言っても止めるべきだった。

馬鹿だ……俺は。


「すまない、俺のせいだ……」


「マンティス、君はテアラリ3部族の共通騎士だ。どんな事になっても3人を守る義務がある。悔やんでいる暇があったら打開策を考えよう。」


「そうだぜ兄貴、とりあえずは俺達で姉さん方を守る、それしかないでしょ!」


「ああカミラとレイシアを頼む。俺はラウラを守る。恐らく3人は興奮して我を失っているから戦場に出ても無茶な行動をするだろう。

こういう戦場ってのは覚悟もなく冷静さを欠いた奴から死ぬからな。2人共頼むぞ。」


そんな話をしながら俺は願っていた。

もう戦場に行くのは仕方がない。

せめて彼女達の頭が冷える時間が与えられる事を願った。


* * *



「デイジー、上手くいったな!あの3人のおかげで落ち込んだ兵士達の士気も完全に回復したぞ!」


「ああ、これで一戦仕掛けられるな。」


「まさかデイジー、撃って出る気か⁉︎」


「そうさ、兵士達の士気が上がっても一戦くらいは仕掛けて勝利を収めないと保てないからな。それに考えてみろ。一戦は勝たないとエルハランもイスハランも援軍に来ないぞ。

勝てる見込みのない戦場に誰が来るものか。」


「しかし、正面から倍以上の兵力のローゼオ姉妹と……」


「誰が正面からやると言った。霧に紛れての奇襲を仕掛けてやるのさ、地理的優位ならこちらが上だ!上手くいくと本陣を突いてスノーの首も獲れるかもだ。」


「なるほど奇襲か!それなら上手くいくかもだ。しかし、あの3人はどうする?戦場に出て貰うのか?」


「彼女達は我々の勝利の女神だ。

出て貰うに決まっているだろうが。

だがテアラリ3部族には、まだまだ儲けさせて貰わねばならないから先陣には配置せずにおこう、死なれてテアラリ3部族から恨まれるのは不味いからな。」


「いつ奇襲を仕掛ける?」


「明日だ。今日は晴れたからな。こんな日の早朝は決まって濃霧になる。それに鉄は熱い内に打てとも言うからな。」



* * *


俺の願いは届かなかった。

グラーノ・ヴェッキオから早朝に奇襲を仕掛けると言ってきた。


全くと言って良い程、興奮の冷めていない3人は自分の武器を手にし立ったまま睡眠も取らずに過ごそうとする。


「お前ら、いい加減にしろ!寝ないと戦場で絶対に死ぬぞ!」


怒鳴っても逆に3人は噛み付いてきて話にならない。

3人とも殴り飛ばしてやる、そう思った時だった。


「マンティス、君も寝るんだ。君自身も汚物3人組に引っ張られて興奮して冷静さを欠いているぞ。

ほらクオンを見ろよ、もう夢の中だ。」


そうゲイシーに促されクオンを見ると鼻の下を伸ばして笑顔を浮かべて眠りについていた。


きっとエロイ夢を観てやがる……


「こういうのを冷静って言うんだよ、僕らもクオンを見習おうよ。な、マンティス。」


そうだ、俺が興奮し冷静さを欠いてはならないのだ。

テアラリ3部族共通騎士として一番冷静にいなければならないのだ。


それから俺はゲイシーとクオンに感謝して眠りについた。

絶対に3人を守ると覚悟を決めて。























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